2020年以降、人事界隈でバズワード化した「ジョブ型雇用」。従来の日本型雇用である「メンバーシップ型雇用」からの脱却策として大いに注目されているが、その定義や使われ方は多岐に及び、実像が正しく認知されているとは言い難い状況だ。本講演ではジョブ型雇用を多角的に考察し、メンバーシップ型雇用の単純な対義語ではないジョブ型雇用の現在の姿を明らかにするとともに、日本の企業とジョブ型雇用の「正しい付き合い方」を探る。

講師

  • 浅野

    浅野 浩美 氏

    事業創造大学院大学 教授/特定非営利活動法人日本人材マネジメント 協会 執行役員

    筑波大学大学院ビジネス科学研究科修了。博士(システムズ・マネジメント)。厚生労働省で、人材育成、人材ビジネス、キャリアコンサルティング、キャリア教育、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案に従事したほか、栃木労働局長として働き方改革を推進。高齢者活用に向けた人事制度見直しのためのマニュアル(『65歳超雇用推進マニュアル』)等を執筆。日本人材マネジメント協会執行役員。社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、2級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー等。



  • 山本

    山本 紳也 氏

    株式会社HRファーブラ 代表

    元PwCパートナー/上智大学 国際教養学部 非常勤教授/早稲田大学 国際教養学部 非常勤講師/IMD Learning Manager & Business Executive Coach。 メーカーにソフトウエアエンジニアとして勤務後、バブル期にアメリカ留学を経て、組織・人事関連のコンサルティング歴30年(内PwC15年)。1990年~2000年代、成果主義といわれた職務給(ジョブ型)やコンピテンシー制度の導入を手掛け、その後、多国籍間M&Aにおける組織統合人事、組織開発、グローバルリーダー開発、管理職研修等、組織人事に関わるコンサルティングや研修に従事。著書に、『外国人と働いて結果をだす人の条件』(幻冬舎)、『人事の本気が会社を変える』(経営書院)、『新任マネジャーの行動学』(経団連出版)など。



  • 江夏

    江夏 幾多郎 氏

    神戸大学経済経営研究所 准教授

    一橋大学商学部卒業。博士(商学)。名古屋大学大学院経済学研究科を経て、2019年9月より現職。専門は人的資源管理論、雇用システム論。現在の主な研究テーマは、(1)「公正な処遇」を可能にする制度設計と現場の運用、(2)情報化が進む人事管理におけるリアリティ(現実性)の再構築、(3)人事管理における実務界と研究界の関心の相違、(4)人事管理の実務の改善に資する研究者の臨床的関与のあり方。主著に、『人事評価における「曖昧」と「納得」』(NHK出版)『コロナショックと就労』(ミネルヴァ書房)。主な論文に、「人事システムの内的整合性とその非線形効果」(第13回労働関係論文優秀賞)。



  • 高橋

    高橋 一基 氏

    特定非営利活動法人日本人材マネジメント協会 執行役員

    日系企業勤務。2019年4月より日本人材マネジメント協会執行役員。

「ジョブ型雇用」と正しく付き合うために――有識者4人の切り口から「メンバーシップ型雇用」との二元論では見えてこない実像を探っていく

イントロダクション~「ジョブ型雇用」について論じる前に~
事業創造大学院大学 教授/特定非営利活動法人日本人材マネジメント 協会 執行役員 浅野 浩美氏

2013年に生まれ、2020年にバズワード化した「ジョブ型」

まず最初に、ジョブ型雇用にまつわる様々なことについて考える前に、皆さんの頭の整理をお手伝いさせていただきたいと思います。近年、「ジョブ型」という言葉を本当によく耳にするようになりました。一体いつから使われるようになったのでしょうか。「ジョブ型」という言葉の生みの親は、労働政策研究・研修機構研究所長の濱口桂一郎氏です。2013年8月に刊行された濱口氏の著書『若者と労働』に初めて「ジョブ型」という言葉が登場しています。濱口氏は「日本型雇用システムの本質は職務=ジョブの定めのない雇用契約である」とし、それを「メンバーシップ型雇用」と名付けました。ジョブ型雇用はメンバーシップ型雇用の対義語として、ベストセラーとなった『若者と労働』の中で使われ、その直後から「労働経済白書」に引用されるなど、人事の世界ではよく知られる言葉になりました。

しかし、すぐに、世の中の人たちの多くが知る言葉となったわけではありません。日経テレコンのデータによると、「ジョブ型」という言葉が、バズワードのようになって、広く一般的に知られるようになったのは、2020年の夏以降です。日経テレコンによると、2013年から2017年にかけては、まだ「ジョブ型」は一般的な言葉ではありませんでした。新聞記事では、「限定」、「正社員」などと言った言葉と一緒に掲載されていましたし、「労働経済白書」でも雇用形態別の人材マネジメントのくだりで登場しています。非正規雇用問題への取り組みの一環として、「ジョブ型正社員」、つまり時間・勤務地・職務のいずれかが限定された正社員を指す言葉として使用されるケースが主でした。

この頃の政府の雇用に関する取り組みをみてみると、まず、2013年に閣議決定された「日本再興戦略」において、職務などに着目した「多様な正社員」モデルの普及・促進を図る旨が記載されています。2016年には「ニッポン一億総活躍プラン」が策定され、多様な働き方が可能となるよう、社会の発想や制度を大きく転換していくこととなりました。こうした動きが、働き方改革につながり、さらに、2018年に働き方改革関連法が成立し、同一労働同一賃金というかたちで、正規・非正規雇用のルール整備へとつながってきたわけです。

2020年以降は、コロナ禍でテレワークなどが進む中、“従来のメンバーシップ型では専門性が高まりにくい”、“OJTに頼っていては技術革新にキャッチアップできず生産性が向上しない”、”これまでの人事制度では年功的になりがちで中高年の賃金が割高となってしまう”、などといった声が増え、「ジョブ型採用・ジョブ型雇用」を進めて賃金改革・雇用改革を進めるべきだ、という議論が企業の間で交わされるようになりました。新聞記事でも、「評価」や「テレワーク」、「生産性」などといった言葉とともに掲載されることが多くなっています。コロナのずっと前から、「専門性の高い人材の確保」や「生産性の問題」などはあったわけですが、これまでどおりでは変化に対応できないことがいよいよ明らかになり、もう、これまでのやり方を変えるしかない、というふうになったわけです。2021年1月に経団連が取りまとめた「2021年版 経営労働政策特別委員会報告」でも、ジョブ型雇用に関して、多くの紙面を割いて記述されています。

「ジョブ」に目を向けようという動きは、今回が初めてではない

この講演では、私たちは「ジョブ型」の今後について考えていくわけですが、その際にもうひとつ押さえておくべきことがあります。それは「ジョブに目を向けよう」という動きが、最近になって急に始まったものではないということです。

厚生労働省は、従来からジョブ型雇用的な施策をたくさん行ってきました。各種の職業訓練施策、過去の職務履歴を記載してキャリア形成に役立てるジョブカード制度、職務を行う能力を評価するための職業能力評価制度、ハローワークで行っている職務経験が前提となる中途採用など各種の就職支援策などが、それにあたります。その一方で、バランスを見ながら、現実の社会に合った形でメンバーシップ型的な施策、たとえば労働契約法や、コロナ禍で大きな役割を果たした雇用調整助成金制度なども実施してきました。さらに昔にさかのぼれば、政府や経営側が職務給制度を推し進めようとしていた時代もありました。このほか、ホワイトカラー以外に目を向ければ、人事制度の方はともかく、看護師など、もともと「ジョブ型」っぽい人たちは昔からいたわけです。

こうした流れの中で、政府の基本方針をみると、「ジョブ型」に関して少し踏み込んだ文言も記載されています。2021年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2021」には、ジョブ型雇用の推進、メンバーシップ型からジョブ型への雇用形態の転換といった文言が書かれています。政府はジョブ型雇用について「職務や勤務地、勤務時間などが限定された働き方を選択できる雇用形態」と定義しており、これは2013年以降変わっていません。
2020年以降、「ジョブ型」は民間主導の面がありつつ、政府は政府で言及している、という何だか複雑なことになっている、ということについても頭に入れておくことが必要かと思います。

以上を「イントロダクション」とし、この後ご登壇される皆さんのお話の理解を深める一助としていただければと思います。
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