神障がい者と一緒に働きやすい職場には、何が求められるのか?
この数年、多くの企業で障がい者と健常者が一緒に働く機会が増えています。一方で、障がい者のことや、障がいそのものをよく知らないために、一緒にはたらく従業員の中には戸惑いや悩みを抱える人も少なくありません。中でも、精神障がいの従業員と一緒に働く人から、「一緒に働くのにストレスを感じる」という声が挙がるケースが多いようです。お互いが気持ちよく仕事をできるようにするには、どのような職場づくりをすればよいのか、そのポイントについて考えていきたいと思います。

なぜ、精神障がい者の雇用が敬遠されるのかをひもとく

「障害者雇用率」が2.3%に上がり、多くの企業が障がい者雇用に目を向けるようになりました。企業の障がい者雇用は、身体障がいに始まり、知的障がいの雇用へと広がってきました。そのため、働きたいという身体や知的の障がい者は、すでに職に就いているケースが多くなっています。

一方、精神障がい者が障がい者雇用としてカウントされるようになったのは、平成18年からと最近です。また、精神障がいの方の職場定着は、他の障がい種別よりも難しいと言われてきました。加えて、すでに社内にメンタル面でサポートの必要な社員がいるなどの理由で、精神障がい者を敬遠する企業がありました。

そんな状況にありながらも、精神障がいの職場定着の取り組みは進み、雇用ノウハウが蓄積されつつあります。また、新規に採用を行うと精神障がいの応募が多いことなどから、精神障がいの新規採用そのものは増えています。

では、なぜ精神障がい者を雇用している企業から、定着が大変と捉えられることが多いのでしょうか。その問題がどこにあるのか、過去にヒアリングした企業の声から考えてみたいと思います。

・障がいの特性がわかりにくい
障がい者雇用をすでに実施している企業の中でも、身体や知的と比較されてよく言われることが、必要としているサポートがわかりにくいという点です。身体や知的であれば、外見や様子から「何らかのサポートが必要なのでは」と想像つきやすいのですが、精神の場合、表面上それらがわからない人も少なくありません。

採用時などに配慮してほしい点などを聞いたとしても、合否に影響するのではないかと考えて、必要な配慮を伝えてこない場合もあります。このようなケースでは、さらにそれを職場で把握することが難しくなります。

・体調の波があり、周囲の人が仕事の影響を受けやすい
また、障がいの症状として体調や気持ちに波があり、それが本人だけの問題で終わるのではなく、他の人の仕事にも影響を受けやすいことがあげられます。

体調が安定しないケースでは、毎月忙しい時期に欠勤があり、一緒に働いている同僚がフォローする状況が続いている職場もありました。一緒に働く社員は、自分以外の担当以外の仕事量が増え、その負担が長期間に渡るにつれ不満が増大していったようです。

このような状況でありながら、同僚からのフォローに対して本人からはお礼がなかったことや、服薬などの影響もあったのかもしれませんが「仕事中に眠そうにしている」、一緒に働いているのに「協力しようとする姿勢が見られない」ということもありました。そのことが一緒に働いている同僚の不満をさらに大きくさせてしまったようです。

職場での問題を起きにくくするためにできること

精神障がいを雇用しているからといって、今見てきたようなケースが頻繁に起こるということはありません。それでも他の障がい種別の方よりも精神障がいの雇用に課題を感じている企業は多くあります。そこで、どのような対応ができるのかを紹介したいと思います。

・障がい当事者一人ひとりを知る
障がい当事者の状況を把握して、「何ができるのか/できないのか」を知っておく必要があります。同じ障がい名、診断がついていても、個人によって症状は違います。特に、精神障がいでは、障がいの特性が表からに見えにくいので、「一人ひとりを知ること」、「得意なこと/苦手なこと」をしっかり把握することが大切です。

また、企業としては、仕事にどのようなレベルを求めるのか、それに達していないのであれば、どのような配慮や別の手段が効果的かを考え、取り組むことができるでしょう。特に障がい当事者の中には、特性としてコミュニケーションが苦手だったり、場の雰囲気を掴むのが得意でなかったり、具体的に伝えないと理解しにくい人もいます。お互いが意思疎通を図ろうとすることで、お互いの考えや気持ちがわかり、改善方法を見つけやすくなります。

・障がい当事者に組織のルールを明確に伝える
障がい者雇用で働きたいと思っている人の中には、障がい者だから配慮してもらえるという過大な期待をしている人が一定数います。そのような人に対しては、組織としてのルールを伝えていくことも必要です。

企業は、障がい者の学校でも、福祉施設でもありません。障がいの有無に関係なく、「組織として求めること」に対して基準をクリアできるかを見て、その上で障がいに対する配慮を示していくことが大切です。働く人にとって雇用されることは、組織に必要な労働やスキルを提供することが求められます。そして、賃金はその対価として支払われます。つまり、どんな種類の障がいがあろうと、この雇用関係の原理を正しく認識する必要があるのです。

「障がい者だから基準を満たしていなくても仕方ない」、「周囲がフォローすることが当たり前」という雰囲気を一度作ってしまうと、一緒に働く同僚たちが負担に感じたり、不満がでたりしますし、働く障がい者にとってもそれが当たり前となってしまいます。雇用継続をしていくためには、組織のルールを明確に伝え、遠慮するのではなく率直に話し合うことが必要です。

また、このような状況を起きにくくするためにも、事前に職場実習をすることをおすすめします。



・一緒に働く社員に障がい特性などの情報を事前に伝えておく
組織で一緒に働く時には、本人の仕事そのもののスキルも大事ですが、一緒に働く仲間との関係性も重要になってきます。また、同じ情報でも、事前に知っておくのと、問題がでてきてから言い訳のように聞かされるのでは、受け取る側も大きな違いがあります。

周囲の社員の協力や配慮を得るためには、障がい者本人の了承を得た上で、障がい特性や指導上の配慮事項等の説明をしておくことができるでしょう。特に、精神障がい者や発達障がい者は、見た目では障がいが分かりにくい場合があります。そのため説明が不十分であると、周囲から「なぜ、特別扱いをしているのか」「普通に見えるが、本当に配慮を必要としているのか」と思われかねません。

一度このような感情や疑問を感じさせてしまうと、一緒に働くときに気持ちよく仕事ができませんし、新たな誤解を生んでしまうことも少なくありません。そこで、現場の社員や直属の上司だけでなく、社内の社員や、関わる部署の人にも必要な範囲で、状況を説明しておくとよいでしょう。

・困った時に相談しやすい雰囲気をつくっておく
困ったときに相談しやすい雰囲気をつくっておくのは、障がい当事者にとっても、一緒に働く社員にとっても大切なことです。

障がい者の離職の原因として多く挙げられるものが、「職場の雰囲気・人間関係」です。このように感じる背景には、「職場で能力が発揮できない環境に配属されている」「必要な配慮をしてもらっていない」と考えたり、そのことを相談したりできる場がなかったのかもしれません。

合理的配慮は、障がい当事者が企業側に必要な配慮を申告することが求められてはいるものの、実際には、当事者が企業側に遠慮していることも多くあります。また、不利な扱いを受けたり、周囲の社員の人に色眼鏡で見られたりするのではないかと不安に思い、障がいを開示することや、配慮について抵抗を感じる障がい者も少なくありません。

一方、障がい者と一緒に働いている社員も仕事での負担が増えたり、どのように対応してよいのかわからずに戸惑ったり、悩んだりすることがあります。中には、一緒に働く社員もストレスを感じて体調を崩してしまうかもしれません。

このような状況を避けるためには、障がい者雇用に関して悩んでいることや、困っていることに対して、相談できる体制を築いておきます。具体的には、定期的にヒアリングしたり、アンケートなどで状況を確認したりするのが第一歩になるでしょう。また、改善すべき点が見つかったのであれば、それをフォローする体制をつくることも必要です。

人事部門がどのようにサポートできるのかについては、こちらも参考にしてください。

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