昨年から「ジョブ型雇用」の流れが一気に広がり、日立や三菱ケミカル、川崎重工などの大手企業が次々と方向性の転換を打ち出してきています。ここ数年の「日本型雇用制度」終焉の流れから、「ジョブ型雇用」を本格的に検討する企業も多いのではないでしょうか。一方で人事担当者は、新しい雇用制度をどう導入すればよいか頭を悩ませています。そこで今回は、「日本企業に合うジョブ型雇用」をテーマに、導入の実態に迫ります。

日本企業における「ジョブ型雇用」の実態とは

人材紹介大手のリクルートキャリアは、昨年12月に「ジョブ型雇用」に関する調査を行いました。この調査は、全国の約1,200名以上の人事担当者を対象に、「ジョブ型雇用」の認知度や検討状況を調査したものです。調査結果によると、人事担当者のうち「ジョブ型雇用」を「知っている」とした人は54.2%、「知らなかった」とした人は45.8%でした。大手企業では認知率が高い傾向だったそうですが、日本企業全体ではまだまだ知らない人事担当者が多いようです。

人事担当者でさえ「ジョブ型雇用」を知らない人が約半数もいるのですから、日本での本格普及はまだまだこれからという状況なのでしょう。

一方、大手人事コンサルティング会社のコーン・フェリー社も、昨年4月から5月にかけて、日本企業74社に「ジョブ型雇用の導入状況」について調査を行いました。その結果、従業員数1,000名以上の大手企業のうち7割程度が、導入、または導入に向けた検討を進めているということでした。実際に、日立をはじめとした日本を代表するグローバル企業では、すでに管理職向けにジョブ型雇用の導入が完了しているという企業もあります。加えて日立や三菱ケミカルなどでは、「2021年以降は一般社員にもジョブ型雇用を導入する」と発表しています。

「ジョブ型雇用」の導入や検討は、大手企業と中小企業、そしてグローバル企業とドメスティック企業の間で、格差が生じ始めているという状況なのです。

日本企業が「ジョブ型雇用」に一気に踏み出せない背景を探る

ニュースでは日本にも「ジョブ型雇用時代」が来たことを大々的に報じていますが、本格的な到来はまだまだ先のことになると考えられます。少なくともあと5年ほどは、「メンバーシップ型雇用」が主流になるのではないでしょうか。ではなぜ、「ジョブ型雇用」が日本で広まらないのかを考えてみましょう。

・人事担当者が「メンバーシップ型雇用」しか知らない
先ほど挙げたリクルートの調査結果の通り、日本企業の人事担当者でも「ジョブ型雇用」について「知っている」人は半分程度しかいません。外資系企業の人事担当者なら知っているのが当たり前ですが、これまで日本企業では「メンバーシップ型雇用」が中心だったため、知らなくて当然といえば当然です。

私自身も、周りの日本企業の人事担当者から「ジョブ型雇用ってどうしてます?」、「実はジョブ型雇用についてよくわからなくて」という相談を受けることがあります。昨年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、勉強会もなかなか実施できない状況でした。そのため、日本企業の人事担当者の知識が追いつくには、しばらく時間がかかりそうです。

・海外とは大きく異なる日本の雇用文化
ニュースでは「企業がジョブ型雇用を導入したこと」だけが全面的にフォーカスされていますが、導入には労働市場の大きな転換が必要です。欧米でジョブ型雇用が主流となっているのは、雇用の流動性が高く、「転職=キャリアアップ」という文化が形成されているからです。例えばアメリカでは、一つの企業に対する勤続年数は平均4年程度と言われており、仕事を辞めて転職することが当たり前なのです。欧米では、優秀な人材が常に市場に出回っているからこそ、「ジョブ型雇用」が機能していると言えるでしょう。

・属人化
日本企業に「ジョブ型雇用」の導入を阻む一番の大きな壁が、仕事の「属人化」だと言えます。「メンバーシップ型雇用」は、人に対して仕事をアサインする雇用方法でした。そのため、一人の従業員が幅広い業務範囲に対応できるメリットがある一方で、「その人にしかできない仕事」や「その人しか知らない仕事」を多く生み出しました。結果として、「ジョブ型雇用」を導入しようとしても、仕事を細かく定義することができない状況が発生しています。結局、従業員自身にジョブディスクリプションを書かせ、実態は「メンバーシップ型雇用」なのに、表面的には「ジョブ型雇用」を導入している、という企業もあるそうです。

このように、「ジョブ型雇用」の本格的な導入には、まだまだ大きな壁があります。もし本当に日本で普及させたいなら、「ダイバーシティ」のように政府と企業が力を合わせる必要がありそうです。

勇気をもって「人材をリリースする」ことも人事の役割

「ジョブ型雇用」を普及させるには、何よりも人事担当者の意識改革が必要です。そもそもなぜ「ジョブ型雇用」が必要かといえば、時代の変化と働き方の変化が背景にあります。ダイバーシティの推進により、日本でもどんどん価値観の多様化が進んでいます。副業をする人も増え、単にお金のためだけではなく、自己実現のために働く人も増えました。

加えて、企業では社員の高齢化が進み、日本型雇用を続けてきた企業では「シニア層」が大量に定年退職することで、多くの知識や技術が失われる危機に直面しています。「ジョブ型雇用」の導入を通じて社内の仕事と業務プロセスを整備し、「属人化」の状況を解消しなければ、優秀な人材の離職や定年退職によってノウハウが失われてしまうのではないでしょうか。また、以前よりは転職者が増えた現代では、優秀な人材が転職しやすい状況が整ってきています。

日本の雇用文化を変えるには、私たち人事担当者が、優秀な人材を市場から獲得するだけではなく、時には「リリースする」勇気も必要です。実際にリクルートは、「優秀な人材を育ててリリースする」方法で成長してきました。リクルートを卒業した人材が各方面で起業することで、「この会社に入れば自己実現の可能性が広がる」と考える多くの優秀な人材が入社します。つまり、優秀な人材を「抱え込む」のではなく、「輩出する」ことを中心とした人材管理を考えれば、逆説的ですが優秀な人材を獲得しやすくなるのです。

頭から「ジョブ型雇用はうちの会社には合わない」と考えるのではなく、まずはジョブ型雇用を通じて「自社の雇用管理のあり方」を見つめなおしてみてはいかがでしょうか。
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