「電子契約」(オンライン契約)とは、電子ファイルをインターネット上で交換して電子署名を施すことで契約を締結し、企業のサーバーやクラウドストレージなどに電子データを保管しておく契約方式を意味する。働き方改革による業務効率化に向けて導入する企業が一部見られたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うテレワークの普及により、現在「脱ハンコ」の動きが加速している。政府がガイドラインを公表したほか、各省庁も押印廃止に向けた検討を進めている。本記事では、近い将来必須となるであろう「電子契約」について深掘り、関連する法律の中身や導入のメリット、ポイントなどについて解説していく。

「電子契約」とはどのようなものか?

「電子契約」とは、書面ではなくインターネットや専用回線を用いて電子データで作成する「契約方法」を指す。リモートワーク推進に伴い、「ハンコレス化」、「ハンコ出社撲滅」や、紙資源や保管スペースの削減による「コストカット」の流れを受け、契約行為の電子化が現在進んでいる。

日本は紙やハンコを使う文化が根強く、「契約書」という字面からも、「紙」や「印刷物」をイメージしがちだ。しかし、契約書とはそもそも「契約の内容にお互いが合意したことを証明する」ための書類なので、合意に達し契約を結んだことが証明できれば、必ずしも紙などで締結・保持しておかなければいけないものではない。

新型コロナウイルスの感染拡大によってテレワークが浸透したことを受け、政府は2020年6月19日に押印に関する法解釈について示したガイドライン『押印についてのQ&A』(※)を公表した。この中に、次のように明記されている。

・私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
・特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。

『押印についてのQ&A』では、押印しないことで、文書の成立を証明する手段についても触れられており、確保すべき内容に次のようなものを挙げている。

(1)継続的な取引関係がある場合
●取引先とのメールのメールアドレス・本文及び日時等、送受 信記録の保存(請求書、納品書、検収書、領収書、確認書等 は、このような方法の保存のみでも、文書の成立の真正が認 められる重要な一事情になり得ると考えられる。)

(2)新規に取引関係に入る場合
●契約締結前段階での本人確認情報(氏名・住所等及びその根 5 拠資料としての運転免許証など)の記録・保存
●本人確認情報の入手過程(郵送受付やメールでの PDF 送付)の記録・保存
●文書や契約の成立過程(メールや SNS 上のやり取り)の保存

(3)電子署名や電子認証サービスの活用(利用時のログイン ID・ 日時や認証結果などを記録・保存できるサービスを含む。)

上記は、ツールや技術の進歩によって、多様化が進むことも考えられる。電子契約を進める場合は、やり取りの手法を問わず関係する情報はしっかりと確保しておいたほうがよいだろう。

※: 押印についてのQ&A(内閣府・法務省、経済産業省)

「電子契約」は税法や民法に必要な要件がある?

「契約書」が法律書類であることから、契約書には法的に満たしていなければいけない「要件」がある。電子契約書では、「税法」と「民法」に必要な要件があるので、それぞれチェックしていく。

●税法(税務上)の要件

電子署名を利用することで、基本的には紙の契約書を電子化することができる。「電子帳簿保存法」では、税務申告に利用する証憑のデータを電子で保管するために、以下の要件を満たすことが必要と定められている。

・タイムスタンプの押印か、改変・削除防止の規則を整備する
・必要なときに即座に表示/印刷できる
・システムの説明書が備え付けられている
・日付・額相・相手先名といった条件検索できる


これらの要件を満たさない場合、契約締結業務自体を電子化しても、税務上は契約書をデータのまま保管できず、紙でも保管しておかなければならなくなる。せっかくコスト削減、ペーパーレス化を進めても二度手間が発生するリスクがあり、電子化のメリットを十分活かせない。そのため、要件を満たすことが重要になる。

●民法の要件

紙の契約書では、手書きの署名や印鑑(社判や個人印など)を捺印するのが一般的だが、これは、「契約者本人が自分の意志で作成したものである」と証明するために必要な行為だ。「電子契約」の場合、書面契約の「手書きの署名」や「捺印」に当たるのが「電子署名」である。民法上の契約書の要件を満たすには、この電子署名の利用が必須だ。

・電子署名とは
電子署名は本人しか作ることができない。暗号技術を利用したプログラムを用いて作成した情報で、生成には「秘密鍵」という作成者本人しか持っていないものを利用する。電子署名が正規のものかどうかの検証のために「電子証明書」があり、民間機関が発行している。これを利用することで、誰が作った電子署名であるかを特定できる。なお、電子契約に際し、電子署名ではない署名(単に電子印を付したPDF電子ファイルなど)で代替しようとしても、文書の書き換えが紙と比べて容易にできてしまうため、要件を満たしているとはいえないので要注意だ。

「電子契約」には4つの法律が関わっている

「電子契約」を導入する上でおさえておきたいのが関連する法律だ。大きく分けて4つ紹介したい。

・電子帳簿保存法
主に国税関係の帳簿を電子データとして保存する手段などを定めた法律。正式名称は、「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」。従来、企業や個人事業者が管理していた会計記録は、「紙」での「7年間保存」が義務付けられていたが、真実性や可視性の確保などの一定の保存要件を満たせば、帳簿書類を電子データで保存することができる。

・電子署名法
「電子署名」が署名や押印と同等の法的効力を持つことを定めた法律。民事訴訟法の「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」という文言(第228条4項)に対応して、同法では、「電磁的記録であって情報を表すために作成されたものは、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する」(第3条)としている。正式名称は、「電子署名及び認証業務に関する法律」。

・IT書面一括法
顧客保護の観点から、事業者に書面の交付や書面による手続を義務付けている法律について、「顧客からの承諾」を条件に、書面の代わりに「電子メール」といった情報通信技術を使って提供することができる、と定めた法律。IT化が進展する中で、書面の交付や手続を義務づけている各種の法律(証券取引法、割賦販売法、下請代金支払遅延等防止法など)が電子商取引の阻害要因にならないよう、電子的手段(電子メールやFAXなど)を利用することを認めた。正式名称は、「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」。

・e−文書法
財務・税務関係の帳票類や取締役会議事録など、「商法」(その関連法令をふくむ)や、「税法」で保管が義務づけられている文書を、紙だけでなく電子化された文書ファイルで保存することを認めた法律。「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」の総称。

「電子契約」を実現するにはどのような方法を用いればよいか

「電子契約」を実現するには大きく分けて2つ方法がある。

・文書作成アプリで作る
「Microsoft Word」や「Adobe Acrobat」など、一般的な文書作成アプリで契約書を作成することができる。単発での契約業務には、必要な条項などがカスタマイズできるので有効だ。ただし、メールの送信や保存、閲覧の際にはどこに格納されているのか、いつやりとりをしたかなどを確認する必要があるため、手間がかかる場合もある。

・「電子契約」専用のシステムを使う
クラウドの電子契約サービスが増えており、文書作成アプリを使ってイチから文書作成したり、自社でシステムを開発したりするより、一般に提供されているサービスを利用する方が簡便だ。

「電子契約」のメリットはコスト削減やコンプライアンス遵守

「電子契約」を導入するうえで気になるのがそのメリットだ。大きく分けて3つ紹介する。

(1)コスト削減

紙・印刷費、郵送費用(発送・返送の切手代など)、保管にともなう資材・スペース、管理に関わる人件費などといった、紙の契約書に関する経費を削減できる。

(2)コンプライアンス遵守

誰がどんな契約書の締結を進めているか、あるいは何を持ち出したかを把握でき、サービスによってはさらに進んで、誰が閲覧したかのログも確認することができる。

また、自然災害などの有事の際、パソコンの汚損や焼失・紛失が起きても、遠隔地にバックアップしておけば、コピーデータを復旧でき、完全になくなることがほとんどない。そのため、災害や人為的ミスによる契約書の紛失・情報流出のリスクを軽減できる。

(3)業務効率化

契約締結から保管にかかる業務を大幅に削減でき、印刷や郵送が不要で、契約書のやりとりにかかる時間も大きく短縮可能。例えば、監査の際の契約書の確認も、サービスの検索機能を利用すれば容易になる。また、電子署名ができれば、リモートワーク中にわざわざ押印のためだけに出社することもなくなり「ハンコレス」が実行できる。

「電子契約」のデメリットは?

一方、「電子契約」にはどのようなデメリットが発生するのだろうか。

(1)業務フローの変更が必要

今まで紙で行っていた契約書締結や保管業務に関するフローは完全に変更することになる。導入前には、関係者・関係部署への説明や、説明資の料作成、導入後も、社内外への業務フロー変更の周知が必要になる。そのため、電子契約に切り換えてからしばらくは付帯業務が発生する可能性が高い。

(2)相手先にも仕様変更の合意を得なければならない

自社だけでなく、契約相手である取引先もサービス利用に合意してくれないと、電子契約は行えない。そのため、関係者への説明、社内規則の整備が必要なため、担当者は作業が増えてしまう場合がある。また、サービス利用料にも注意が必要だ。導入した企業以外(取引先)は無料とするサービスは多く、利用料が不要なサービスを選んだ方が取引先の理解を得やすいだろう。

(3)形式が違う契約書が混在してしまう場合がある

契約によっては「必ず書面が必要」と法律で義務付けられているケースもあるため、電子契約とあわせて紙での契約業務も必要な職種が存在する。業務が複雑化し、かえって手間が増える場合もあるので、要注意だ。

「電子契約」を導入するうえで、どのような点に注意すべきか

「電子契約」は下記の点に注意しながら導入を進めていきたい。

●紙での書類保管が法律で義務づけられている契約がある

契約方式自由の原則により、基本契約・秘密保持契約・売買契約・業務委託契約・請負契約・雇用契約など、ほとんどの契約で「電子契約」の利用が可能だ。しかし、一部だが、消費者保護のために法律で紙による締結・交付が義務づけられているものも存在しているので注意が必要だ。

代表的な例は以下の通り。このような契約を扱う場合、電子契約の導入の前に、顧問弁護士への確認をおすすめする。

・定期借地契約(借地借家法22条)
・定期建物賃貸借契約(借地借家法38条1項)
・投資信託契約の約款(投資信託及び投資法人に関する法律5条)
・訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引における書面交付義務(特定商品取引法4条他)

「電子契約」サービスを選ぶうえでの3つのポイント

最後に、実際に「電子契約」サービスを選ぶうえでの3つのポイントを紹介したい。

・電子帳簿保存法に対応しているか?
サービスの簡便さや便利さに主眼が置かれ、よくよく確認してみるとタイムスタンプ等の電子帳簿保存法への対応に機能がなく、「税法上は印刷が必要です」としているサービスも中には存在している。サービスを選ぶ際は、同法に対応しているかどうかのチェックは必須である。

・導入しやすいか?
自社での使いやすさはもとより、相手先・契約相手にとっても使い勝手が良いかどうかも考えてサービスを選ぶ必要がある。中には、相手先はサービス使用料を無料にしているものや手順説明サービスを行っているものもあるので、よく比較検討することが大切だ。

・電子と紙の混在をカバーできるか?
前述の通り、どうしても紙の契約書は一部残ってしまうことを念頭に置き、サービスを選ぼう。適したサービスを導入することによって、電子と紙とで別フローになるとしても、保管後はどちらも一元的に管理できるようになる。
「電子契約」は、業務効率化やコスト削減のほか、コンプライアンスを遵守するうえでも欠かせないものになってきている。また、ニューノーマルな働き方を実現していくうえでも、「ハンコ出社」といった無駄をカットして、生産性と従業員の安全を意識した行動が必要になるだろう。「電子契約」の安定した運用に向けて、関連する法令をしっかり把握しながら、自社にフィットするサービスを選んでいただきたい。
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