働き方改革
今や社会一般に浸透した「働き方改革」。これに未だ取り組まない企業はほとんどないだろう。「一億総活躍」を謳い、少子高齢化による人手不足の解消、長時間労働による健康問題の是正といった、社会問題の解決策として、旧来の企業文化を根底から正す目的があるが、「働きやすい環境整備の呼び名」と、曖昧な認識のまましていないだろうか? 最近の言葉のように感じられるが、長い年月をかけて打ち出された政策であるため、実は「関連法案」や罰則規定、意外と知られていない「メリット/デメリット」が存在している。本記事では、今さら人に聞けない、知らなかったでは済まされない「働き方改革」の全容を徹底解説する。

「働き方改革」の意味とは? 目的やメリットも解説

「働き方改革」とは、政府が掲げる「一億総活躍社会実現」に向け、働く人々の労働環境を大きく見直す取り組みのことだ。これは、企業規模や従業員数によって指摘される問題ではなく、中小企業や個人事業などすべての企業に必要な対応だ。もし、まだ「働き方改革」に未着手の場合、その企業では、労使トラブルや人手不足に拍車がかかる恐れもある。

「働き方改革」は、目的を正しく理解し適切な取り組みを行うことで、企業の労働環境の改善や労務問題の解決が可能になる有効手段だといえる。実情として煩わしさばかりが先行し、法令の基準を満たすために形だけの取り組みが行われるケースも少なくない。しかし、時間やコストを投じて取り組むのであれば、働き方改革の必要性を正しく知り、形だけではない、真の働き方改革の実現を目指すのが得策だ。



では、今「働き方改革」が必要な理由を考えていこう。企業にかぎらず、日本という国が抱えている問題に起因している。

・労働人口の減少
いわゆる「労働力」とみなされる「生産年齢人口」(15歳以上、65歳未満)は、1995年以降、減少し続けており、深刻な人手不足に陥っている。さらに、この「生産年齢人口」に当たる年齢の人々は、育児・介護といったやむをえない事情によって、一時的な離職や復帰の困難に見舞われているケースが多いのが実情だ。

そこで、「生産年齢」に該当する人だけでなく、年齢的にその範囲を超えた人(高年齢者)も含め、働く意欲のある人を「労働力」として増加させること、業務効率化・労働生産性の向上によって少数精鋭でも成果を挙げられることを目指した体制作りが必要だ。もちろん、企業の取り組みとしてだけではなく、「国と企業の連携」が働き方改革の推進には欠かせない。

・「労働生産性」の低下
「労働生産性」とは、「労働者1人あたりが生み出す成果」、あるいは、「1時間あたりに生み出す成果」の指標である。この労働生産性は、国の経済成長に寄与するという。日本の労働生産性は、主要先進国の中では特段低いことが指摘されており、前述の通り「労働人口の減少」が問題化している中、労働者1人あたりの生産性を高め、少数精鋭でも成果を出していかなければならない。

・長時間労働や過労死の問題
高度成長期以降、日本には、従業員が企業のためにプライベートを犠牲にしてでも業績向上を目指す働き方を良しとする企業文化があった。その結果、「長時間労働の常態化」を招き、令和を迎えた今もなお、その問題がはびこっていることは否めない。ある調査では、日本企業の長時間就労者の割合は世界的に見ても特に際立っている、という結果もあるという。

長時間労働に起因する過労死は、国内大手企業でも発生し、訴訟に発展したことからメディアでも大きく取り上げられ、国民全体に問題意識が高まった経緯がある。現在は件数自体は減少傾向にあるが、依然としてゼロにはなっていない。企業は、「働き方改革」によって長時間労働を是正し、従業員が健康的に働き、活躍できる環境整備を目指さなければいけない。

●「働き方改革」によってもたらされるメリット

「働き方改革」によって受けられるメリットは、企業/従業員それぞれにある。

・企業側のメリット
企業は、「働き方改革」に貢献している企業だと社内外に示すことによってメリットを得ることができる。例えば、旧来のように「労働時間=成果」という判断基準を廃し、適切に休暇を取得させることで、生産性やモチベーションを向上させることができる。また、従業員が働きやすい労働環境を整えることは、イノベーション創出にも結びつく。

また、有給休暇が取得しやすいということは、「従業員を大切にする企業」であると社内外にアピールできる。福利厚生が行き届いている企業イメージは、新卒・中途を問わず採用活動にもメリットとなる。

・従業員側のメリット
従業員が享受するメリットとしては、「ワーク・ライフバランス」が一番大きなポイントだろう。仕事のオン/オフを切り分けることで、趣味や、家族と過ごすことにあてられる時間が増える。私生活を充実させることで、仕事のシーンでもパフォーマンスを高める効果を生み出せるだろう。



「働き方改革」の「3つの柱」とは

「働き方改革」の推進には、3つの狙いがある。いわゆる「改革の3本柱」である。ここでは、その3点それぞれの詳細を確認していこう。

・長時間労働の是正
日本の男性の平均労働時間はOECD加盟国のうちもっとも長く、「1日あたり375分(休日を含む)」という調査結果がある。「みなし残業」や「サービス残業」などの労働時間も含めれば、さらに長い時間となることは明白だ。また、労働時間だけでなく「有給休暇取得率の低さ」や「年間休日の少なさ」も問題になっている。

これらを解決するため、「休日出勤の禁止」や「残業の事前申請制」、「業務効率化」といった就労改革を行ったり、「短時間勤務」や「フレックスタイム制度」を導入したりといった対応をしている企業が増えている。

・正規、非正規の格差解消
正規雇用ではない働き方、つまり非正規雇用の従業員と、正社員との「待遇差」や「賃金格差」は、長年、日本企業が抱え得る問題の1つだった。「派遣切り」問題や、「交通費・通勤手当の有無(金額の差を含む)」という不平等が主な企業課題であり、この格差をなくす動きが「働き方改革」によって高まった。

これによって、アルバイト・パート従業員の有給休暇について就業規則に明記し、積極的な有給取得が推進されるようになったほか、人手不足が慢性化・深刻化している、いわゆるエッセンシャルワーカーが従事する業種では、非正規雇用からの正社員採用を進めるといった取り組みが進められているという。

・多様な働き方の実現
育児期間中も働き続けられる労働環境を目指し、「在宅勤務」や「短時間勤務制度」、「フレックスタイム制度」などを導入するといった工夫をする企業が増えている。育児と仕事の両立をはかり、職場にキッズスペースを設置し、子ども連れ出勤を可能にした企業事例もある。

気になる「働き方改革関連法案」の施行内容や時期を徹底解説

「働き方改革」推進のため、政府は「働き方改革関連法」を成立させた。この正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」で、読んで字の如く「働き方改革のために法律を改正し、改革を努力目標ではなく実際に推進するために法整備を行う」という意味がある。「労働基準法等の一部を改正する法律案」が基となっており、これは、2015年4月3日に国会に提出され、3年もの時間をかけて2018年6月29日に成立した。

●「働き方改革関連法」の施行内容と時期

働き方改革関連法で改正対象となった法律は8つある。なお、「働き方改革」にともなって施行される労働関係法令は、2019年4月以降、順次企業に適用されている。ここでは、大企業と中小企業、それぞれに適用される「義務」の内容と実施時期をピックアップしていこう。

なお、ここでの「大企業」の定義は、「資本金または出資総額が3億円超え」、「常時使用する従業員の数が300人を超える会社および個人」であり、「製造業・建設業・運輸業、その他の業種(卸売業、サービス業、小売業を除く)に属する事業を主たる事業として営むもの」である(卸売業・サービス業・小売業については、それぞれ異なる資本金・従業員数が設定されている)。また、「中小企業」は、「資本金が3億円以下、または従業員数が300人以下の会社(製造業、建設業、運輸業等の場合)」と定義されている。

【大企業・中小企業の両方が、必ず対応すべき内容】
・年次有給休暇の年5日付与義務

大企業・中小企業ともに適用時期は2019年4月〜。従業員に、年5日間の有給休暇を確実に取得させることが企業の義務となった。

・労働時間の客観的把握
大企業・中小企業ともに適用時期は2019年4月〜。原則的に、雇用するすべての従業員の労働時間を、「客観的な記録」に基づいて把握することが義務化された。

・時間外労働の上限規制(罰則付き)
大企業の適用時期2019年4月〜、中小企業の適用時期は2020年4月〜。「時間外労働」を規制するため、労使間で締結する特別条項付「36協定」について、法的に上限を規制する定めが設けられた。

・「同一労働同一賃金」の施行
大企業の適用時期は2020年4月〜、中小企業の適用時期は2021年4月〜実。雇用形態の違いによって「基本給」や「賞与」などに設けられていた「待遇差」を是正する。

なお、企業規模を問わずすべての企業が対象だが、「制度導入の有無」に応じて対応すべきことも2点ある。それが、「高度プロフェッショナル制度」の創設と「フレックスタイム制」の拡充だ。

・「高度プロフェッショナル制度」の創設
大企業・中小企業ともに、適用時期は2019年4月〜。専門知識を要する厚生労働省令指定の業務に従事し、一定水準以上の賃金が確保される従業員は、労使の合意がある場合、時間外労働の上限規制や割増賃金の支払義務などの適用除外となる。

・「フレックスタイム制」の拡充
大企業・中小企業ともに、適用時期は2019年4月〜。「フレックスタイム制」の清算期間を、1ヵ月だったものから3ヵ月に拡充する。

【企業規模に応じて対応すべきこと】
・産業医・産業保健機能の強化

従業員数50名以上の企業の適用時期は2019年4月〜。企業と産業医が、より密に情報共有を行い、従業員がいつでも健康相談を受けられるよう環境を整備する必要がある。なお、「産業医の機能と長時間労働者に対する面接指導等時間の強化」として、2021年4月以降、すべての中小企業が対象となる。

その他、「割増賃金率の中小企業猶予措置廃止」が2023年4月に開始されるため、中小企業の事業主は特に、各法律の施行時期と内容には注意が必要だ。

「働き方改革」を阻む問題点や課題とは

「改革」とは本来、従前よりも良い状態に導くことを目的としてなされるものだが、新たな取り組みにはデメリットも表裏一体としてついてくる。そこで、「働き方改革」推進にあたって、企業が注意すべき課題も把握しておこう。

・人件費やツール導入などのコストの高さ
「働き方改革」を実施する場合、人件費の増加やツールの導入などでコストが高くなる。その理由としては、「年次有給取得の義務化」と「同一労働同一に必要な賃金」の2つがある。

「年次有給取得の義務化」では、休暇によって業務が他の従業員にまわり、その分残業代が発生すれば、企業の人件費はかさむ。

また、「同一労働同一賃金の義務化」により、旧来は賃金差があった仕事も同一賃金にする必要が生じ、「雇用している人数(従業員数)×人件費(上昇した賃金分)」の分が増加する。従業員が多ければ多いほど、人件費負担の増加幅も大きくなるのである。

また、時間不足や効率化をシステムで解決するために、ツール導入を検討する企業も多いが、抜本的な改革をする場合は大規模なシステム構築の必要がある。その導入コストが莫大なために、取り組めないままとなっている企業の実情もある。

・高度プロフェッショナル制度の乱用
「高度プロフェッショナル制度」とは、一定額の収入以上の専門職に就く人に対して、「働いた時間」ではなく「成果」で評価する制度のこと。この「一定額の収入以上」に当てはまる専門職については、「労働基準法」の残業時間上限や、残業代の概念、休憩・休日に関わる規制のすべて対象外とさてしまう。

つまり、高度プロフェッショナル制度を従業員が乱用した場合、「企業の指示によって『労働基準法』を無視した働き方をしている」といえてしまうため、企業側が該当従業員の働き方を問題化できない可能性もあるのだ。「高度プロフェッショナル制度」は「働き方改革」のために成立した制度であるが、残業代ゼロ、長時間労働を命じられても問題化しないという本来の目的にも、コンプライナンスにも反する結果を生じさせる危険も含んでいる。

・従業員のモチベーション低下
残業代を見越して収入を考えていた従業員にとって、残業規制による収入減少は、働くことへのモチベーション低下を招く場合がある。また、会社として働き方改革のための制度を作ったとしても、問題点が解決されない、制度が実施されないまま形骸化する、というのでは意味がない。従業員も、新たな制度によって設けられた約束を実施しない企業には信頼がおけず、モチベーション低下は不可避となるだろう。

・「生産性」と「売上げ」の低下
「働き方改革」によって是正しようとする課題は、企業内の構造上の問題であることが多い。そのため、現在の運用方法を変えないまま、安易に「残業規制」や「多様な人材の受け入れ」を実施した場合、労働時間不足による売上げ低下、新たな人材に教育を行う時間増加のために生産性の低下を招き、従業員の負担増加だけが起こってしまう恐れもある。「働き方」を改善するつもりで改革に取り組んでも、生産性や売上げの低下が起これば、離職率の上昇、早期退職募集や倒産という不幸な事態を招きかねない。

・サービス残業(隠れ残業)の発生や管理職者の負担増加
残業時間の規制によって、退勤後に仕事をするといった「サービス残業」への懸念がある。また、コロナ禍でテレワークを導入する企業が格段に増加した現在、上司や人事・管理部の担当者といった管理者が把握できない残業、いわゆる「隠れ残業」によって、不足した業務時間を補填してしまう場合もある。

一方、残業規制がない管理職者の負担が増えることも考えられる。管理職者は時間に関係なく働き続け、それ以外の従業員のワーク・ライフバランスは取れているというのでは、いびつな就労環境になってしまう。一部の従業員に負担を強いたりしわ寄せがいったりすると、負担がかかった人が退職してしまう事態となり、人員不足、さらには生産性・売上げの低下を招く。雇用形態や役職に関わらず、全従業員の業務と就労環境でバランスを保てるよう、解決策を打つ必要がある。

「働き方改革」で押さえておくべきポイント

「働き方改革」は、即時的に効果を発揮するものではないため、社会情勢、景気、企業の状態などの要因により、現実に即した形に日々刻々と変化・改訂される。「働き方改革」推進にあたって、押さえておくべきポイントは以下の通りだ。

●「ガイドライン」の随時確認

「働き方改革」を推進する企業は、今顕在化している企業課題に対応するだけでなく、数年先を見据えた計画を立てておく必要がある。厚生労働省が「働き方改革」について各種ガイドラインを設けているので、これらに従って、抜け漏れがないかを随時確認していくことが重要だ。

●「働き方改革」促進のための「補助制度」や「労務管理システムの活用」

「働き方改革」促進には、労力と時間が要る。少ない資金で運用している中小企業は、地方自治団体が支給する「助成金」を活用できる。中小企業が労働時間等の改善を含めた職場意識の「改善計画」を作成し、これに基づく措置を効率的に実施した場合、事業主に支給される助成金もある。「働き方改革推進支援助成金」や「業務改善助成金」、「キャリアアップ助成金」の活用も一つの手だ。



また、従業員の労働状況の管理のために、「労務管理システム」を活用することで、効率的に業務を進めることが可能だ。ただし、システムの導入には時間的・金銭的なコストがかかる。自社の状況にフィットしたシステムをきちんと検討したうえで導入することが大切だ。
「働き方改革」はうまく進めることができれば、企業の生産性向上だけでなく、従業員のエンゲージメント向上などにもつなげることができる。「働き方改革」を推進していくためにも、法改正のこまめなチェックはもちろんのこと、本記事で紹介した注意すべき問題点や押さえておくべきポイントをいま一度チェックしたうえで、実行に移していただきたい。
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