HRテクノロジーの普及で人事の姿はどう変わり、どんなスキルが求められるのか?

特別読み切り

近年の日本経済を称して、「失われた30年」という言葉があります。その30年間、日本の人事はあまり変わっていないと言われます。先日、機会があって30年前の人事の論文に触れる機会がありました。そこでは「情報化社会への転換にあたっての新しい労働」に向けた課題として、「リストラクチャリング」「フレキシビリティ」「ゆとり創造」「個の尊重」「加点主義人事」「複線型人事」といった現在と変わらないものが挙げられていました。また、20年程前に流行した「戦略人事」という単語が再び流行しつつあります。このように数十年前から人事界隈の論点はあまり変わっていないのです。
しかし、ここ数年のHRテクノロジーの普及でいくつかの重要な変化が進みつつあります。その中でも筆者が注目しているのが以下の3点です。

変化(1):業務の効率化
HRテクノロジーの登場で事務系の作業効率が大きく向上しています。例えば、カオナビを人事評価で活用した結果、「2週間の作業が1週間に」「2日の作業が1時間に」短縮された、といった事例があります。同様の効率化が労務手続きや人事異動検討、採用業務などの領域でも進んでいます。大まかにいうと、紙とExcelで行っていた業務を専門業務に特化したクラウドサービスで行うことで、大幅な効率化が様々な人事業務で進行しているのです。

こうしたHRテクノロジーによる業務効率化は、経営者から見てコストパフォーマンスの良い取り組みなので、景気が悪化したとしても継続的に浸透が進むと考えられます。

変化(2):事実に基づいた意思決定
HRテクノロジーの中でも特にタレントマネジメントシステムの普及により、給与、評価、実績、スキル、異動の希望、過去の傾向(退職者、ハイパフォーマーなど)といった事実を容易に収集し、いつでも、どこでも、簡単に閲覧できるようになりました。これにより、従来は経験、勘、担当者の情報網などに依存していた人事の意思決定が、事実に基づいたものに変化してきています。近年言われているピープルアナリティクスなどは、こうした変化の一つです。

変化(3):人事業務が本部から現場へ
人事の世界において本部から現場への権限移譲が進んでいます。部門別に採用担当を置く企業が増えていますし、事業部ごとに人事を設置するHRBPという手法も広まっています。また、従来本社人事部が行っていた人事系の権限を現場のマネージャーに任せるケースも増えています。人事異動、人事評価制度の運用、タレントマネジメントシステムの導入などを現場主導で行うことも増えているようです。

こうした取り組みは、人事機能を現場の近くに置くことで、より事業との一貫性やスピード感を持って人事を行おうという動きといえます。本社人事が「戦略人事」といくら言っても実行できなかったことへの反省から生まれた流れ、という見方もできるでしょう。

この流れを後押しするのがHRテクノロジーです。サービスがクラウド化し、低費用・低労力で導入できるようになったため、事業部単位、チーム単位でもサービスを活用できるようになりました。また、UIの改善やサービスの多様化で人事の専門家でなくとも簡単に人事業務を進めることが可能になってきています(全ての業務がそうではないですが)。加えて、タレントマネジメントシステムの普及により、本社人事と現場マネージャーの間の情報格差も解消されつつあります。

この様に人事の多くが本社人事部による独占的な業務から、現場に移行しつつあるのです。

人事パーソンの雇用はどう変わるか?

上述した変化(1)と変化(2)の結果、人事パーソンの雇用は減少するとみています。「業務の効率化」は単純に必要となる人員数を減少させます。「単純作業から解放された時間でより本質的な業務ができる」という言説もありますが、これまで20年に渡り、多くの人事部が「戦略人事」をできなかったことを鑑みると、あまり楽観できないでしょう。

一方で雇用が増加すると考えられるのが、変化(3)の現場人事(HRBP)の仕事です。しかし、現場人事の役割は、人事パーソンだけでなく、マネージャーが自ら担う、現場の人間を充てる、といった選択肢もあり、競争があります。

また、近年、一部で話題になっている人事データ分析の領域ですが、雇用を大きく伸ばすようなものにはならないと思われます。分析で有意な差を見出せるようなサンプル数を持てる企業はあまり多くなく、高度な人事データ分析担当を雇用する意味があるのは、大企業やHR関連企業に限られるでしょう。日本の企業の多くを占める中小企業において、人事データ分析は簡単な集計程度で十分になると予想され、そのレベルであれば、今後のHRテクノロジーの発展に伴い、誰でも、簡単に実施できるようになっていくと思われます。

これからの人事パーソンに必要な能力は?

上述したように、人事業域においては、事務担当の雇用が減少し、現場人事のポジションが増加すると思われます。こうした変化に適応するため、人事パーソンに求められる能力は何でしょうか?多種多様な答えが有り得ると思いますが、一つ挙げるのであれば「事業理解」であると考えます。

現場人事になるということは、上長が人事の専門家ではなく、現場マネージャーになり、彼らの役に立つ必要があるということです。事業のビジネスモデルや状況を理解せず、人事の観点から正論だけを述べても、現場マネージャーに信頼できるパートナーとして見てもらうことはできないでしょう。専門性は違っていても目線や目標を共有できるよう、事業への理解を深めることの重要性が高まっています。また、人事データを読み解く際にも、細々した分析手法よりも、事業の課題意識に沿って正しい仮説を立てられることの方が重要なのです。

事業理解を深めるためには、敢えて人事分野から離れ、経営戦略やマーケティングについて学ぶことは有用でしょう。また、筆者の知人のHRBPは、現場社員との1on1を重視しており、そこから事業の現場感を掴もうとしています。

このようにHRテクノロジーの普及により人事の仕事や求められる能力が変わりつつあります。こうした変化を敏感に捉え、人事パーソンも自らを変えていくことが、人生100年時代には必要となります。
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著者プロフィール

カオナビHRテクノロジー研究所 所長 内田 壮

日本エス・エイチ・エルにて人材データを用いた人事コンサルティングに従事。ヘルスケア企業の事業開発を経て、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所にてX-Tech領域の調査・コンサルティングに従事し、2017年よりカオナビに参画。
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