かつて業績が好調だった頃の日本企業は、「有機的・創発的」な組織に支えられていました。翻って昨今の日本企業はどのような組織的課題を抱えているのでしょうか。リーダーシップの欠如か、あるいはミドルの戦略関与不足か――。本講演では、日本企業の業績低迷の背景を探るべく、2004年度から隔年で7回実施されてきた「日本企業の事業組織に関する質問票調査」のデータ分析をもとに、日本企業の戦略と組織の問題について、一橋大学大学院経営管理研究科 佐々木 将人准教授に解説いただきました。

講師


  • 佐々木 将人氏

    佐々木 将人氏

    一橋大学大学院経営管理研究科 准教授

    2008年に一橋大学大学院商学研究科博士後期課程を単位修得退学し、武蔵野大学政治経済学部講師を経て、2012年より現職にある。研究上の主たる関心は、組織内の組織メンバー間の意識の分化とその統合のメカニズムにある。具体的には、日本企業を対象とした組織行動やマーケティング活動についての質問票調査データを用いた定量的研究を中心に研究をおこなっている。

リーダーシップとミドル・マネジメントの戦略関与 ~組織質問票調査のデータ分析から~

日本企業の業績低迷の背景を探る

 本日は、日本企業の業績低迷の背景を探る目的で、2004年度から隔年で7回実施してきた「日本企業の事業組織に関する質問票調査」のデータ分析についてお話しいたします。かつて日本企業の業績が好調だった頃、日本企業は組織全体で有効な戦略を生み出し、実行することに特徴があるとされていました。つまり「創発戦略」(emergent strategy)を重視していたことが、日本企業がうまくいっていた要因の一つだったわけです。逆に言うと、現在の日本企業、とりわけ業績不振の事業組織には、このような点を阻害する要因が存在するのではないかと考えられます。例えば、的確な戦略を生み出せない、あるいは組織が一丸となって動くことが難しいといった状況が、日本企業の事業組織における問題なのではないでしょうか。
 これまで具体的にどのような調査をしてきたかといいますと、先ほど申し上げた問題意識に基づいて、一橋大学・大学院商学研究科(現在は経営管理研究科)で研究グループを結成し、日本企業の組織・戦略の状況について詳細な質問票調査を実施しました。第1回調査は2004年度後半(2005年初頭)に行い、以後2年ごとに実施しています。第7回調査は2017年1月~3月に実施しました。調査対象は日本の大手企業ですが、基本的な分析単位は、事業を担う「ビジネスユニット(BU)」で、一般的には事業部に相当します。企業の内部での調査が必要となることから、参加を希望する企業に協力を要請しました。また、配付・回収方法としては、参加企業の担当部署に回答者(コア人材)を指定してもらい、担当部署経由で質問票を配付しました。回答者が厳封の上で、直接または担当部署経由で質問票をご返送いただいています。
 質問票の構造としては、①人事質問票(内容:従業員数や本社によるBU管理/対象:本社人事担当者が一括して回答)、②戦略質問票(内容:事業環境及び戦略関連項目/対象:事業部の経営企画等の担当者が回答)、③組織質問票(内容:組織属性/対象:BU長及び主要3職能のミドル・ロワー1名ずつが回答)の3種類を用意しました。これからお話しする具体的な結果に関しては、ミドル・ロワー6名の回答値を平均したものを各BUの値として用いた変数を中心に分析したものになっています。また、過去7回の調査対象BUの数は合計で699、調査対象企業は延べ43社ですが、このうち第4回(2010年度)~第7回(2016年度)のデータを使った分析を報告させていただきます。尚、サンプルの記述統計量としては、BU売上高が平均で10億円程度、BU正規従業員数が平均で751.5人、組織年齢が平均で16.8年となっています。

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