「グレードスキップ制度」を新卒採用に導入。専門性の高い学生に早期の活躍の場を提供する

第7回 日本HRチャレンジ大賞(2018年実施) 受賞企業インタビュー

近年AIやビッグデータが注目を集める一方で、その分野に携わるスペシャリストに関しては、深刻な不足傾向にあり、多くの企業が即戦力採用に苦戦を強いられている。そうした中、従来の中途採用から新卒採用へとシフトし、高いスキルを持った学生を確保しようと努める企業も増えてきた。しかしここでも、優秀であればあるほど、獲得競争は激化する。果たして自社が求める優秀層に選ばれるためには、一体何が必要なのだろうか。その答えを導き出し、成果を上げたのが、今回ご紹介するソフトバンク・テクノロジー株式会社だ。同社は2018年新卒採用から、専門的な知識や技術を有する学生が早期に活躍できる環境を支援するための「グレードスキップ制度」を開始。実際に優秀な人材を採用するとともに、その取り組みから第7回日本HRチャレンジ大賞『採用部門優秀賞』も受賞した。「グレードスキップ制度」とは何か、なぜ成功したのか。その背景や取り組み内容を取材した。

第7回 日本HRチャレンジ大賞『採用部門優秀賞』

ソフトバンク・テクノロジー株式会社

新卒採用における、専門性の高い学生に管理職手前の役割と活躍の場を提供するグレードスキップの新設

年功序列ではなく役割と処遇を連動させたミッショングレード制度の考え方を新卒採用にも適用し、「オンリーワンの実績やスキル」を持つ学生に早期活躍の場と役割に見合う初任給を提供できる制度を導入したほか、専門性が高い学生には職種別採用を新設するなど、 新卒採用における取り組みが優れていると評価されました。

ゲスト

  • 正岡聖一 氏

    正岡聖一 氏

    ソフトバンク・テクノロジー株式会社
    執行役員 人事本部長

    2002年ソフトバンク株式会社のEC事業子会社へ入社。Yahoo! BB事業の立ち上げ時期の人事、日本テレコム株式会社やボーダフォン株式会社の買収後の統合人事制度の整備、およびソフトバンクグループの安全衛生体制の構築プロジェクトへの参画を経て、2008年からソフトバンクグループの給与社保・安全衛生のシェアード会社のCOOに就任。2015年5月からソフトバンク株式会社へ復帰し、情報システム部門にて「全社業務改革PJリーダー」を経て、2016年7月にソフトバンク・テクノロジー株式会社の人事本部・副本部長就任。2017年4月より現職。
  • 阿部優太郎 氏

    阿部優太郎 氏

    ソフトバンク・テクノロジー株式会社
    人事本部 人材開発部 新卒採用グループ マネージャー

    2008年にソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)に入社。教育・研修部門にて、新入社員受入れ、ソフトバンクショップのクルー向け研修企画/講師業務にて販売活動を支援する。2012年より同グループの給与社保・安全衛生のシェアード会社にて、新規顧客向け営業と既存顧客の給与社保オペレーションのマネジメントに従事。2017年よりソフトバンク・テクノロジー株式会社にてITエンジニアを中心とした新卒採用/若手育成を行う。

従来の「ミッショングレード制度」を新卒採用に拡大

―― 今回、HRチャレンジ大賞 採用部門優秀賞を受賞した「グレードスキップ制度」とは、どのような制度ですか?

正岡聖一氏(以下、正岡) 「グレードスキップ制度」は、超売手市場においてオンリーワンの実績やスキルを持つ学生に対し、新卒入社でも大きな役割と早期活躍の場を提供し、役割に見合う初任給(257,000〜305,000円)で処遇する制度です。

―― この制度を新設した背景についてお聞かせください。

正岡 弊社は2012年に阿多が社長に就任して以降、「大きく成長する」という経営方針を打ち出し、それに合わせて社員数も即戦力の中途採用を中心に順調に伸ばしてきました。しかし、我々が求めるクラウドやセキュリティのエンジニア、データサイエンティストなどの優秀な人材は、もともと数が少ないうえ、獲得競争も激化しており、年々採用が難しくなってきています。一方、最近の学生に目を向けると、若い頃からITに慣れ親しみ、中には即戦力レベルの高い技術を有した優秀層も少なくありません。そこで、中途での人材獲得が難しいのであれば、優秀な学生を採用し、育てていけばいいのではないかと考え、年間10〜15名程度であった新卒採用枠を、2018卒より30名まで拡大する方針を固めました。

「グレードスキップ制度」は、弊社が以前から導入していた「ミッショングレード制度」がベースになっています。これは会社が期待する「役割=ミッション」を定義して、年功序列ではなく、各組織において期待される役割に応じた認定をする制度です。昇格のチャンスは、半期に1回(年に2回)あります。例えば、一人でしっかり仕事ができるようになればグレード2、リーダーの役割を担えるようになればグレード3、プロジェクトマネージャーや管理職の役割が担えるようになればグレード4といった基準でアサインしていきます。最短31歳で部長クラスまでグレードアップした者もおり、また新卒1〜2 年目でグレード3へ昇格する事例も少なくありません。

若手でも能力次第で活躍できるこの仕組みを、新卒採用にも適用することで、能力が高く、いろいろな活動を通して、実績を積み上げてきた意識の高い学生に訴求できるのではないかと考えました。しかも、当社では「ミッショングレード制度」そのものが定着し、制度自体の成果も上げています。これなら、社内の理解や運用面の心配もなく、スムーズに導入できると確信を持って進められました。

評価基準を明確かつオープンに

――「グレードスキップ制度」は具体的にどういった能力が対象となりますか?

阿部優太郎氏(以下、阿部) 主にクラウド、セキュリティ、ビッグデータという3つの当社注力分野に関連するITのスキルや知識、取り組みと、そのアウトプットを評価します。応募のアピール例としては、国内最大級のセキュリティコンテストである「SECCON」本選への出場経験、回帰分析等の専門知識と情報技術を活用した研究発表の実績、AI/機械学習・セキュリティの修士・博士、起業や事業立ち上げの経験などを挙げています。加えて人間性やリーダーシップなども重視。また、エンジニア職だけに限定せず、営業職や企画職など幅広い職種で、活躍が期待できる学生を対象としています。

―― そういった優秀な学生はどのようなプロセスで選ばれるのでしょうか?

阿部 基本的には「グレードスキップ制度」に限定して母集団を形成するわけではありません。採用の母集団形成の段階で、本制度の紹介をしていますので、選考段階で、希望の有無を確認し、希望に対して選考項目を追加して、合否を判断します。導入初年である昨年度は、制度の周知徹底が間に合わなかった面もあり、選考過程において、「この学生はグレード2に相当する能力があるのではないか」と評価できたら、本人に打診して手を挙げていただき、そこから改めて選考するという流れもありました。もちろんその時点では「グレードスキップ制度」に該当することができなくても、再び通常の選考フローに戻ることができます。また、実際に挑戦しない人でも、弊社を志望いただく動機として、人事制度を含め「挑戦できる環境がある」と言っていただける割合が増えました。

正岡 弊社の場合、評価軸が明確かつオープンになっているので、「グレードスキップ制度」での採用が叶わなくても、今の自分は何が課題なのか、グレード2やグレード3の役割を担うにはどんなスキルを身につけなければいけないのかが分かり、入社までにしっかりと準備することもできると思います。

―― 新卒30名採用に向けて、その他に新たに取り組んだ施策などはありますか?

阿部 「グレードスキップ制度」とは別に、「プロフェッショナルエンジニアコース」も新設しました。これはいわゆる職種別採用で、専門性が高い学生に対して、セキュリティエンジニアもしくはデータサイエンティストの職種をコミットして、内定出しを行う選考です。もちろん即戦力レベルの能力を持っていれば、「グレードスキップ制度」と併用して、採用いたします。また、2018年卒採用より初任給のベースアップも行い、学部卒で22,000円アップの225,000円、修士了で20,000円アップの235,000円としたほか、博士了も257,000円で新設しました。さらに、リクルーター制度を導入し、若手社員から約30名を選抜して、内定後から入社までの期間、月1回コンタクトを取って、学生の不安や悩みを聞いたり、必要に応じて情報提供したりするなど、定期的なフォローを行っています。

正岡 一方で、こうした制度新設を周知させることも重要です。そこで、主に「グレードスキップ」に関して、繋がりのある学校、研究室、団体、メディアなどに向け、プロモーションも強化しました。また、多くの学生に知ってもらうため、インターンシップも有効活用しています。具体的には、インターンシップのコンテンツを、セキュリティやビッグデータを専門的に学んでいる学生が引きつけられるような内容に工夫し、弊社の事業に関心を持ってもらうとともに、若くても活躍できる場や評価する仕組みがあることを伝え、動機付けに繋げています。

2018 年の新卒採用は28名と前年比2.4倍に

――「グレードスキップ制度」の導入によって得られた成果を教えてください。

正岡 18年新卒採用は前年比2.4倍の28名となりました。「グレードスキップ制度」の応募数は43名で、そのうち内定を出したのが4名、実際に入社したのが2名です。母集団全体のWEB試験偏差値も2.4ptアップし、大学院生の応募者も前年より2倍以上となりました。また、内定受諾率は前年比で21%増え、他社と比較しても学生にとってのベネフィットが高まり、ミスマッチの抑制にも繋がったと思います。

―― 入社した2名の方はどのような点が評価されたのでしょうか?

阿部 1名は情報技術分野における論文の受賞歴より、特出したアウトプットを出した知識や技術力が評価されました。もう1名は情報技術と社会における課題解決を結び付ける力に非常に長けている人材で、さまざまな企画アイディアや受賞歴、実績を評価しました。19年卒においては、セキュリティ分野の特出したスキルを評価して、プロフェッショナルエンジニアコースとグレードスキップ制度の両方を適用した方が入社予定です。

何度でもチャンスが得られる仕組みを

――「グレードスキップ制度」を導入したことで社内の反響はいかがでしたか?

正岡 現場の社員は即戦力を欲しがるものです。「グレードスキップ制度」や「プロフェッショナルエンジニアコース」で採用された人材は、新卒であっても、通常より短期間で即戦力として活躍できるので、多くの社員が期待しているのではないでしょうか。またこうした取り組みを通じて、採用に対する会社の本気度も伝わっていると思います。

阿部 現場の採用に対する考え方も変わってきたように感じます。インターンシップ等を通じて、自分たち自身も積極的に関わっていけば、部署で必要としている人材が採用できると。では、そのためにはどうしたらいいのか、みんなで一緒に考えようという雰囲気になってきました。また「優秀な後輩が入社すると、より自身も頑張らなければ」、「一緒に仕事ができることが楽しみ」という声も上がっており、社内活性化にも一役買っています。

―― 最後に、今後計画している新たな取り組みや展望についてお聞かせください。

阿部 「グレードスキップ制度」は現在、見極めのタイミングが選考の間だけに限られています。しかし内々定を出してから、入社までには結構な期間がありますよね。そこで、その間の頑張りや取り組みも評価できないか検討中です。例えば入社まで、アルバイトとして実際に社員と同じ業務をして、そこでスキルアップを図ってもらう。その結果、グレード2相当のスキルが身についたと判断できれば、改めて「グレードスキップ制度」を適用し、グレード2での入社を認めてもいいのではないかと考えています。

正岡 アルバイトによって学業が疎かになってしまってはいけませんが、選択肢の一つとしてそういう形も提案できれば、学生にとってはアルバイトを兼ねて就業体験以上の実践を積むことができますし、我々にとっても4月の入社時までにスキルアップしてもらえるので、お互いがWin-Winになります。もちろんスキルアップの仕方はアルバイト以外にもいろいろとありますので、例えば学校で勉強や研究にさらに打ち込んでもらい、入社前にもう一度手を挙げてもらってもいいでしょう。そうすることで、残りの学生生活がさらに充実するかもしれません。いずれにせよ、入社前も入社してからも、何度でもチャンスを与えてあげられるような仕組みを作っていきたいと思っています。

取材を終えて

「グレードスキップ制度」は、能力のある学生にとっては、入社後すぐに高い給与と役割を得ることができ、一方の企業にとっては、希少な優秀人材を採用できるという、双方にとって大きなメリットがある。だが強調しておきたいのは、ソフトバンク・テクノロジーがこの取り組みを成功させたのは、ベースとなる「ミッショングレード制度」を、試行錯誤を繰り返しながら、5年間かけて運用してきた経験があったからに他ならない。新卒採用の決め手として導入する前に、まずは社内全体に制度を適用し、その仕組みや考え方を社員ひとり一人に浸透させることが肝となるだろう。

ソフトバンク・テクノロジー株式会社
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HRプロ編集部

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