障がいのある学生と卒業生を対象に、7カ月間の実践的なインターンシップ・プログラムを実施。 大きな成果を生んだ日本IBMの取り組み

第7回 日本HRチャレンジ大賞(2018年実施) 受賞企業インタビュー

日本アイ・ビー・エム株式会社では、さまざまな障がいを持つ若者を毎年20〜30名規模で7カ月間受け入れ、通常の社員研修と同等レベルのカリキュラムを適用することで、就職に向けた就職観形成とスキル修得を可能にするインターンシップ・プログラム「Access Blue」を実施。社会的意義の大きい優れた取り組みであると評価され、第7回 日本HRチャレンジ大賞『人材育成部門優秀賞』を受賞した。この取り組みの狙いやプログラムの内容、成果などについて、同社の人事担当 常務執行役員 クリスチャン・バリオス氏と、人事 ダイバーシティー企画 部長 梅田恵氏にお聞きした。

第7回 日本HRチャレンジ大賞『人材育成部門優秀賞』

日本アイ・ビー・エム株式会社

障がいのある学生を対象にした実践的な長期インターンシップ・プログラム「Access Blue」

様々な障がいを持つインターンを毎年20〜30名規模で7カ月間も受け入れ、通常の社員研修と同等レベルのカリキュラムを適用することで、就職に向けた職業観形成とスキル修得を可能にするインターンシップは、社会的意義の大きい優れた取り組みであると評価されました。

ゲスト

  • クリスチャン・バリオス 氏

    クリスチャン・バリオス 氏

    日本アイ・ビー・エム株式会社
    人事担当 常務執行役員

    人材コンサルティング会社でIT業界に特化したコンサルタントとして活躍した後、2002年から大手IT企業で北アジアの採用の責任者、日本の人事本部長、アジア太平洋地域のラージ・エンタープライズ・ビジネスの人事統括本部長などを歴任。2013年にシスコシステムズで執行役員人事本部長に就任する。2016年からはインドでの人事役員として活躍。2018年に日本IBMに入社し、現職。神戸大学経営学部大学院でMBAを取得。チリ出身。
  • 梅田 恵 氏

    梅田 恵 氏

    日本アイ・ビー・エム株式会社
    人事 ダイバーシティ企画 部長

    2004年より研究開発部門担当広報課長、2007年からは人事広報担当部長を務め、2008年から現職。女性、障がい者、LGBT、ワークライフに注目した人事プログラム、イベントの企画・開発を担当する。新規導入したプログラムとして、フレックス短時間勤務制度(2009年)、ホームオフィス制度(2010年)、企業内保育園(2011年)、同性パートナー登録制度(2015年)などがある。障がい者雇用においては、インターンシッププログラムの他、障がい者による総務サービス「ビジネス・コンシェルジェ・サービス」(2014年)を開設。

インターンシップ参加者の3割ほどがIBMグループに就職

── 「Access Blue」の概要をご紹介ください。

クリスチャン・バリオス氏(以下、バリオス) 「Access Blue」は、障がいを持つ方を対象とした、3月から9月まで7カ月間の有給インターンシップ・プログラムです。身体・精神・発達といった障がいの種別は問わず、年齢は学部生から院生、卒業後5年以内まで、専攻も理系に限らず文系を含めて、さまざまな方を受け入れています。カリキュラムは、基本的なビジネス・スキルやプログラミングを含むITスキルの学習から始まって、お客様提案を模したロールプレイ、アプリ開発プロジェクト、現場部門でのOJTなど、実践的な内容です。

── これまでの参加者数を教えていただけますか。

梅田恵氏(以下、梅田) 2014年のパイロット、2015年〜2018年の4年間の本格運用で、延べ108名のインターン生が参加しています。その中で3割ほどの方がIBMグループに就職しています。

── 障がい者のみを対象としたインターンシップをこのような人数規模と期間で実施している企業は世界的にも非常に稀だそうですが、御社がこの取り組みを始めることになった理由は何だったのでしょうか。

バリオス IBMの人事のフィロソフィーとして、ダイバーシティも大事ですが、インクルージョン(編集部注:障がい者と健常者を区別することなく均等に機会を作り、能力や経験を認めることの意)の実現に向けた取り組みを非常に重視しているということが、まずあります。多様な人々を単に採用するだけではなく、その多様な人々をいかに受け入れ、それぞれの能力を発揮していただくかということです。

従って、IBMでは、特例子会社による雇用は行っておらず、全ての障がい者が健常者と同様の事業部門で通常の業務を担当しています。この取り組みを始めることによって、会社全体のインクルージョンという組織の強みを拡大していけるとことが、ひとつの大きな後押しになったと思います。

梅田 付け加えると、IBMの人事の基本的な方針にイコール・オポチュニティということがあります。マイナスの部分を持つ人がいるなら、会社がサポートしてゼロのところまで引き上げ、ほかの人と同じスタートラインに立ったら、そこからは自由に競争していただこうという考え方です。実際、当社には、全盲の障がいを持つ浅川智恵子※という女性が1985年にインターンシップを通じて日本IBMの研究所に入社し、現在はIBMの技術職の最高位、「IBMフェロー」になっているという例もあります。ただ、当社としては積極的に障がい者の方を採用したいのですが、障がい者で大学に進学している方が非常に少ないことに加えて、学生時代のアルバイトなどもままならないとあって、面接の際にキャリアに関する具体的な希望や自分の体験をなかなか語れない場合が多いのです。健常者に比べて能力は劣らずとも、経験値が圧倒的に少ないのではないかと考え、このような長期インターンシップを始めることになりました。

自分の障がいに対応した働き方が具体的にイメージできる

── 参加者には、事前に人事の方が面接などをされているのですか。

梅田 事前に説明会を数回行っており、そこに来た方が参加されるケースがほとんどです。また、説明会に参加できなかった方には、電話でインタビューを行っています。長期のプログラムを完走していただけるかどうかが大事ですから、説明会や面談の際に自発的な参加の意志を確認させてもらっています。卒業後5年以内で、意欲のある方、最後まで頑張れる方なら基本的に受け入れています。

── 大学に通いながらインターンシップにも通うとなると、確かに大変ですね。

梅田 春休みと夏休みの期間は毎日出社してもらいますが、それ以外の期間は出社が必要な基本カリキュラムは週2回で、さらに希望者のみ参加の発展カリキュラムが週1回あります。企業に入るとシングルタスクではなく、複数の業務を掛け持ちすることが多いので、そのトレーニングができるようなカリキュラムをデザインしました。IBMが全社員に提供している多様な働き方の選択肢のひとつ、e-ワーク制度(在宅勤務制度)も経験していただいています。

── プログラムの特徴的なところを教えてください。

バリオス IBMのAIツールやEラーニングツールを実際に使ったり、開発コンテストに参加したりと、最新のテクノロジーに触れる機会が多いことは特徴のひとつです。IBMでは、我々が開発者向けに提供しているクラウド・プラットフォーム「IBM Cloud」を使って優れたアプリやサービスを開発し、応募いただくプログラミング・コンテストを一般部門と学生部門で開催しています。これにインターン生のチームが参加して特別賞を受賞しました。

梅田 障がいの種別も年齢も多様な参加者と一緒に過ごす中で、視野が広がることも特徴だと思います。また、当社の社員と交流する機会も設けています。例えば、車椅子のインターン生が車椅子の社員に、通勤やオフィスでの仕事の仕方など具体的な質問をしています。

バリオス 障がいのある方は、自分がどういう働き方をできるのかをイメージしにくいと思いますが、こういう経験を通して、自分の制約に合う、また障がいに対応した働き方をイメージすることができるのではないでしょうか。

現場部門がインターン生を受け入れ、2週間のOJTを実施

── 参加したインターン生の声はどのようなものですか。

バリオス 「自分は障がいを持っているからという日常から、障がいを持っている上で何ができるのかという考え方に変わった」といった、前向きなコメントを数多くいただいています。考えていたような内容とは違っていて、こんな世界があったのかと驚いた方が多いようです。

梅田 キャリアについて考える上で、自分の強みを診断するテストを受けていただいているのですが、強みに注目するということが、障がいを持つ方にとっては衝撃的なようで、「予想もしていなかった」という声が上がっています。

── プログラムの後半では現場部門で2週間のOJTも実施されています。障がいを持つインターン生の受け入れに現場が不安を感じないよう、留意されていることなどはありますか。

梅田 あまり特別なことをすると、かえって手間がかかると思われてしまいますので、受け入れ部門の方々を集めて事前にレクチャーするといったことはしていません。まずはインターン生を私たちが鍛えて、そのクラスの様子を受け入れ部門のマネージャーなどが見学し、「これなら大丈夫そうですね」ということで現場に行っていただいています。終了後は、現場の社員やマネジャーから「学びが多かった」という感想がよく聞かれます。

「Access Blue」はIBMの新たなテクノロジー開発の場にも

── 「Access Blue」の成果についてお聞かせください。まず、参加者の3割ほどをIBMグループで採用されていますが、この方々は健常者と同じように戦力として捉え、今後の活躍を期待されているということですね。

梅田 そうです。採用試験ではインターン生だからといって下駄を履かせるようなことはしておらず、残念ながら不合格になる人もいます。そこをくぐり抜けてエンジニアなど専門職で入っているので、これから頑張っていただけると思っています。

また、成果は採用面だけではありません。「Access Blue」はR&D部門である東京基礎研究所の協力を得ながら実施しており、IBMのビジネスにつながる新たなテクノロジー開発やアクセシビリティリサーチの場にもなっています。例えば、IBMのAIである「Watson」(ワトソン)を活用し、リアルタイムで音声をテキスト化し、翻訳も行う「AI Minutes」というソリューションがありますが、これは、聴覚障害を持つインターン生が実験段階からずっと使ってきて、不具合を修正するといった形で協力しています。音声ナビゲーションシステムについても、実証実験を行った際、データを取るために車椅子のインターン生が4、5人、2週間ほど参加しています。

ダイバーシティとインクルージョンの理解と経験が社内で深まる

── 「Access Blue」の実施による社内の方々への影響はいかがですか。

梅田 当社には、障がいを持つ社員と一緒に働いた経験がない社員がまだ大勢います。そういう社員がインターン生と社内のあちこちで出会い、何か困っている方がいれば自然に手助けするといった光景をよく見かけます。非常に良い影響があると思っています。

バリオス そうした経験によって、障がいを持つ人と自然に接することができるようになります。バイアスや偏見は、知らないことによる恐怖から生じます。それを取り払う経験をすることで、障がいを持つ人を受け入れることだけにとどまらず、多様な人々に対し、より寛容に、よりオープンになっていけると考えています。

梅田 障がいを持つ方の採用についても、重い障害があるとレジュメで見ただけでは「うちの部署で受け入れるのは無理かな」と思われがちです。しかし、いきなり正社員にというのは難しくても、「インターンシップなら引き受けてもいい」ということが多く、実際にOJTで受け入れてみると「意外に大丈夫だった。これなら採用してもよさそうだ」と、少しずつドアが開くようなことがよくあります。

── 御社のような取り組みを始めたいけれども、できるだろうかと不安を感じる人事の方々も多いと思います。何かメッセージをいただけますか。

バリオス 絶対にできると思います。やはりハードルが高いかもしれませんから、ひとまずパイロットで始めることをご提案したいですね。最初は社内で抵抗があっても、やってみると、それほど大変ではなかった、意外に良かったということになるのではないかと思います。

梅田 ご興味があれば、「Access Blue」の見学も歓迎します。実際の様子をぜひご覧いただきたいと思います。

取材を終えて

健常者と同等の能力を持ちながら、障がい者であることから企業で活躍する道を閉ざされている学生は多い。若年労働人口が減少する中、優秀な若手人材の確保という観点からも、日本IBMの取り組みには意義があると感じられた。同社の経営陣は、障がい者雇用の新しいモデル確立を目指す一般社団法人 ACE(企業アクセシビリティ・コンソーシアム)の代表理事を務めており、会員企業の数社が「Access Blue」に参加している。同社では「Access Blue」の見学と参加はウェルカムとのこと。関心がある企業は問い合わせてみてはいかがだろうか。

日本アイ・ビー・エム株式会社

※浅川智恵子さんに関するリンク
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著者プロフィール

HRプロ編集部

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