グッドキャリア企業アワード決定! 受賞企業の取り組みに見る、キャリア形成を成功に導く秘訣

HRプロ編集部取材×注目人事トレンド

ITに代表される技術革新、グローバル化、業界再編、生産年齢人口の減少と就労の長期化……。企業と働く人々を取り巻く環境は、急激かつ劇的に変化している。こうした状況に対応するため、実務経験や訓練を積み重ねてスキルを高めていくこと、すなわち“キャリア形成”が個々の社会人にとって重要だ。企業には、人材育成方針の明確化やキャリア形成を支援する体制の整備などが求められる。ともに目指すのは、社会の変化に対して自分で解決策を見つけ出し突破していくことができる、そんな人材への成長だ。

こうした観点から厚生労働省は、従業員のキャリア形成支援について模範となる企業を“グッドキャリア企業”として表彰している。2012年にスタートしたこの『グッドキャリア企業アワード』(2012年から2015年まではキャリア支援企業表彰)では、日立製作所やソフトバンクといった誰もが知る大企業から従業員わずか十数名の事業所まで、昨年度までに58社が表彰された。2018年度には全国43社から応募があり、下記の通り大賞5社とイノベーション賞5社が決定。2018年11月、東京・銀座の時事通信ホールにおいて表彰式が開催された。

※受賞企業と取り組み内容の詳細は「グッドキャリアプロジェクト」のサイトで確認できる

【グッドキャリア企業アワード2018受賞企業】 ※五十音順

大賞(厚生労働大臣表彰)

株式会社アシックス

(兵庫県/運動用具製造業/従業員1,028人)

〇マネージャーから経営幹部まで次世代リーダーを育成する選抜型プログラム「ASICS Academy」実施〇海外派遣の機会を豊富に用意〇興味のある部門への「エントリー制度」や社内の空きポジションに応募できる「社内公募制度」 など

株式会社KMユナイテッド

(京都府/建築塗装工事業/従業員45人)

〇トップクラスの技能者によるマンツーマンに近い指導体制〇一流の技術をデジタルで確認できる技能伝承テレワーク、スマートフォンからもアクセスできるキャリア支援ツール『技ログ』導入〇永住外国人の正社員雇用、女性の採用を推進 など

コニカミノルタ株式会社

(東京都/事務用機械器具製造業/従業員数6,670人)

〇キャリア開発目標・計画を定める「CDS(Career Development Support)」を全従業員が実施〇節目年齢でのキャリアデザイン研修〇キャリアアドバイザーが全国の主要拠点に常駐〇公募型自己啓発教育「コニカミノルタカレッジ」受講者は対前年比2.7倍〇兼業・副業の解禁 など

東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社

(東京都/金融商品取引業・商品先物取引業/従業員数2,900人)

〇24種類の資格取得支援などからなる「カフェテリア研修」〇「資格マイレージ制度」で昇格要件を可視化〇国内外MBAへの派遣〇高度な専門性や知識を持つ「専門コース社員」認定制度〇若手のAFP(AFFILIATED FINANCIAL PLANNER)資格取得推進 など

UTエイム株式会社

(東京都/労働者派遣業/従業員数14,061人)

〇キャリア支援者の社内資格認定制度「キャリアパートナー制度」創設。2017年度のキャリア面談実績12,000名以上〇将来の幹部やリーダーを目指す「スーパーマネージャースクール」「UTエントリー制度」導入〇エンジニアへの転職を支援する「One UT」 など

イノベーション賞(厚生労働省人材開発統括官表彰5社)

コネクシオ株式会社
(東京都/電気機械器具小売業/従業員数7,141人)

〇新卒社員をサポートするメンター制度に社内SNSを活用〇100科目以上のeラーニングを全従業員に無料提供。指定科目の修了を昇格・正社員登用の条件としたことで1人当たり年間修了科目数3倍以上増加。正社員比率は33.9%(2012年)から75.6%(2018年)に上昇 など

白鷺電気工業株式会社
(熊本県/電気工事業/従業員数118人)

〇「資格応援プロジェクト」創設。資格取得表彰金や資格手当の見直し、資格の賞与への反映などに取り組む。資格手当の総額は年間額で2.5倍に〇30代〜40代の中堅社員から中期経営計画策定メンバーを3年ごとに選抜 など

株式会社東邦銀行
(福島県/銀行業/従業員数3,113人)

〇新入行員に研修センターにて2か月間の長期研修を実施〇朝・夕に「TOHO Morning School & Evening School」開催。TV会議システムで全店にリアルタイム配信。開講1年で9,000人以上が受講 など

株式会社ナンゴー
(京都府/はん用機械器具製造業/従業員数15人)

〇研修は原則として全額会社負担〇各自の業務内容を全社員が共有、研修参加中などにフォロー〇加工に関する社内テストを毎月実施〇他の社員への感謝の念を示す手書きの「サンクスカード制度」導入。相手の良いところを探すことで主体性や人間力が向上 など

社会保険労務士法人ハーモニー
(千葉県/社会保険労務士事務所/従業員数23人)

〇外部研修参加費用として年10万円まで支援〇月1回のコンサル会議でチームごとの育成状況を役員とチーム上長が共有〇業務面での専門性を高めるチーム横断型「コンサル勉強会」や異業種研修の場「ロウムカフェ」開催〇社会保険労務士の資格取得を推奨、合格お祝金制度導入 など

8つの要素がグッドキャリアを生み出す

表彰式では、厚生労働省若年者・キャリア形成支援担当 参事官付 キャリア形成支援室長の松P 貴裕氏(写真左)から審査総評が発表され、パネルディスカッションも実施。不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」を運営する株式会社LIFULLの執行役員で『日本一働きたい会社のつくり方(PHP研究所)』著者・羽田幸広氏の講演も行われた。これらで披露された話や各受賞企業の取り組みからは、キャリア形成支援を成功へと導くための8つのキーワードが見えてくる。

●現状把握と必要性の認識
コニカミノルタは看板だったカメラ/フォト事業から撤退、現在の主力はオフィス関連とヘルスケア事業だ。東邦銀行は3・11を経験し、UTエイムはリーマンショック後に対応事業の多様化を迫られている。そうした現状把握のうえで「事業の転換にともない人財もトランスフォームしなければならない(コニカミノルタ)」、「3・11以後の多様化するニーズに応えられる人材の育成が急務(東邦銀行)」など、キャリア形成支援の重要性を強く認識するところから取り組みをスタートさせている。

●取り組みの多様性・柔軟性
東邦銀行は陸上競技部がウォーキング講座を開講し、アシックスは育児との両立など女性特有の課題に向き合う女性社員対象のキャリアデザイン研修を実施。コニカミノルタの「コニカミノルタカレッジ」は毎年内容をブラッシュアップしている。UTエイムの「Next UT」は、派遣先企業への転籍支援という、ある意味で究極のキャリアアップ(過去2年半で約300名が大手メーカーなどへ転籍)だ。各社とも多様性と柔軟性に富む手法を実践している。

●チャレンジを支援
東海東京フィナンシャルでは社内公募制度によって260名以上が新しい職場に異動し、UTエイムは製造職から管理職・一般職へ、やがては執行役員へとステップアップするための制度を導入(同社の幹部役員も大多数が派遣の経験者)。“学び”だけでなく“新たな挑戦”も支援している。
羽田氏(写真右)の講演でも“挑戦”の重要性が説かれた。LIFULLは「2025年までに100の子会社を作る」との目標を掲げており、新規事業提案制度「Switch」を通じて新卒3年目で子会社の社長になった社員もいるという。通常業務から離れて新たな技術や手法に挑戦する「クリエイターの日」も設け、挑戦機会を重視することでスキルアップを促しているのである。

●公正なシステムの構築
東海東京フィナンシャル・ホールディングス、コネクシオ、白鷺電気工業など、資格取得や講座受講を昇進・昇格・登用・昇給の条件としている企業も多い。ステップアップへの条件が可視化された公正なシステムであり、東海東京フィナンシャル・ホールディングスの「資格マイレージ」は審査総評で「制度の見える化。最新の手法」と高く評価された。

●先端技術の活用
コネクシオの社内SNSを活用したメンター制度が審査総評で「若い社員にマッチした手法」と評価されたほか、KMユナイテッドの「技ログ」などITを利用した取り組みも目立つ。

●社外との連携
ハーモニーが主催する異業種研修の場「ロウムカフェ」、兼業・副業を解禁したコニカミノルタ、従業員を米FRBにも派遣する東邦銀行など、各社とも他企業が持つ知恵やノウハウを人材育成に活用。幅広い知見を持つ定年退職者をキャリアアドバイザーとして採用したコニカミノルタのほか、外部からキャリアコンサルタントを招いている企業も多い。

●継続の重要性
アシックスの「ASICS Academy」は次期経営幹部の育成まで見据えた取り組みで、審査でもその継続性が評価された。東邦銀行は「TOHO Morning School & Evening Schoolへの反応も当初は冷ややかだったが、続けることで受け入れられた」と継続の重要性を語る。

●人と人との信頼
羽田氏は講演で「制度は、作るだけでなく利用してもらわないといけない。そのためには心理的安全性が大切」と述べている。LIFULLでは子会社の事業が失敗しても評価は下がらず、またチーム内の緊張関係を取り去って人間関係の質を高めるべく“仲良くなるため”の予算も設けられているという。

今回の受賞企業も「キャリアコンサルタントが建設現場へ赴くことで、従業員は『働いているところを見てもらえる』と喜ぶ」というKMユナイテッドなど、人と人との関係を重視。ナンゴーの「サンクスカード制度」もコミュニケーションを高める施策と審査総評で評価された。

従業員の自律的なキャリア形成が企業を救う

グッドキャリア企業アワードでは従業員が自律的・継続的に自らのキャリア形成に取り組んでいる状態を“グッドキャリア”と定義している。今回の受賞企業は「自主的にキャリア面談を受ける社員、公募制度などを利用する社員が増えた」と口をそろえており、まさしくグッドキャリア企業と呼べる。

一方で、会社が期待する能力と従業員の取得能力がミスマッチすることも避けたい。会社が今後の方向性を積極的に発信し、社員に「会社が変わるのなら自分も変わらなければ」と感じさせたコニカミノルタや、審査総評で「個々の努力だけでなく組織による支援の重要性がわかる」とされたハーモニーのように、ある程度は会社側が主導し、社員に自主性が芽生えるよう促す必要がある。パネルディスカッションでコーディネーターを務めた坂爪洋美氏(法政大学キャリアデザイン学部教授、写真上)も「グッドキャリアの基本は自主性。そのために何が必要か会社側も学び続けなければならない」と述べている。

東邦銀行は働き方改革(労働時間短縮)によって空いた朝・夕の時間帯を有効活用して講座を開いている。従業員数の少ないナンゴーや個人事務所としてスタートしたハーモニーは、OJTなどにパワーを割く余裕がなく、育成が捗らないという悩みを抱えていたが、知恵と工夫と手作りの支援策で乗り越えようとしている。また今回は、いわゆるシェアードサービスカンパニー(グループ企業の人事部門などを共有・統括する法人)からも応募があったという。受賞には至らなかったが、審査総評では「今後期待できる分野」とされた。グッドキャリアを重視する企業は、今後も試行錯誤しながら、従業員の自主性を引き出し、キャリア形成への支援を続けるだろう。
「キャリア形成は中長期的な取り組みであり、効果が目に見えるようになるまで時間がかかる」と考える経営者も多いだろうが、それは間違いだ。UTエイムでは入社初期の社員との面談を強化した結果、離職率が改善。キャリア形成に意欲的な社員の姿はクライアント企業の目に頼もしく映り、新規顧客の紹介につながる例も出てきたという。ハーモニーでも顧問先の満足度上昇により売上アップ。KMユナイテッドでは技術の向上が顧客満足度を高めて収入増につながり、作業効率化によるコスト削減も実現している。女性管理職の比率が高まった企業も多い。

鈴木俊彦厚生労働事務次官の挨拶でも「個人のキャリア形成と企業の成長はWin-Winの関係」との言葉が出た。確かにキャリア形成は、意外と短いスパンで、しかも無視できないレベルで、事業に波及効果をもたらすのだ。今回の受賞企業の多くがそうであるように、迅速に解決すべき問題を抱えている企業ほど、従業員のキャリア形成支援に乗り出すべきなのかもしれない。そして、その取り組みに対する成果を客観的に確かめる意味でも、あなたの企業でも『グッドキャリア企業アワード』への参加を検討してみてはいかがだろうか。
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