HR総研では、「人事の課題とキャリアに関する調査」を2017年4月5日〜4月18日に実施した。前回は「人事の課題」について確認したので、今回は「人事のキャリア」について確認してみたい。「組織の現状」と「個人」の両側面から見てみよう。

人事に最も必要なスキルは「コミュニケーション能力」

人事部門の業務を遂行する上で必要な能力・スキルは何だろう? 
最も多かった回答は、「コミュニケーション能力」で81%である。人事は社内の様々な部署、社外の組織(サービス会社、大学、社労士など)と関わり、調整するのが仕事だから当然の能力だ。第2位は、「企画・戦略立案力」(70%)、次いで「経営感覚」(63%)であり、4位以下に「専門知識の高さ」(58%)、「社内人脈」(55%)、「情報感度」(54%)、「社外人脈」(52%)、「情報収集能力」(50%)が並んでいる。どうやら人事とは、「人と話す」ことが根幹の仕事のようだ。これらの必要スキルに関して規模や業種によって大きな差異は見られない。

【図表1】人事部門の業務を遂行する上で必要な能力・スキル

役割遂行のリソースは足りないものだらけ

「人事部門の業務に求められている役割に対して、それを達成するためのリソース(能力・スキル開発の機会の提供、予算、人員の拡充など)が十分に提供されているか」に対する回答では、「十分提供されている」は全体のわずか4%ととても少ない。「ある程度提供されている」(39%)が4割弱を占めたものの、「あまり提供されていない」(35%)と「全く提供されていない」(15%)で半数を占めている。
ただ、企業規模による違いはあり、「1001名以上」では「提供されている」が48%だが、「301〜1000名」では44%、「300名以下」で39%と規模が小さくなるほど低い傾向がある。

【図表2】人事部門の役割を達成するためのリソース(能力・スキル開発の機会の提供、予算、人員の拡充など)は提供されているか

人員が足らず「手一杯」の人事

「提供されていない」と感じるリソースでは規模別の違いが興味深い。「1001名以上」で目立つのは「人員」。人が足りないということだ。「301名〜1000名」や「300名以下」では「能力開発の機会」、「スキル開発の機会」、「人脈」、「予算」が足りないという。
コメントから拾ってみよう。「手一杯」という言葉が目立つ。
・人員不足で、考えるべきことを考えられていない。目先のアクション(毎年の採用・新人教育業務を回す)で手一杯の状態である(メーカー、1001名以上)
・生産性を上げるためのツールが検討されないまま、人員を維持もしくは削減されて、ミッションだけ増加している(メーカー、1001名以上)
・要員計画に対して採用担当者が不足。面接対応で手いっぱい(商社・流通、1001名以上)
・仕事が増えるが人員はもとのままで作業に忙殺されている(サービス、300名以下)
・就業時間中の社外研修への参加が認められていない(メーカー、300名以下)

【図表3】「提供されていない」と感じるリソース

「あるべき人事のキャリアパス」と異なる実態

「人事部門のキャリアパスはどうあるべきか」という設問では、「最初は現場に配属し、その後管理部門での経験を積むべき」が61%を占め、圧倒的に多い。企業規模が大きいほど「現場配属、その後に管理部門で人事の専門家」が多く、「1001名以上」では71%だが、「300名以下」では51%と20ポイントも低い。逆に「人事の専門家としてずっと管理部門での経験を積むべき」は規模が小さいほど多く、「1001名以上」では9%だが、「300名以下」では26%と2倍以上の差がある。
しかし、実態は違う。「営業や製造など現場を経験してから人事へ異動」は全体の23%であり、どの企業規模でも大差はない。「総務や経理など管理部門の中で異動」(20%)、「人事としてずっと異動せず、特定の領域に取り組む」(22%)、「人事としてずっと異動せず、担当領域を変更していく」(19%)を合わせると61%だが、これらは「現場を経験していない」ことを意味する。

【図表4】あるべき人事部門のキャリアパス
【図表5】人事部門で最も多い異動パターン

人材配置・育成課題を8割の企業が抱える

「人事部門の人材を配置・育成する上での課題」について聞いたところ、「ある」と回答した企業がなんと81%を占めた。2016年の調査より2割増えている。コメントを見ると、人員が足らないにも関わらず、なかなか優秀人材を人事に配属できず、時間も予算も足りない様子が見て取れる。
・要員的に余剰がないため、異動により、必要なスキル・知識の習得に時間がかかる。効率化と業務連続性をどうバランスをとるか(サービス、1001名以上)
・人事部門の人材を育成するという考え方がそもそも社内にない(メーカー、1001名以上)
・それなりにポテンシャルのある人材を配置したいが、各部門が優秀人材を囲ってしまって離さない(メーカー、1001名以上)
・広い視野を身につけさせるために、他部署への異動などローテーションを経験させたいが、人員に余力がなく実現できていない(メーカー、301〜1000名)
・業務のレベル感や領域を広げたいが、会社として人事部門の強化よりも事業を優先する傾向にあり、人事部門の強化がしづらい。結果キャリアアップ機会も限られやすい(情報・通信、300名以下)
・若い女性が担当になるケースが多いが結婚を機に退職する方が多い(商社・流通、300名以下)
・人事分野に興味のある人材で、営業マインドを持つ人材が極端に少ない、またはいない(マスコミ・コンサル、300名以下)

【図表6】人事部門の人材配置・育成課題の有無

人事の4割強が転職経験者。中小では半数以上

ここからは、人事の個人の状況について見てみよう。
まずは、人事職としての転職経験を聞いたところ、全体の4割強が転職経験者だった。業種によって少し差があり、非メーカー系の転職経験者が多く(51%)、メーカー系(33%)より18ポイント高い。
企業規模別に見ると、「1001名以上」では「(転職したことが)ある」は20%と少ないが、「301名〜1000名」では43%、「300名以下」では54%と規模が小さいほど転職経験者が多い。新興企業やベンチャー企業では管理部門の人材力が弱く、人事経験者の中途採用ニーズが強いことを裏付けている。大手企業では社内での育成や異動で賄われ、人事職としての中途採用は少ない。

【図表7】人事職としての転職経験の有無

人事キャリア希望は8割

人事担当者はキャリアを継続したいという人が多い。「今後も人事部門でキャリアを積んでいきたいか」という設問に対し、「ライフキャリアとしたい」が48%、「ある程度人事でキャリアを積みたい」が32%であり、合わせると8割が「今後も人事業務を継続したい」と回答している。「人事のキャリアは卒業したい」はわずか7%に過ぎない。
就職する際に「人事になりたい」と思って入社する人は少ないだろう。多くが本人の希望とは関係なく、配属や異動で人事となったわけであるが、いざ人事の仕事を経験してみると、その魅力、やりがいを気にいっているということである。

【図表8】今後も人事部門でキャリアを積んでいきたいか

社外の人事ネットワーク5名以下が7割

仕事上の情報交換ができる社外の人事担当者、及び人事経験者との人脈・ネットワークの人数を聞いたところ、社外の人事ネットワークを一切持っていないという人が全体の2割に及び、「1〜2名」19%、「3〜5名」33%と、5名以下の人事ネットワークしか持っていない人が72%にも達した。2桁の人事ネットワークを持つ人は、「1001名以上」でも11%に過ぎない。人事の仕事は、現状維持でよいのではなく、事業構造の変化に合わせて、あるいは組織の活性化や生産性の向上を目指して、絶えず現在の組織や施策を見直し、新しい試みを取り入れていく必要がある。そこで重要になるのが「他社事例」である。もちろん他社のやり方がそのまま活かせることは少ないだろうが、成功事例、失敗事例を数多く入手することで、将来起こりうる課題や障害に対して前もって対策することができることは大きい。社外の人事ネットワークの数および質は、極めて重要な財産であるといえる。

【図表9】仕事上の情報交換ができる社外の人事ネットワークの人数

では、人事ネットワーク人数の多い人は、どのように人脈を構築しているのだろうか。人脈構築の方法を見てみると、人事ネットワーク人数の多い人ほど、人事担当者向けセミナー・勉強会、人事担当者向け研修、異業種交流会に出かけている。人に会う機会が多ければ、人脈は豊富になる。
人脈構築の様子はフリーコメントでよくわかる。
・人事系研修に参加したことをきっかけに横のつながりを広げた(メーカー、1001名以上)
・セミナーで積極的に名刺交換し、事後に面会のアポをとる(メーカー、1001名以上)
・異業種交流会等に継続的に参加して交流している(メーカー、1001名以上)
・人事セミナーで知り合った方々との勉強会など(商社・流通、1001名以上)
・人事担当者向けセミナー・勉強会には積極的に参加し、同じような悩みを持つ人たちと情報共有したり、前職の人事の同僚や社会保険労務士たちと情報交換をしたりしています(サービス、300名以下)
・異業種人事経験者との定期的かつ建設的な情報共有(プライベートな付き合いも含めて)(メーカー、300名以下)。
要するに「セミナー・交流会に出る」→「名刺交換をする」→「再度の面会の機会を作る」→「次第に人脈ができる」という流れだ。名刺を交換すれば自動的に人脈になるというものではない。

調査概要

調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査対象:上場および未上場企業人事責任者・担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2017年4月5日〜4月18日
有効回答:169社(1001名以上:21%、301〜1000名:32%、300名以下:47%)