仕事を辞める決意を固めたら、まずは上司に告げるものだ。だが、それを聞く上司の側は、できれば、簡単に辞めないでほしい、辞める場合でも、退職後にトラブルを起こさないでほしい、そんな気持ちを持っているはず。だが、そのためにどうすればよいのか、となるとなかなか難しい。

実は退職を申し出たときの上司の態度で、結果は大きく変わってくるのだ。
部下が退職を申し出たとき、上司が言うべき3つのポイント

問題社員ほど慰留せよ

 「実は、今月末で退職したいんです」
と、部下が退職願を持ってきた。
 「退職だって? 困るよ。なんとか考え直せないか」
これがふつうの反応だろう。

だが、退職しようとまで気持ちを固めている場合、上司に困ると言われてもあまり響かない。もう自分には関係ないからだ。
慰留するときのポイントは、その部下がどのように会社に役立っていたのか、どこを努力していたのか、得意な点はなんなのか、具体的に伝えることである。

どんなささいなことでもよい。あなたが社会人としてできて当たり前、と思っていることでも、部下にしてみれば、努力して身につけたことかもしれないし、他の人よりも優れていると思っている部分かもしれない。

長所と短所は背中合わせだ。たとえば、いつも仕事が遅くていらいらしていた相手であれば、「いつも慎重に確実に仕事をすすめてくれていたね」といえばよい。

ウソを言うわけではなく、あなたの見方を裏返してみるだけなのである。

相手が問題社員で「こいつさえ辞めてくれれば、もっとラクになるのに」と、内心思っていた相手だとしても、にっこりして「わかった。君も熟考して決めたことだろうから、あえてひきとめないよ」などと言ってはいけない。

直属の上司であるあなたとうまくいっていなかったのだから、その部下にとって、会社が居心地のよい場所だったわけがない。自分の能力はこの会社では活かせない、上司は自分のよい点をまったく見ようとしない、ともやもやを抱えている可能性が高い。

人間は、自分から辞めると言っても、まったく慰留されないと、寂しく物足りない感情を抱くものだ。最後に、会社と上司であるあなたの印象を悪くする、ダメ押しをする必要はない。礼儀だと思って、きちんと慰留すべきである。

 とくに文句も言わず退職した後に、未払い残業代があると言って請求してきたり、パワハラを受けた、と言って会社を訴えたりする例が後を絶たない。会社に対してよくない感情を持っていた相手であればあるほど、最後まで人間関係をつなぐ努力をし、そのようなトラブルを防ぐべきなのである。

退職の2大理由を押さえよ

 次に、上司が言うべきことは、「なにか人間関係の悩みがあるんじゃないの?」という質問だ。

 表向きは、「家庭の事情」や、「別の仕事がしてみたい」などと当たり障りのない理由をいうが、ホンネは別のところにあり、ホンネの退職理由のトップは、やはり「人間関係」だという調査結果もある。

 人間関係の悩みは、いつでも職場のストレスの最大の原因であり、退職の大きな理由でもあるのだ。

 「言ってもしょうがない」と思っていた部分に対して、親身な態度で水を向けられたら、問題点を話してくれる可能性も高いし、そこから退職自体を翻意する可能性もある。そこまではムリだとしても、「上司はやはりわかってくれていた」と、あなたや会社に対してよい感情を持って退職することになるだろう。

 第三に言うべきことは、「君がこの先続けてくれたら、こういうキャリアアップを考えていたんだよ」という、部下のキャリアプランに対する自分の考えである。

別の調査では、新卒3年以内に退職した社員の退職理由トップは、「キャリア成長が望めない」であるという結果が出ている。

この会社にずっといても、自分は職業人として成長できない、という気持ちは理解できる。だが、経験の浅い部下が、狭い視野からそう思い込んでいるだけ、という場合もあるのではないだろうか。また、会社や上司が考えているキャリア成長と、本人が思っているものの間にギャップがある、という場合もあるだろう。

たいていの上司は部下の今後のキャリアについて、それぞれの成長度合いや性格に合わせた見込みを持っているものだ。だが残念ながら、それを本人にきちんと伝えている上司は少ない。そこから、「この会社に長くいてもしかたがない」という気持ちが生まれてきてしまうとしたら、あまりにももったいない話である。

部下から退職を告げられたら、まずは本人のよい点を話して慰留する、人間関係の悩みを尋ねる、今後のキャリアプランを伝える、この3点をぜひ覚えておいてほしい。

メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/セクハラ・パワハラ防止コンサルタント/産業カウンセラー
李怜香(り れいか)

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