『ChatGPTの法律』(中央経済社、2023年)の執筆陣である弁護士が、企業の人事担当者が押さえておきたいChatGPTにまつわる法的リスクやリスク回避策などについて、3回に分けて解説します。連載の初回では、リスクやその回避策の検討の前提として、そもそもChatGPTは何なのかを簡単に説明したうえ、企業における実際の活用例などについて紹介します。
今さら聞けない「ChatGPT」の意味と企業での具体的な活用事例を解説

はじめに

OpenAI社によるChatGPTをはじめとした「生成AI」に大きな注目が集まっています。企業での利用にあたっては、どのような業務に活用できるのか模索される一方、利用にあたっての法的なリスクや予防策の検討も欠かせません。

著者らは2023年6月、中央経済社より『ChatGPTの法律』と題する書籍を刊行する機会をいただきました(分担執筆)。本連載では、ChatGPTを企業で利用するにあたって、留意すべきリスクや、リスクを低減させるために抑えておいていただくべきポイントについて、同書籍の内容から更に掘り下げて解説できればと思います。

本連載では、まず、法的リスクなどの紹介に入る前に、その前提として、そもそもChatGPTとはどのようなものなのか、簡単に説明を行います。そのうえで、企業における実際の活用事例などについて紹介します。第2回では、このような活用例を踏まえて、ChatGPTの利用にあたり留意しておきたい法律関係や法的なリスクについて説明をします。第3回では、第2回で紹介した法的リスクを念頭に、リスクを回避するために講ずべき手立てなどについて検討・紹介します。

いまさら聞けない「ChatGPT」の概要

(1) 「ChatGPT」って何?

「ChatGPT」についてよく知っている、あるいは既に業務で活用している方もいらっしゃるかもしれませんが、十分馴染みがない方に向けて、簡単にその概要を紹介します。

ChatGPTは2022年11月に米国のOpenAI社よりリリースされた、いわゆる対話型の生成AIサービスです。通常の話し言葉(自然言語)で質問や指示を入力するだけで、自動で回答が生成され、かつ、その回答の内容も、理解しやすい自然な話し言葉でなされます。

これまでも、指示や質問を自然言語で入力し、これに基づいて回答を出力するチャットボットなどが利用されていました。しかし、従来のチャットボットでは、あらかじめ、質問されうる内容とその答えを網羅的に入力しておき、想定された質問が来たらこれに対応する回答を吐き出すというものでした。予測される質問と答えの対は人間が人力で入力せねばならず、予想外の質問には対応できないという問題があったのです。

ChatGPTは、事前に、ネット上にある大量のテキストデータを含む膨大なデータを学習させた大規模言語モデル(Large Language Model、LLM)に基づいて、テキストを生成しています。もう少し突っ込んで説明すると、学習した膨大なデータを分析して、言葉の相互の関係性を学習し、これに基づいて、これまでの文脈に照らして「その次」に来そうな語を予測し出力することを繰り返し、文章を生成する、という仕組みになっています。ちなみにGPTはGenerative(生成)とPre-Trained(事前学習済の)の頭文字からなっています。

このように聞くと、やっていることは意外と単純で、人間の精神活動とは全然違うような印象を受けるかもしれません。でも、実は人間が何かを学習したり言葉を生み出したりする仕組みやメカニズムは、厳密には明らかにはなっておらず、中には、人間が言語を生成する際も同じようなメカニズムになっているのではないか、という人もいます。

以上紹介したような仕組みになっているので、事前に質問と回答の対を入力しておく必要はなく、新たな質問が来た場合には、LLMに基づき学習した言葉の相互関係に基づいて、その場で「考えて」回答を出力することができることになるわけです。

ただし、自然な話し言葉で回答がなされるといっても、回答内容が正確かどうかは別問題で、「いかにももっともらしくでたらめな回答をする」などといって問題にされることがあります。

また、学習の過程はブラックボックスであり、生成された内容が学習の素材の著作権などを侵害していないか、個人情報を不適切に取得したものでないか等の懸念も示されているうえ、利用者がChatGPTに入力した情報も、一定の場合には学習に利用されることとされており、利用の仕方については留意が必要と指摘されています。

(2) ChatGPTの使い方

ChatGPTは、OpenAI社が開設したウェブサイト(※)を通じてアカウントの登録をすれば利用することができます。2023年10月時点では、無償で使えるプランと有償のプランとがあり、無償のプランではGPT-3.5というモデルを利用できます。有償のプランでは、これに加えてより最新モデルのGPT-4を使えるうえ、さまざまな「プラグイン」を利用できたり、Webサイトを巡回(ブラウジング)して得てきた情報にも基づいて、回答を出力したりすることができるのです。

2023年10月時点では、ChatGPTは2022年1月時点までの情報に基づいているところ(カットオフ日といいます)、Webサイトのブラウジングに基づく回答ができれば、それ以降のより最新の情報にも基づいて回答を得ることができる点でより利便性が高まりました。ただし、この機能は、2023年5月に一度リリースされたものの、Webサイトの所有者の権利を侵害しかねないということで、7月に公開が停止されていました。その後9月後半になって利用が再開されたものです。

なお、プラグインは、ChatGPTに追加の機能を付加する拡張機能であり、例えば、公開されている「食べログ」のプラグインを利用すれば、食べログのサイトに掲載されている店舗の情報や予約情報等に基づいて、利用者の質問に回答することができます。

以上はOpenAI社のウェブサイトを通じて(あるいは一部制限される機能もありますがiOSやAndroidアプリを通じて)ChatGPTを利用する場合の説明ですが、利用の方法はそれには限られません。

アプリケーションの中にChatGPTを組み込んで利用することもできます。OpenAI社はChatGPTをAPI(Application Programming Interface)としても提供しており、アプリケーションの開発者は、このAPIを使用してChatGPTのモデルを統合し、アプリケーションやサービスに対話機能を組み込むことができます。実際、ChatGPT APIを活用した様々なサービスが展開されています。

あるいは、企業個社ごとに従来のモデルに微調整を加えて企業内部でのみ利用することもされています。その企業独自の情報に基づいた回答を生成させたり、入力された情報が学習に利用されたりしないようにする観点からそのようなことが行われています。

企業における具体的な「ChatGPT」活用事例

概ね2023年初旬頃からChatGPTの企業における活用が模索され始めたように感じられます。

例えばMicrosoft Azure上に構築された社内限定の環境でサービスを実行し、セキュアな環境で機密情報が取り扱われるようにすることで、一部の企業においては「社外秘」に該当するような一定の情報の入力も許されているようです。ただ、個人情報を含むあらゆる情報の入力を許容する企業は、今までのところ見当たっていません。

もっとも、多くの企業においては、そのような社内限定の環境を整えるまでには至っていないのではないかと思います。また、企業として公式にChatGPTの利用を是認したり、あるいは月額利用料金を支払うということまではせずに、事実上の利用を黙認したり、あるいは建前上は利用を禁止したりなど、広い範囲で業務に関連する情報の入力を禁止する旨のガイドラインや社内規程を設けるようといった対応を取っていることが、実際には多いように思われます。

実際の活用方法として、まず社内限定の環境を構築している企業において多いと思われるのは、社内外の情報を効率的に検索したり、その内容を要約したりするといった活用方法が挙げられます。社内限定の環境によらずとも、Webブラウジングの機能によれば最新の公開情報にアクセスすることができるため、このような活用も可能ではありますが、社内限定の環境であれば、非公開な情報にもアクセスできるうえ、社内の専門用語等についてファインチューンが施されていることから、より必要な情報へのアクセスがしやすくなるように考えられます。

ほかには、アウトプットの手助けとしてChatGPTを活用することが行われているようです。

まず、実際の業務内容には立ち入らず、事務的なメールのドラフトや添削などをChatGPTにやってもらう例があるようです。このように、機密情報や個人情報を入力しない前提であれば、活用できるケースは多そうです。実際筆者も、海外の関係者に英文で事務的なメールを送る際にChatGPTを利用することがあります。案件の突っ込んだ内容を入力することは憚られますが、「こういうシチュエーションで、こういうことを伝えたいので、ネイティヴの方から見て自然な表現でメールをドラフトして欲しい」と指示すると、多少の手直しは必要ではあるものの、ゼロから作成するよりは大分早く、まずまず「使える」ドラフトを出力してくれます。

さらに突っ込んで、対話によってコーディングを手助けしてもらったり、社内資料のドラフトなどを作成させたりする例もあるようです(既存の業務フローやドキュメントをベースとしたマニュアルやFAQを作成してもらったりすることが考えられます)。これらにあたっては、前提知識として社内の情報を入力してやる必要があるため、情報管理の在り方との関係で検討が必要になるでしょう。

いずれにせよ、最終的な成果物は人間の目で確認し、誤った内容が含まれていないか、人間が責任を持ってアウトプットすることが殆どではないかと思います。

また、OpenAI社において、最新の画像生成AI「DALL-E3」の利用をChatGPT上で提供する予定であると報じられており(※) 、今後は、ChatGPTとの対話を通じて画像を生成することができるようになっていきそうです。そうすると、画像を含むコンテンツの制作を行う企業にとって、ChatGPTを通じて成果物を作成することも考えられるでしょう。その際、委託元との関係や、生成された成果物に関する知的財産権についてどう考えるかなどが、今まで以上に問題になっていきそうです。

さらに、以上のように、具体的に得たい情報や出力したい内容が決まっているときにChatGPTの手を借りるだけではなく、アイデア出しのための「壁打ち」相手としてChatGPTを利用することも考えられます。米国等は、日本と比べてこのような使われ方をすることが多いと聞いたことがありますが、最近では日本でも「壁打ち」のために活用する例が増えてきているように感じます。

人間のアシスタント相手に、「~~の案を100個考えてみて」と指示すると場合によるとパワハラになってしまいますが、ChatGPTであれば短時間でこなしてしまいます。その中で使えそうなものがあるか、それをどう膨らませていくかは、人間が引き取るというような活用の仕方になります。

この場合も、前提知識として突っ込んだ内容を説明しようとすればするほど、機密情報の取扱いとの関係で留意すべき事項が増えるでしょう。

採用と「ChatGPT」

では採用の局面ではどうでしょうか。ChatGPTのもとでということではないですが、2014年頃、AmazonはAI技術を利用した採用ツールを開発していたようです。しかしながら、過去に男性の応募者が多かった実績を反映し、採用される者が男性に偏ってしまう(男性を高く評価してしまう傾向を持つ)という問題があり、運用を停止したと報じられています(※)

このようなこともあってか、本稿執筆時点で、ChatGPTを利用して採用を完結させる企業の存在を把握するには至っていませんが、スカウト文面の作成等であれば比較的容易に(抵抗感少なく)ChatGPTを活用できそうですし、あるいは、更に進んで、経歴や履歴書の情報からレーティングを行うことによって選考の補助に活用することはあり得そうです(もしかしたら既にそのような形でChatGPTを活用している企業もあるかもしれません)。ただし、その際は、応募者への情報提供の在り方や、個人情報の取扱いについて、十分な検討が必要になるでしょう。また逆に、応募者の側でも応募にあたってChatGPTを利用することがあり得るかもしれません(※)

おわりに

以上、いまさら聞けないChatGPTの概要や、企業における活用例について説明させていただきました。次回以降では、法的な観点も取り入れ、どのようなリスクがあり得るか、どのようにしてこれに対処していくべきかについて、説明をしていきます。
今さら聞けない「ChatGPT」の意味と企業での具体的な活用事例を解説
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