障がい者雇用では、採用前に障がい者とわかっている場合だけではなく、採用後になんらかの事態によって中途障がいとなるケースがあります。例えば、事故や病気などの後遺症や影響、仕事内容や職場の人間関係などが合わないなどの理由からメンタル面でのサポートが必要となることなどです。このような時に企業はどのような対応をするとよいのかについて解説していきます。
社員が中途障がい者になったらどうする? 職場復帰時にできる配慮は

中途障がいと中途障がいになる要因とは

中途障がいとは、生まれてきた時からある「先天性障がい」とは異なり、生まれたのちの「後天的障がい」となる病気や事故、環境要因、加齢、その他原因不明の事態によって生じた障がいをいいます。例えば、脳卒中、交通事故による後遺障がい、突然襲ってくる難病、そして内臓疾患による障がいなどです。主な後天的障がいとその影響は次のようなものがあります。

・脳血管障がい
「脳血管障がい」とは脳内出血や脳梗塞による症状で、一般的に「脳卒中」と呼ばれています。医学の進歩により発症による救命率は高くなっていますが、発症後に片麻痺(左右のどちらかが麻痺状態になる)、言語障がい、失語症、感覚障がい、記憶障がいなどの後遺症が残ることがあります。

・交通事故を含む各種事故による障がい
車やバイクによる交通事故、その他職務上の事故などから生じる障がいです。事故により体の一部を失ったり、脊髄損傷で車椅子生活になることがあります。身体的な障がいに加えて、脳血管障がいと同じように記憶障がいや注意障がい、長期間の入院生活などにより対人関係がうまくいかないなどの社会的行動障がいを発症するケースもあります。

・病気等による障がい
腎臓の機能が著しく低下して人工透析が必要になる場合や、糖尿病などを発症した際に起こる失明、足を切断することや大・小腸疾患によるオストメイト(人工肛門や人工膀胱の手術を受けた人)などがあります。

・ストレスや環境変化による障がい
メンタルヘルスが不調になることは、心の働きがうまく機能しないことにより、ストレスや炎症反応が生じることを指します。心の働きには、感覚と知覚、経験や思考、会話、記憶、意識、感情、行動、人格、知能などのいろいろなものが含まれます。

メンタルヘルスの不調は、様々な原因が複雑に絡まりあって陥るもので、その中でもストレス要因に対する脳の脆弱性の影響が大きいと考えられています。誰でもそれぞれに多少なりともストレスを抱えながら生活していますが、そこに職場における仕事の負担(量や質)、対人関係の悪化、長時間労働、努力の報われない仕事やハラスメントなどの日常のトラブルなどが重なって蓄積されることにより、脳に強い影響を与えることになります。

採用後に中途障がいとなった従業員に行う配慮事項

採用後に中途障がい者となった従業員に企業が行う配慮事項としてどのようなものがあるのか、「平成30年度障害者雇用実態調査結果」から見ていきます。

身体障がい者となった従業員を雇用する事業所の56.2%は、職場復帰について配慮を行っていると回答しています。配慮している内容としては「配置転換等人事管理面についての配慮」が76.1%と最も多く、次いで「職場復帰準備期間中の雇用継続」が70.4%と多くなっています。

また、採用後に精神障がい者となった従業員を雇用する事業所の91.0%が職場復帰について配慮を行っていると回答しています。配慮している内容としては「その他(本人、家族への連絡、医療機関との連携等)」が100%と最も多くなっており、次いで「職場復帰準備期間中の雇用継続」、「職場復帰に向けた社内の検討(職域、機器整備等)」、「短時間勤務等勤務時間の配慮」、「配置転換等人事管理面についての配慮」が93.3%となっています。
出典:平成30年度障害者雇用実態調査結果(厚生労働省)

出典:平成30年度障害者雇用実態調査結果(厚生労働省)

身体障がい、精神障がいの障がい別配慮事項は、次のようなものがあります。

【身体障がい者への配慮事項】
・配置転換等人事管理面についての配慮 76.1%
・職場復帰準備期間中の雇用継続 70.4%
・通院・服薬管理等雇用管理上の配慮 55.3%
・職場復帰に向けた社内の検討(職域、機器整備等) 44.6%
・その他(本人、家族への連絡、医療機関との連携等) 38.9%


【精神障がい者への配慮事項】
・その他(本人、家族への連絡、医療機関との連携等)100.0%
・職場復帰準備期間中の雇用継続 93.3%
・職場復帰に向けた社内の検討(職域、機器整備等) 93.3%
・短時間勤務等勤務時間の配慮 93.3%
・配置転換等人事管理面についての配慮 93.3%
・職場復帰準備期間中の給与保障 56.2%
・職場復帰準備のための調整担当者の選定・配置 56.2%
・休暇を取得しやすくする等休養への配慮 56.2%
・関係機関等外部の機関と連携した職場定着支援の実施 56.2%
・その他(家族との調整役の確保等 56.2%
・復帰後の相談・援助担当者の選定・配置 56.1%


この調査からは休職期間や復職についての対応についての項目が多く挙げられており、配置転換等人事管理面や雇用継続などの対応をしていることがわかります。

職場復帰時に行う対応や配慮の実施

中途障がい者に安定的に働き続けてもらうためには、職場復帰する時が重要です。障がい者となった社員の職場復帰を決める判断材料や、継続的に働き続けてもらうためにどのような配慮を行っているのかについて、見ていきます。
出典:「採用後に障害者となった従業員に対する企業の対応や課題 」(宮澤 史穂、日本労働研究雑誌2022)

出典:「採用後に障害者となった従業員に対する企業の対応や課題 」(宮澤 史穂、日本労働研究雑誌2022)

職場復帰の判断として最も重要な要素を訊いた調査では、身体障がい、精神障がいともに「症状や病気が安定していること」が挙げられています。続いて高かった項目は、身体障がいでは、「本人が職場復帰に関して意欲を示していること」、「復帰予定の職務の遂行が安定して行え、遂行上での危険がないこと」が挙げられました。精神障がいでは、「復帰した職務に従事しても、症状や病気が悪くならないこと」、「復帰予定の職務の遂行が安定して行え、遂行上での危険がないこと」でした。

精神障がいでは「症状や病気が安定していること」に加えて、「復帰した職務に従事しても症状や病気が悪くならないこと、安定的に行えること」などの点が続いて挙げられており、精神障がい者の職場復帰に関しては、症状の不安定さに関する懸念を感じている企業が多いことがわかります。

職場復帰時に行う具体的な対応や配慮については、身体障がい、精神障がいともに、「勤務時間の短縮・勤務時間帯の変更」、「作業改善、職種転換等」、「リワーク支援」の実施率が高くなっています。
出典:「採用後に障害者となった従業員に対する企業の対応や課題 」(宮澤 史穂、日本労働研究雑誌2022)

出典:「採用後に障害者となった従業員に対する企業の対応や課題 」(宮澤 史穂、日本労働研究雑誌2022)

職場復帰に関しては、勤務時間の短縮や勤務時間帯の変更を行っているケースが多いです。勤務時間を数時間から始め徐々に慣れてきたところで勤務時間を増やしていったり、変形労働時間制などで勤務時間の変更などがある場合には体調や症状に合わせたりするなどの配慮をすることがあります。また、職種や仕事内容を変更し、働きやすい職場環境を検討する場合もあります。

なお、精神障がいのリワークに関しては、障害者職業センターが円滑な職場復帰のための支援を行っています。休職者、企業の担当者、主治医と連携しながら、どのようにリワークを進めていけばよいか検討している場合に活用してみるとよいでしょう。



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