2022年6月に、厚生労働省が2021年「高齢者雇用状況等報告」(6月1日現在)の集計結果を公表した。2021年4月から、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」において、70歳までを対象として雇用確保措置を講じるように努めることが義務付けられており、その実施状況が注目されていた。集計結果によると、70歳までの高齢者就業確保措置は、25.6%(おおむね4社に1社)の企業で実施済みであった。また、2022年4月からは「年金制度改正」もあり、今後、70歳までの雇用継続がより一層進むことが考えられる。今回は、定年後再雇用者の活用で、人事労務担当者が知っておくべき制度について解説する。
2022年の「年金制度改正」と2021年の「高年齢者雇用安定法改正」に伴う、定年後再雇用者活用に関する変化とは

「高年齢者の雇用確保措置」とは

少子高齢化が進行し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するためには、高年齢者が活躍できる環境整備が必要である。「高年齢者雇用安定法」では、高年齢者が年齢に関わりなく働き続けることができる“生涯現役社会の実現”を目指して、企業に「定年制の廃止」、「定年の引上げ」、「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を、65歳までを対象として講じるよう義務付けている。さらに2021年4月1日からは、70歳までを対象に、上記措置に加えて、「業務委託契約の導入」、「社会貢献事業に従事できる制度の導入」のいずれかの措置(高年齢者就業確保措置)を講じるように努めることが義務付けられた。

70歳までの「高年齢者就業確保措置」は努力義務規定だが、2021年「高齢者雇用状況等報告」の集計結果によると、おおむね4社に1社の企業で実施済みとなっている。企業規模別にみると、中小企業では26.2%、大企業では17.8%と、人材不足が深刻化している中小企業で実施が進んでいるようだ。

65歳までの「高年齢者雇用確保措置」を、「継続雇用制度の導入」により実施している企業は71.9%に上り、多くの企業では定年を迎えた労働者を再雇用し、65歳までの間、有期雇用している。その際に検討しておきたい手続きとして、「有期雇用特別措置法による特例申請」がある。

2013年より「改正労働契約法」が施行され、同一の使用者との有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期契約労働者からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるという、「無期転換ルール」が定められた。定年後に再雇用される従業員も、無期転換の対象となる。よって、65歳で雇用契約が終了する場合は問題ないのだが、65歳以降も有期労働契約を更新する場合は、労働者側に無期転換申込権が発生するので注意が必要だ。

しかし、「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法(有期雇用特別措置法)」により、定年後に引き続き雇用される有期雇用労働者等については、都道府県労働局長の認定を受けることで、無期転換申込権が発生しないとする特例が設けられている。継続雇用の高齢者について無期転換ルールの特例の適用を希望する事業主は、認定を受けておく必要がある。

定年後再雇用者に関する「年金制度改正」について

続いて、2022年4月以降の、定年後再雇用者に関する「年金制度改正」のポイントを2点解説する。

(1)「在職老齢年金制度」の見直しについて

2022年3月以前の65歳未満の方の「在職老齢年金制度」において、総報酬月額相当額と老齢厚生年金の基本月額の合計が「28万円」を超えない場合は年金額の支給停止は行われず、「28万円」を上回る場合は年金額の全部または一部について支給停止されていた。この在職老齢年金制度が見直され、2022年4月以降は、65歳未満の方も65歳以上の方と同じように、総報酬月額相当額と老齢厚生年金の基本月額の合計が「47万円」を超えない場合は年金額の支給停止は行われず、「47万円」を上回る場合は年金額の全部または一部について支給停止される計算方法に緩和された。

改正により、例えば65歳未満の方の年金の基本月額が10万円で、総報酬月額相当額が30万円、合計収入額が40万円の場合、改正前は、基本月額と総報酬月額相当額が28万円を超えるため、年金の一部である6万円は停止されることになっていたが、改正後は、合計額が47万円を超えないため、年金の全額が支給される(図表1)。

例:年金の基本月額が10万円で総報酬月額総統額が30万円の場合

2022年「在職老齢年金制度」改正の例

図表1

(2)「在職定時改定制度」の導入について

老齢厚生年金の受給権者が厚生年金保険の被保険者である場合、2022年3月までは、65歳以降の被保険者期間は、資格喪失時(退職時・70歳到達時)にのみ年金額が改定されていた。しかし、年金を受給しながら働く方の経済基盤の充実を図る観点から、就労を継続したことの効果を退職以前から年金額に反映することで、2022年4月以降は在職中であっても年金額を毎年10月分から改定する制度が導入された(図表2)。

【在職定時改定の仕組み】
1.基準日(毎年9月1日)において、被保険者である老齢厚生年金の受給者の年金額について、前年9月から当年8月までの被保険者期間を算入し、基準日の属する月の翌月(毎年10月)分の年金から改定される。

2.対象者となるのは、65歳以上70歳未満の老齢厚生年金の受給者。

この制度改正により、例えば65歳の老齢厚生年金受給者が、月20万円の報酬で1年間就労した場合、翌年10月以降すぐに13,000円程度(1,100円程度/月)年金が増額することになる。なお、2022年10月に在職定時改定が初めて行われたが、年金額に反映されていない被保険者期間は、施行後はじめての在職定時改定で、一括して年金額に反映されることになっている。

在職定時改定のイメージ

在職定時改定制度のイメージ

図表2

70歳までの高齢者就業確保措置が努力義務化されたこともあるが、年金制度の改正により、継続勤務を希望する労働者も増えそうだ。実務担当者は、制度を理解し、高年齢者活用の方針の策定や、環境の整備に取り組んで頂きたい。

  • 1

この記事にリアクションをお願いします!