近年、地震や風水害など、自然災害に遭遇する頻度が高くなっています。多くの企業ではこのような災害時に備えて、従業員や顧客の安全確保のための対策およびBCP(事業継続計画)を策定しています。これらとともに考えておきたいのが、雇用している障がい者のための災害対策です。前編では、企業の災害対策が必要な理由や、災害対策として事前に検討しておくと良い点についてお伝えしました。後編では、災害時のような緊急時には、予想しないような状況も起こってしまうことを想定し、どのような連絡方法が必要なのか、いざという時に緊急連絡ができるようにするための有効的な方法について考えていきます。
企業が取り組むべき、障がい者のための災害対策(後編)

「災害時の連絡」について押さえておきたいポイント

災害時の連絡方法

まず、各連絡手段において、災害時にはどのようなことが想定されるのかを見ていきます。

●公衆電話
公衆電話は、固定電話や携帯電話よりもつながりやすく、災害時には無料で使用できる場合もあります。ただし、電話の種類によっては通話時に硬貨またはテレホンカードが必要となります(通話後に返却)。

●スマートフォン、携帯電話
回線のパンクや、通信規制などで繋がりにくくなります。状況によっては、基地局の倒壊などで使用できなくなる可能性があります。音声通話よりも、メールや、LINEなどのSNSのほうが繋がりやすいこともあります。

●パソコン
メールやLINE、Twitter等のSNSが活用しやすくなります。使用するにはインターネット環境と電源が必要になります。

●災害用伝言サービス
災害用伝言ダイヤルは、災害の発生により被災地への通信が増加し、つながりにくい状況になった場合に、NTTにより提供が開始される音声の伝言板です。この他にも、各通信事業者が提供している安否確認サービスがあります。

企業で作成しておくべき「緊急連絡網」とは?

連絡手段があっても、連絡先がわからないと活用できません。あらかじめ、「緊急連絡網」を作成しておく必要があります。緊急連絡網とは、災害・トラブルなどの緊急事態発生時に「どのような順番で、誰がどこに連絡するのか」を定めたものです。しかし、固定電話の減少、携帯電話の一般化など、連絡先・連絡手段が多様化していることや、個人情報保護の意識が高まっていることなどから、電話番号などの個人情報の扱い方にも細心の注意が必要であることに留意してください。

●電話番号
電話番号は携帯電話の番号で構いません。ただし、キャリアによる通信制限や、デバイスが電波の届かない場所に入ってしまった場合に備えて、固定電話や近親者の携帯電話番号も含めて、いくつか記載しておくと安心です。なお、携帯電話は会社支給のものであればそのまま番号を記載しても構いませんが、私用の携帯電話番号を載せる場合は、本人の同意を得ることが必要になります。

●メールアドレス
メールは、一斉に多くの人に発信したい場合や、トラブルの詳細を把握したい場合に便利です。ただし、メールアドレスによっては携帯キャリアやサーバーとの相性、フィルタ設定などで届かない恐れもあります。それを避けるためにも、普段からテストしてきちんと受信できるか確認しておくとよいでしょう。電話番号と同じようにプライベートアドレスは個人情報に当たるため、掲載には本人の同意が必要です。

●その他、SNS等の連絡先
緊急連絡先というより、連絡手段としてですが、既読・未読がわかるLINEなどのSNSやチャットツールなどを利用するケースもあります。ただし、送信側・受信側、双方で同じアプリのインストールが求められることもあります。業務の中で使用している企業以外は、二次連絡としてのサブ利用にしておくとよいでしょう。

災害発生時には音声通話が繋がらないことを想定しておく

災害発生時には、音声通話が集中するため、電話がつながりにくくなります。例えば、東日本大震災時の発生直後は、被災地への音声通話の集中等により通信回線が大変混雑し、電話がつながりにくい状態(輻輳・ふくそう)になりました。携帯電話事業者によっては最大で平常時の50〜60倍以上の通話が一時的に集中したようです。

このようなときに通信事業者では、警察・消防等への緊急通報(110、118、119)など、国民の生命・財産の保護のために行われる緊急性の高い災害対策機関の音声通話を優先します。そのため固定電話、携帯電話に通信規制を実施した結果、電話が非常につながりにくい状態が続いたという状況が見られることになりました。固定電話の通信規制は比較的短時間で解除されましたが、携帯電話の通信規制は断続的に数日間にわたり実施されました。

一方、携帯電話におけるメール等のパケット通信では、通信規制が行われなかったケースもあり、通信規制を実施した通信事業者であってもその割合は最大30%程度、かつ一時的なものであったため、携帯電話の音声通話と比べると、メール等のパケット通信の方がつながりやすい状況にありました(ただし、送信したメールの到達時間については、メールサーバの輻輳により通常よりも時間を要する状況にありました)。

このような状況も想定しながら、「Aさんに連絡がつかない際は次のBさんに連絡する」などのルールに加え、「その場合Aさんには誰が連絡するのか」、「Aさんに連絡がついていないことを、とりまとめ役の人に一報入れるべきなのか」など、さらに具体的なルールを決めておくとよいでしょう。また、情報を周知するだけなら一方通行の連絡網でもよいですが、安否状況や出社の可否を確認すると想定する場合、グループ単位で集計・確認役を決めておきます。

障がい者を雇用する企業の災害対策事例

ある特例子会社では、東日本大震災があった夜、帰宅しなかった行方不明の障がい者社員が1人いて、その社員の保護者から会社へ連絡がきました。しかし、本部でも「状況が把握できない、連絡もつかない」という状態で、翌日まで障がい者社員の状況がわからず、とても心配したそうです。結局、その障がい者社員は、自分で判断して親戚の家に行っており無事だったのですが、この特例子会社ではそれ以降、「緊急時に交通機関のルートなどが確保できていないときには、障がい者社員を帰宅させない」という方針を決めました。加えて、緊急事態に備え、災害備蓄や広域避難場所の確認をしました。

また現在、この特例子会社では、このように緊急連絡が必要な状況に備えて「Yahoo!安否確認サービス」を導入しているといいます。これは、災害が起こったときに、メールを使って社員の安否確認ができるツールです。本社や関連会社も含めて同サービスを活用しているといいますが、特例子会社での運用は、メール配信先を社員だけに限定せずに、社員の保護者を含めて、配信対象者を広げている点が異なります。そして、登録しているだけではなく正しく使えるように、3ヵ月に1回ほどの頻度で「メール配信をしっかり見ているか」の確認を抜き打ちで実施しているといいます。日頃からこのような準備をすることによって、もし万が一のことが起こったとしてもスムーズに社員の安否確認ができるように意識しているそうです。

なお、「Yahoo!安否確認サービス」の使い方はとても簡単で、ワンクリックで安否確認メールに返信できるほか、簡単な情報を伝えることもできるので、社員がどこにいるのかが把握しやすくなっています。運用者側で細かな指定をすることもできるので、事業所ごとや障がい者社員だけにメールを送信することも可能です。

この特例子会社には複数の事業所がありますが、各事業所で「緊急時にはどのように帰宅すればよいのか」、「もし歩いて帰らなければならないときにはどのルートで帰ればよいか」、「徒歩帰宅の場合、どんな危険があり、どの程度時間がかかるのか」などの確認を、社員一人ひとりに対して行っています。このように、緊急時に備えて対策することは、万が一の時に障がい者社員の命を守る助けになるとともに、障がい者社員を支える社員やスタッフが、落ち着いて自分の家族へ対応できる状況をつくるのにも役立ちます。

災害時には、普段の状況からは想定できないことも起こります。また、障がい者社員本人だけでなく、障がい者社員に助けを求められた人も、落ち着いた状態で対応できるとは限りません。職場内の安全確保のための事前準備とともに、緊急時の連絡方法も考え、障がい者社員が安全を確保するために必要なことを自ら行えるよう、普段から伝えておくことも大切です。

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