新年度が始まりました。令和3年の障がい者雇用に関する状況を振り返ると、3月には障がい者の法定雇用率が2.3%に引き上げられました。また、依然、新型コロナウイルス感染症の影響を受けている業界や企業も少なくありません。これらは、障がい者雇用にどのように影響したのでしょうか。厚生労働省による「令和3年の障害者雇用状況の集計結果」と、「令和2年度のハローワークを通じた障害者の職業紹介状況」から見ていきます。
令和3年「障害者雇用状況」から見る、新年度の課題とは? 法定雇用率引き上げやコロナ禍の影響を振り返る

雇用障がい者数・実雇用率は過去最高も、法定雇用率達成割合は微減

障がい者雇用において法定雇用率を満たす義務のある企業は、毎年6月1日時点の障がい者雇用の状況をハローワーク(一部地域では労働局)へ報告する義務があります。これによって行政では、各企業が障がい者を何人雇用しているのかを把握し、これらの結果をまとめ「障害者雇用状況の集計結果」として発表します。令和3年の障がい者雇用の状況は、同年12月に発表されています。

「令和3年の障害者雇用状況の集計結果」によると、令和3年は雇用障がい者数、実雇用率ともに過去最高を更新しており、雇用障がい者数は59 万 7,786人でした。対前年比3.4%の上昇で、1万 9,494人増加しています。18年連続で雇用者数は過去最高となりました。また、実雇用率は2.2%となり、こちらは対前年比0.05ポイント上昇しています。

障がい別にみると、身体障がい者は359,067.5人(対前年比0.8%増)、知的障がい者は 140,665人(対前年比4.8%増)、精神障がい者は98,053.5人(対前年比11.4%増)と、いずれも令和2年より増加しています。精神障がいの雇用数は例年同様、大きく伸びた結果となりました。
令和3年障害者雇用状況の集計結果

出典:令和3年障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)

また、令和3年3月の障がい者雇用の法定雇用率引き上げに伴い、障がい者雇用が義務付けられる対象は、従業員43.5人(短時間労働者は0.5人で計算)以上の企業となりました。それでも民間企業全体の実雇用率は2.2%と、前年の2.15%を上回っており、企業が積極的に障がい者雇用に取り組んできた結果がうかがえます。

一方で、この障がい者雇用率の引き上げや新型コロナの影響からか、法定雇用率達成企業の割合は 47%と、対前年比で1.6ポイント下がっています。企業規模別の法定雇用率達成割合は下記の通りで、いずれの企業規模においても達成率は前年を下回りました。

企業規模別 法定雇用率達成割合
43.5~45.5人未満 35.1%(令和3年より報告対象に追加)
45.5~100人未満 45.7%(前年45.9%)
100~300人未満 50.6%(同 52.4%)
300~500人未満 41.7%(同44.1%)
500~1,000人未満 42.9%(同 46.7%)
1,000人以上 55.9%(同60%)


なお、令和3年の法定雇用率未達成企業は56,618社で、このうち障がい者を1人も雇用していない企業は32,644社となっています。

企業規模別の実雇用率は、今年から新たに報告対象となった43.5~45.5人未満規模企業では1.77%でした。続いて、45.5~100人未満で1.81%(前年は1.74%)、100~300人未満で2.02%(同1.99%)、300~500人未満で2.08%(同2.02%)、500~1,000人未満で2.2%(同2.15%)、1,000人以上で2.42%(同2.36%)となっています。どの規模の企業でも、障がい者雇用率は上昇しているものの、企業規模が小さくなるほど障がい者雇用の状況が厳しいことがわかります。
障害者の雇用の状況

出典:障害者雇用納付金制度の在り方について 関係資料(厚生労働省)

近年、このように中小企業の障がい者雇用が伸び悩む傾向が続いていることから、令和4年度の厚生労働省の予算概算要求における「障がい者雇用施策」でも、中小企業の支援に力を入れることが示されています。また、障がい者雇用に関する助成の状況を見ると、大企業と中小企業で助成金の支給額にかなり差がついています。中小企業では、助成金を取りこぼさないよう気をつけるとよいでしょう。

令和3年6月1日時点で特例子会社の認定を受けている企業は562社(前年より20社増)でした。コロナ禍ながら、前年同様、特例子会社が増える結果となりました。さらに、特例子会社で雇用されている障がい者の数は41,718.5人でした。内訳をみると、身体障がい者は11,841人、知的障がい者は22,021人、精神障がい者は7,856.5人でした。特例子会社は知的障がい者を雇用する割合が高く、今年度もその傾向が見られています。なお、特例子会社とは、親会社の実雇用率に算入できる、障がい者の雇用に特別の配慮をした子会社のことです。詳細については、HRプロ関連記事「『特例子会社』とはどのような制度なのか」も参考にしてください。

新型コロナウイルス感染症拡大は、障がい者雇用へどのような影響を及ぼしたのでしょうか。令和2年度の「ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況」を見ると、ハローワークの障がい者新規求職申込件数は211,926件で、対前年度比5.1%減となり、平成11年度以来、21年ぶりに減少しています。

就職件数は89,840件で、対前年度比12.9%減となり、平成20年度以来、12年ぶりに減少しました。就職率(就職件数/新規求職申込件数)は42.4%で、対前年度差3.8ポイント減となっており、これらの数字からも、新規採用に関しては厳しかったことがわかります。厚生労働省の見解でも、「新型コロナウイルス感染症の影響もあり、製造業、宿泊業・飲食サービス業、卸売業・小売業といった障がい者が比較的応募しやすい業種の求人数が減少している」と示されました。
障害者雇用の新規求職申込件数及び就職件数の推移

出典:令和2年度 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況(厚生労働省)

「障害者雇用納付金制度」の安定化と「中小企業支援」が今後のカギに

このように、近年の障がい者雇用状況は、順調に雇用数を伸ばしているものの課題も多く見られ、厚生労働省の「労働政策審議会(障害者雇用分科会)」では、様々な点から検討がおこなわれています。そのいくつかのトピックを見ていきます。

●「障害者雇用納付金制度」について

「障害者雇用納付金制度」は、障がい者雇用に伴う企業間の経済的負担を調整するため、障がい者を雇用する企業に対して助成を行うことで障がい者雇用の促進を図る制度です。障がい者雇用の法定雇用率を達成している企業が増えることは、社会的には望ましいことですが、一方で、達成企業が増えると、助成の財源である「障害者雇用納付金」が減ることにもなります。

また、「障害者雇用納付金」においては調整金等の支出が大半を占め、 助成金の割合が少なくなっており、障がい者雇用を行う事業主に対する助成・援助が不足している現状も見られます。そのため、「障害者雇用納付金制度」の財政の安定化を図りつつ、障がい者を雇い入れる事業主の具体的な取組に対して支援を充実させるなどの運用が検討されています。

●中小企業の障がい者雇用支援

「令和3年障害者雇用状況の集計結果」からも、中小企業の障がい者雇用が進んでいないことが示されていましたが、障がい者の雇用数が0人である企業(いわゆる「ゼロ企業」)の割合を企業規模別にみると、従業員数300人未満の企業が大半を占めることがわかります。
障害者の雇用の状況(企業規模別)

出典:障害者雇用納付金制度の在り方について 関係資料(厚生労働省)

「障害者雇用分科会」の中では、中小企業における障がい者雇用へのハードル、また雇用障がい者数によって負担感が異なることなどについて、「障害者雇用納付金制度」の金額も含め、慎重に検討する必要があるとの意見が出ています。

障がい者雇用の状況を見ながら、必要に応じて「障害者雇用納付金制度」に関する検討も行われていくと考えられますが、従業員が一定数以上の企業に障がい者雇用義務があることは変わりません。引き続き、企業ごとの工夫や努力が求められるでしょう。

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