「管理職」とは、企業内の一定の範囲内で業務についての権限を持つ者を指す。企業によって呼称は異なるが、部門であれば「部長」、課では「課長」に当たる人物が管理職とされることが一般的だ。管理職は経営層としての働きだけでなく、部下の人材育成を行うことも期待される存在である。企業内のチームビルディングにおいても、重要な役割を果たすことになる「管理職」の役割とは何か、そして管理職に必要とされるスキル、向いているのはどのような人物なのかについて解説していく。
「管理職」の定義や役割とは? 求められる能力や向き不向きを解説

「管理職」の定義

「管理職」とは、企業内で一定の権限を持ち、部下や売上等の管理をする役職を指す。

日本では「係長」、「課長」、「部長」などの呼称とされることが多い。最近では「ゼネラルマネージャー」等、企業ごとの名称で呼ばれることもある。よって、企業ごとに期待される働きも若干異なるが、一般的には「現在持っている人的資源や情報などを使い、業務上の目標を達成することを求められる立場」と考えておくとよいだろう。

●役員や一般社員との違い

管理職は役員、そして一般社員とはどのような違いがあるのだろうか。

・役員との違い

役員は一定の業務や部門にとらわれず、企業全体を見ることが必要とされる役職である。企業全体で掲げる目標の達成、企業の問題解決に対して責任を持つ立場といえよう。

対して、管理職は一定の業務や部門に対して責任を持つ立場となる。自分が担当する業務・部門で成果を上げることが求められる。

・一般社員との違い

一般社員は個人で上げた成果が評価される立場である。極論を言えば、他のチームメンバーの働きは自身の評価に影響することはほぼない。

対して、管理職は部門(チーム)メンバーが継続して成果を上げていくことを求められる立場だ。チームのことを考え、各メンバーのパフォーマンスを向上させ、売上等の成果を上げることが評価につながる立場である。

また、労働基準法の「管理監督者(労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的な立場にある者)」に当てはまる管理職であれば、労働時間や休日規定の適用もない。そのため、一般社員にはある「残業・休日出勤時の手当」や「時間外労働の規定」は管理職にはない。

厚生労働省が示す「管理監督者」に該当する要件は以下の通りだ。
(1)労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを 得ない重要な職務内容を有していること
(2)労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを 得ない重要な責任と権限を有していること
(3)現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであ ること
(4)賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること がなされていること


「管理職」の種類

「管理職」は、いくつかの種類に細分化される。基本的な管理職の種類について確認しておこう。ただし、企業によって多少役割が異なる点は留意しておきたい。

●部長、ディレクター

複数の部門を統括・管理する。一般的な管理職を監督する立場とされることも多い。予算や人事などの経営に関しての発言権を持つ場合もある。労働基準法の「管理監督者」とみなされることが多い。

●課長、マネージャー

部署やセクションの責任者として、目標設定や業務計画の立案、人材育成を担当し、部門における発言権を持つ場合もある。また予算管理や人事評価の権限を持ち、上位管理職と一般社員の橋渡し役を務める。企業にもよるが、労働基準法の「管理監督者」とされることもある。

●係長、チームリーダー

部門の中で一番小さな単位の集団を管理する立場で、現場のマネジメントを担当する。業務の進行管理や品質管理、育成指導などを行い、実務の責任者とされるのが一般的だ。

「管理職」の役割やあるべき姿とは

管理職にはどのような役割や姿が求められるのか、以下の5つの項目に分けて解説していく。

(1)目標や進捗、改善といった業務を管理する

部門やチームごとに目指す成果は異なる。管理職は成果を明確にし、それを元に目標を設定する業務といえるだろう。目標が設定されたら、部門やチームメンバーがどのように働けばいいのかを具体的に考えることも重要だ。

また、業務を行う上では進捗管理も必要となる。そして都度、改善も行っていかねばならない。万が一、管理職が業務から外れても、業務の進捗管理そして改善が行える仕組みを作っておくことも必要である。

(2)労務を管理する

従業員が安全に業務に邁進できるように、労務管理を行うことも管理職の役割といえる。具体的には、従業員の労働時間や安全衛生を管理する。その他、従業員の福利厚生関連に気を配っておくことも重要といえるだろう。

(3)部下を管理しながら、仕事への動機付けや育成を行う

部下の管理は管理職の重要な仕事の一つといえる。仕事の内容や進捗を把握することはもちろん、各人やチームのモチベーションアップを図る役割を担う。

なお、各従業員の強みを知り、その強みを業務で生かせているかを確認するためにも、管理職にはコミュニケーション能力が必要になる。また、業務上の悩みがある部下の相談に乗り、解決のために動くことも管理職の仕事といえる。

(4)チームビルディングを行う

企業は優秀な人を集めるだけで高パフォーマンスが発揮できる、というものではない。さまざまなスキルを持つ従業員を集め、各人のスキルを発揮できるチームを作ることで、高い成果が生まれるものだ。

成果を上げられるチームを作るためには、管理職が各従業員のスキルを知る機会を持つ必要がある。研修やワークショップなど、従業員同士、管理職と従業員が関わりを持つ機会を増やす。各従業員の長所や短所を知ることもチームビルディングに効果的といえるだろう。

(5)経営層の考えを部下に浸透させる

経営層と従業員をつなぐのも管理職の役割だ。経営会議などで決定した事項を分かりやすくかみ砕いて自分のチームに伝え、それを実行させることが管理職の仕事といえる。日頃から経営理念を部下に浸透させることはもちろんのこと、自身も経営理念や経営方針に従った行動を取ることが重要である。

「管理職」に必要なスキル

「管理職」に必要なスキルを3つ、具体的に紹介したい。

●テクニカルスキル

業務を行う上で必要な知識やスキルが「テクニカルスキル」だ。業務によって必要なスキルは異なるが、どの企業・業務でも、マネジメント能力や人事評価能力などは管理職共通で身に付けておきたいテクニカルスキルといえるだろう。

●コンセプチュアルスキル

「コンセプチュアルスキル」とは物事の本質を見定める能力である。現状の分析、問題点の発見、そしてどう対応するかを考える能力が管理職には求められる。

業務を行う上で問題が発生することは多々ある。中には、今まで起きたことのない問題や予想外の問題が起こる可能性もあるだろう。それらに対処できる能力が高いほど優秀な管理職といえる。

●ヒューマンスキル

良い人間関係を作る能力が「ヒューマンスキル」だ。各従業員を分析し、適切に配置することだけでなく、それぞれに適した対応をすることが管理職には求められている。部下とコミュニケーションを取るだけではなく、リーダーシップを取って業務の成果を上げることや部下のモチベーションを高めることも必要だ。

また、チーム内だけではなく、他部署・他社との関係作りも管理職の仕事の一つである。ヒューマンスキルが高い方がより良い関係を築くことができるだろう。

「管理職」に向いている人・向いていない人の特徴

次に、「管理職」に向いている人、向いていない人の特徴を見ていこう。

●管理職に向いている人

管理職に向いている人の特徴は以下の通りだ。

・他の人にアドバイスを行うことで、その人が結果を出すことが嬉しいと感じる。また、自分の行動で他の人やチームに良い影響が出ることが喜びである
・モチベーション高く業務に当たることができる。向上心がある
・チームに目標を伝えることが上手い。物事をかみ砕いて分かりやすく伝えることが上手い
・先々のことを考え、具体的な目標を立てることが上手い
・従業員と良好な人間関係を築くことができる。
・部下や後輩に気配りができる。長所に目が向く


管理職に向いているのは、自身でもモチベーションを高く持って業務に当たるだけではなく、他の人にも良い影響を与えることができる人だといえる。また、目の前の業務だけでなく、先々のことを考え具体的な目標を立て、自身が実行するだけでなく、部下にも行うべきことを浸透させる能力が管理職には求められる。

また、経営理念や業務について、従業員(部下)に分かりやすく伝えることができる能力や良好な人間関係を築くことができる能力がある人も向いていると考えられる。

●向いていない人

管理職に向いていない人の特徴も確認しておこう。

・コミュニケーションを取るのが面倒、苦手な人
・責任感がない人
・業務を他人に任せることができない人


良好な人間関係を築き、チーム全体を良い方向に導けるのが良い管理職だ。コミュニケーションを取るのが面倒、もしくは苦手と感じる人は管理職に向いているとはいえない。管理職は自身のチームだけではなく、他部署・他社との交渉も重要である。他者(他社)との関係作りができないという人にも任せられない。

また、問題が起こった時に他の従業員に丸投げするなど、責任感がない人も管理職向きとはいえないだろう。

業務を丸投げするような責任感がない人とは対極ではあるが、全ての業務を自分で抱え込もうとする人も管理職には向いていない。特に、「教えるのに手間がかかるから、すべて自分でやってしまう」という場合は要注意だ。スキルを伝えることができないだけでなく、経営陣の考えや方針を部下に浸透させる機会を奪ってしまう可能性もある。

「管理職」の残業代や労働時間の規定

「管理職」の給与体系や労働時間の規定はどうなっているのか、解説していこう。

●給与・残業代

労働基準法の「管理監督者」に該当する「管理職」である場合、割増賃金の支払い対象とならず、残業代の支給対象外となる。ただし、「管理監督者」の要件を満たさない「管理職」は、どんなポジションであっても、一般社員と同様に割増賃金の支払いが必要となる。

以前は、「管理監督者」に相応する権限や報酬が与えられず、無給での残業、休日出勤、休憩無しのシフトを強いられる「名ばかり管理職」が問題視されていた。これは労働基準法に違反した不法行為となるため注意が必要だ。

また、「管理監督者」に該当する「管理職」であっても、深夜労働(22時~翌5時)の場合は深夜手当の支給が必要となる。

【HRプロ用語集】名ばかり管理職

●労働時間・休日出勤

「管理監督者」に該当する「管理職」は、労働基準法の法定労働時間(1日8時間・週40時間)、法定休日の適用除外となる。そのため法定労働時間を超えても、法定休日に労働させても賃金の支払いはない。ただし2019年4月からの働き方改革関連法により、すべての労働者の労働時間を把握・管理することが義務付けられた。これは「管理監督者」も対象となっている。

「管理職」になりたくない人が増えている背景

近年、20代~30代を中心に管理職を目指さない人の増加が顕著だ。パーソル総合研究所が実施した「働く10,000人の就業・成長定点調査2024」によれば、2024年時点での「管理職になりたい人」の割合は17.2%で、2021年からの3年間で6.8ポイント下降していることが分かった。

この背景には、働き方や価値観の大きな変化がある。ワークライフバランスを重視する傾向が強まり、プライベートの時間や家族との時間を優先したいという意識が高まっている。また、管理職の業務内容自体も変化し、人手不足への対応や人材育成、リスク管理など、負担が増えているにもかかわらず、その責任や業務量に見合った報酬が得られないという現実がある。

さらに、キャリアに対する考え方も多様化しており、一つの企業で出世するよりも、専門性を活かした働き方や転職、副業など、新しい選択肢を模索する傾向が強まっているのも一因となっている。

まとめ

「管理職」とは、企業内の一定の範囲内で業務についての権限を持つ人である。各企業で求められるスキルや役割は多少異なるが、一般社員よりも高い業務スキル、コミュニケーション能力が必要となる。

また、経営陣が決定した方針を分かりやすく部下に示し、具体的に業務に落とし込む能力も重視される。業務を行う上で発生する問題点や部下の悩みを解決することも重要だ。他部署や他社と折衝できる力も付けておきたい。

管理職に特に必要なのは、「テクニカルスキル」、「コンセプチュアルスキル」、「ヒューマンスキル」の3つである。これらを意識して、自身のスキルを伸ばすだけではなく、自身の属する部門、そして部下の成長も同時に目指していきたい。

よくある質問

●「管理職」は役職のどこから?

「管理職」の範囲は企業によって異なるが、一般的に課長以上の役職が管理職として扱われることが多い。具体的な役職としては、本部長(事業部長)、部長、次長、課長が該当する。ただし、係長以上を管理職とする企業もある。

●主任は「管理職」か?

一般的には、主任・主幹は「管理職」として扱わない企業が多い。管理職へのファーストステップとして見られる。
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