「知的障がい」の特徴と職場でできる配慮とは?
障がい者雇用において、事業主には合理的配慮の提供義務が求められており、障がい者が職場で働く際に何らかの支障がある場合には、それを改善するための措置を講ずることが必要です。しかし、「合理的配慮」と言っても、障がいの内容によって特性や症状が異なるため、どのような配慮が必要なのかは状況によって変わります。そこで、「ケース別配慮のポイント」と題して、7回にわたって障がいの種類ごとにどのような配慮が適切かを紹介します。第5回の今回は、「知的障がい」のケースについて見ていきます。

「知的障がい」は、どのような障がいか

「知的障がい」は、知的機能の障がいにより日常生活に支障をきたしており、何らかの特別な支援が必要な状態のことを指します。判断基準となる知能指数(IQ)は「おおむね70まで」で、当事者はコミュニケーション・社会的スキル・実用的な読み書き・計算等に何らかの制約をもつとされます。IQの平均値は100とされているため、知的障がい者は、一般社会における日常生活に何らかの点で不自由が見られます。具体的には、「相手の話している内容が理解できない」、「自分の考えや思いを上手く伝えることができない」、「状況に応じた行動をとることが難しい」などの症状があげられます。

知的障がいが認められた場合には、「療育手帳」(地域によって名称が変わることもある)が交付されます。交付については、18歳未満であれば児童相談所、18歳以上であれば知的障害者更生相談所などで判定されます 。障がいの程度は、知能指数や日常生活動作(身辺処理、移動、コミュニケーションなどの能力のこと)などを総合的に判断して認定されます。手帳を取得することで、福祉サービスや地域サービスの優遇措置を受けることができます(サービスや優遇措置の内容は自治体によって異なる)。

雇用は難しいと考える方もいますが、知的障がいの人が活躍する職場はたくさんあります。当事者が仕事に慣れるまでは時間がかかるかもしれませんが、業務へのまじめさや、応用は苦手であるものの、決められたことは定型どおりに行うなどの特性を活かせる仕事は少なくありません。

そして、知的障がい者が「できないこと」ではなく、「得意なこと」に注目すると、当事者の活躍の場を広げられます。例えば、「数をかぞえること」は苦手でも、「検品」が得意な知的障がい者がいます。良品とそれ以外をしっかり見分けてくれるので、細かな機械部品や精密部品を扱う職場で働くことができます。

また、数をかぞえることが難しいのであれば、そこは業務を工夫することによって解消することができます。1つの方法としては、10個に仕切ってあるトレーを用意して良品を入れていき、それがいっぱいになったらまた次のトレーに入れる……という手順をとれば、数を数える必要はなくなるでしょう。他にも、検品が終わるたびにカウンターを押して、数がわかるようにすることもできます。時計が読めない場合には、砂時計やタイマーを利用して、正しいタイミングや必要な時間の長さを計ることもできます。重さのメモリの数字が読めないのであれば、所定の重さのメモリの位置にテープを貼り、そこに針が合う重さに調整するよう教えることもできるでしょう。文字が読めないならば、わかりやすい絵や写真を使う方法もあります。

このように、業務の手順やツールを工夫することによって、知的障がい者が働ける体制づくりは十分可能です。

「知的障がい」への配慮のポイント

知的障がいの特性から、当事者には次のような対応を心がけると業務がスムーズに進みやすくなります。また、当事者と他のスタッフが一緒に仕事をしやすい環境や雰囲気を作ることにもつながります。

●短い言葉で、ゆっくり伝える
状況に応じて、絵、写真、メモ(文字)等を使うのも効果的です。

●業務の手順をホワイトボードやメモに書く
当事者は、いくつかのことを同時に行うと、何をすればよいのかわからなくなることがあります。業務の順番などをホワイトボードやメモに書いておけばわかりやすいです。

●落ち着いて話せる状況をつくる
当事者は、考えていることや思っていることをうまく伝えられないときがあるので、落ち着いて話せる状況をつくるようにしてください。回答が難しい場合には、選択肢にして答えを選んでもらうことや、当事者の言葉を繰り返して確認することも有効です。

さらに、職場でどのような配慮ができるのかを見ていきましょう。

【募集・採用のときにできる配慮】

●面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認める
知的障がい者の方は、語彙力が限られていたり、臨機応変な対応が苦手であったりする場合があります。面接のときには、いつも当事者に接している就労支援機関のスタッフや、特別支援学校の教員に同席してもらうことで意思疎通が図りやすくなります。

●実習などで能力やスキルを見る機会をつくる
採用選考では、書類選考や面接だけでなく、実習やインターンシップをおこなうことで、コミュニケーションが苦手な当事者にも採用の機会を設けることができます。企業側と応募者の両者ともに、短い時間の採用面接だけではわからないことを知ることができ、業務にマッチングする人材を採用しやすくなります。実習やインターンシップについては、本記事の最後に掲載するHRプロ関連記事リンクを参考にしてください。

【採用後にできる配慮】

●当事者の教育専任者、担当者を配置する
障がい者雇用において、当事者に業務を教える専任者や担当者のことを「キーパーソン」と呼びます。知的障がい者の中には、慣れない環境でいろいろな人からの説明や指示を受けることで混乱したり、「誰に聞けばよいのか」と迷ったりすることがありますが、業務に精通している人材を当事者の「キーパーソン」として配置すれば、このような状況を回避できます。当事者の業務に職場のいろいろな人が関わると、指示がうまく統一されず、当事者の混乱を引き起こす場合もあります。「キーパーソン」を決めると、知的障がい者自身はもちろん、職場の他のスタッフも仕事がしやすくなります。

●作業指示や伝達は明確に行う
作業指示や伝達事項に関しては、意味のとり方を迷ってしまうような抽象的な表現を避け、当事者を含め誰にでもわかりやすく明快に示すことが大切です。

例えば、業務が一段落して休憩をとってもらうときに、「5分〜10分くらい休憩してください」と声をかけることがあります。相手の意思や体調に配慮した表現なのですが、このような内容は知的障がい者にとってわかりにくい場合があります。この声かけは「少し休憩をとっていいですよ」という意味ですが、その「少し」や「だいたいこのくらい」を判断することが苦手な当事者は多いです。このような場合は、「5分休憩しましょう」と明確に指示した方が、当事者にとってわかりやすく、落ち着いて休憩をとることができます。

●当事者の習熟度に応じて業務量を増やしていく
当事者が業務を習得するまでに、思っていた以上に時間がかかることがあります。スムーズに業務をこなしてもらうために、はじめは少ない業務量を振り分け、当事者の習熟度を確認しながら増やしていくとよいでしょう。定量的な目標を決めることで、目標達成の目安にもなります。

また、当事者の作業が想定よりうまくいかないという場合は、「当事者にとって作業自体が難しいのか、あるいは指示や説明が理解しにくいのか」を見極めることが大切です。マニュアルには文字以外にも図や写真等を活用したり、業務指示は一つずつわかりやすく示したりと、工夫次第で当事者の理解が深まることもあります。

●その他の配慮
「朝礼や終礼などの機会に声をかける」、「定期的に面談をおこなう」など、当事者とコミュニケーションをとりやすいように配慮している職場が多くあります。当事者が会話によるコミュニケーションが苦手な場合、連絡ノートや相談用紙などを活用することもできるでしょう。社内だけでなく、外部の支援機関を交えて、当事者との面談を設ける方法もあります。また、一緒に働く社員が「障害者職業生活相談員」や「ジョブコーチ(職場適応援助者)」の研修などを受講して、障がい理解を深めることに取り組んでいる企業もあります。

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