「マミートラック」とは、産休・育休から復帰した女性が比較的責任の軽い仕事の担当になる、昇進・出世コースから外れるといった状況になることを指す。育児休暇などから復帰した従業員のフォローを誤れば、社員のモチベーション低下や退職者の増加を招く恐れがあるため、企業には慎重な対応が求められる。女性活躍の推進に向けても、各企業で取り組んでいかなければならない課題と言えるだろう。本記事では、「マミートラック」の定義や問題点、女性従業員の退職やモチベーション低下を防ぐための対策などを解説していく。

女性活躍を推進するうえでおさえておきたい「マミートラック」の意味や問題点とは

「マミートラック」とは、子育て中の女性が比較的責任が軽い仕事を任せられ、結果、キャリアアップが遅くなることを表す言葉だ。この言葉は「子育てとキャリアの両立を望む女性のために、育児休暇等の制度を整備する」という目的を推進するため1988年にアメリカで生まれたものである。

現代の日本では「女性のキャリア阻害」などのネガティブな意味合いで使われることが多いが、元々は産休・育休を経て職場復帰した女性が働きやすい社会づくりの過程でできたものだった。

そもそも「マミートラック」にはどのような問題点があるのだろうか。一つずつ解説していこう。

●単純作業の仕事しか割り当てられない

子育て中の従業員は、子どもの病気や休校等の都合で急な休暇の取得や遅刻・早退をすることが考えられる。そのため、企業側も責任が比較的軽い単純作業の仕事を割り振る場合が多くなるだろう。単純作業しか行わない従業員と他の従業員との扱いの違いが問題化する可能性も考えておかなければならない。

●キャリア形成が困難

産休・育休を経て職場に復帰した際に、本人の希望の有無にかかわらず単純作業の仕事しか割り当てられないのは「マミートラック」の問題点といっていい。重要な会議への出席や出張、残業といった業務を割り当てられることなく、単純作業しか行わないことは昇給・昇進のチャンスを失うことにも繋がる。産休・育休前と同様のキャリア形成を求めている従業員にどう働いてもらうかも考えておく必要がある。

●従業員のモチベーションが維持できない

キャリア形成を求めているにも関わらず、単純な仕事しか与えられないために、やる気を失ってしまうという従業員もいるだろう。この状況で従業員のモチベーションをどうやって保っていくといいのか検討するのも企業の課題といえる。

社員の離職やモチベーション低下を防止するために、どのような対策を講じればよいのか

「マミートラック」の問題点を3つ挙げて紹介したが、これらの問題点を解決するためにどのような対策を講じればいいのだろうか。「制度面」、「仕組み」の2つの点からチェックしてみよう。

【制度面】

●時短制度
3歳未満の子どもを育てており、一日の所定労働時間が6時間以下でない従業員は「短時間勤務制度」を利用できることが法律で定められている。ただ、3歳を過ぎても育児にかかる手間が極端に少なくなるわけではない。そこで、法律で定められている以上の制度の準備が企業に期待されている。また、「小1の壁」と呼ばれる問題もある。小さい子どもだけでなく、小学校へ入学したばかりの子どもがいる従業員の勤務時間についても配慮が必要になるだろう。

●フレックス制度
朝出勤し、夕方、もしくは夜まで勤務する企業の場合、時間によっては保育園への送り迎えが難しいという場合もあるかもしれない。しかし、フレックス制度を導入していると、家族の都合に合わせて通勤時間を決めることができる。特に、子どもを勤務地近くの保育園に預けている従業員には、ラッシュ時の交通機関の利用を避けることができるという利点もある。

●リモートワークやサテライトオフィス
急な体調不良だけでなく、感染症の影響によって、子どもの学校・保育園が突然の休校・休園、もしくは学級閉鎖になるという状況も予想される。そのような状況でも仕事を進められるために、従業員が在宅で仕事ができる環境を整えておくことも重要だ。

また、遠くのオフィスまでわざわざ通勤することなく、近くのオフィスで仕事ができる「サテライトオフィス」を設置することも効率化につながる。通勤時間が短くなることで、生産性の向上や従業員の健康維持にもつながるはずだ。

●育休制度
法律で定められた育休期間は「子が1歳に達するまで」だが、2歳に達するまでは延長が可能だ。地域によっては、子どもを預ける場所が見つからない「待機児童」が問題となっているため、育休延長ができることをありがたいと感じる人も多いだろう。

企業側としても法律で定められた育休期間にプラスして育休が取れるようにしておくと、預け先も見つけやすくなり、従業員がより働きやすくなることが期待できる。

●会社からの補助金
預け先が見つからないという理由から、個人でベビーシッターを雇うことを検討する従業員もいるかもしれない。ただ、ベビーシッターの費用は保育園・託児所の費用に比べ高額になりがちである。企業でベビーシッター利用者に補助金を出す制度を作っておけば、やる気のある復帰希望者の助けとなるはずだ。

●企業内託児所
特にサービス業に言えることだが、保育園・託児所が休みの日の子どもの預け先に困っているという従業員が出てくることも予想される。このような状況に対応するために企業内託児所を設置しておくと、日・祝日に勤務できる従業員の確保も容易になるだろう。

【仕組み】

●ワークシェアリング
今まで一人で担当していた業務を複数人で担当する「ワークシェアリング」の導入も効果的だ。子どもの体調不良等で突然休暇を取ることになっても、仕事に支障が出ることがないというメリットがある。ワークシェアリングは労働時間を短縮できるため、子育て中の従業員だけでなく、どの従業員にとっても利点が多いはずだ。

●キャリアの志向に適した配置
産休・育休から復帰した従業員すべてが仕事をセーブしながら続けたいと思っているわけではない。産前と同様にキャリアを積み重ねることを希望する人もいる。様々な考え方・働き方に配慮できるように、従業員の意思を確認し、それに合う部署への配置をしていかねばならない。

●1on1ミーティング
働きながら子育てをしている従業員の中には、今後の働き方に不安をもっているという場合もあるかもしれない。従業員の不安を解消するためにも、上司と一対一のコミュニケーションを取る機会を設けることが重要だ。日常から悩みや不安を話し合いやすい雰囲気作りが必要である。

●タイムマネジメント
子育て中の従業員だけでなく、周囲の従業員もタイムマネジメントを意識することで、部署全体で業務の効率化を実現していくことができる。例えば、残業を発生させない、帰宅時間が遅くならないために会議の開始時間は15時頃までにするなどの工夫を行うと良いだろう。

●アンケート調査
子育て中の従業員が働き方について不安になっていることがないかなどをアンケートで声を拾い上げることも大事だ。面と向かっては言いづらいことでもアンケート形式ならば書きやすいという人もいるかもしれない。また、子育てをしていない従業員にアンケートを取ることで、職場の問題点が明らかになるというメリットもある。

●男性社員への啓蒙
子育て中の従業員がいる場合、女性従業員だけでなく、男性社員への啓蒙活動も大事になってくるだろう。また、2022年4月から施行される「育児・介護休業法」の改正に伴い、育休取得を希望する男性従業員が出てくる可能性も高い。今後は、男性従業員同士の相互理解もより一層大切になっていく。

●女性社員同士のコミュニティ
「マミートラック」を経験した女性従業員からこれから経験する従業員に、仕事のやり方、時間の使い方などをアドバイスできる場づくりは、大きなメリットにつながる。女性従業員同士のコミュニティを作ることで、自然と話しやすい雰囲気も醸成されるだろう。

「マミートラック」を希望する社員がいることにも配慮する

これまで、「マミートラック」があるために希望する働き方ができなくなる可能性について言及してきたが、マミートラックを希望する従業員もいることを忘れてはならない。その理由について確認していこう。

●家庭と仕事の両立

産前と同様の仕事をするとなれば、遠方への出張や遅い時間の会議への出席などが伴うケースも出てくる。家庭と仕事を両立したいという場合はあえてマミートラックに乗り、無理なく仕事を続けるという方法がある。子どもが大きくなり、ある程度手がかからなくなった時点で、時短勤務から通常勤務を希望する従業員もいるだろう。

●自分、家族との時間の確保

「マミートラック」に乗ることで、勤務時間や業務の負担を減らすことができる。そのため、従業員は自分の時間、家族と過ごす時間を確保することができる。

●会社に無理な負担がかからない

子育て中でも通常勤務をしている従業員がいる場合、急な休み、遅刻・早退等で、サポートする従業員の負担が大きくなる可能性もある。時短勤務の利用で、他の従業員も無理なくサポートできる体制を作ることができるため、従業員全体の負担軽減にもつながるだろう。

●自分への負担もかからない

子育てしながら仕事をする場合、体力面の負担もさることながら、他の従業員へ負担をかけていることを気にする従業員も出てくるのではないだろうか。時短勤務の利用や業務を軽減することで、体力面の負担軽減だけでなく、他の従業員へ気兼ねする機会が減ることも期待される。
「マミートラック」は“子育て中の従業員のモチベーション低下”、“仕事のやりがいを失うことで退職に繋がる”など、ネガティブな話題が取り上げられがちである。ただ、企業が制度面や仕組みの面からサポートすることで、そのような課題の解決につなげることができるだろう。また、中には自ら希望してマミートラックに乗りたいと考える従業員が存在することも忘れてはいけない。今後も、子育てをしながら働きたいという従業員は増えることが予想される。各人の希望する働き方を充分に考慮して担当業務を決めることが、これからはますます重要となってくる。
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