デジタル化とは、単なるデジタルテクノロジーの導入ではなく、「Being Digital」―― デジタルエンタープライズへと進化することです。そのためには、デジタルが企業組織に与える影響を踏まえながら、「従業員のマインドセット」や「組織風土」を大きく変えていく必要があります。デジタル時代における組織風土のあり方、その変革の進め方について解説します。

「Doing Digital」から「Being Digital」へ

デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進にあたり、多くの企業がさまざまなデジタルテクノロジーを導入し始めています。テクノロジー基盤を刷新し、新しいサービスの開発に向けて集中的な投資を行うなど、その動きは一層活性化しています。DXのゴールとして、新サービスや製品による収益・トップラインの向上や、自動化やAIを活用した業務の効率化があげられます。しかし、DXの「本来の意義」、つまり「デジタルをテコにしたトランスフォーメーション」の実現には、単にデジタルテクノロジーを導入するだけでなく、企業としてデジタルエンタープライズへと進化することが求められます(図表1)。

図表1

それは、デジタルテクノロジーの進化は恒常的なものであり、「サービスを開発したり新製品を出したり(Doing Digital)して終わり」という類のものではないためです。常に変化していくデジタル環境に、柔軟かつ速やかに適応し続けていく企業力を具備すること(Being Digital)が求められます。その意味で、DXは単なる一過性の取り組みではなく、「デジタルエンタープライズへの進化を迫るもの」といえます。

既にDXに取り組まれている企業にとっては、まさに直面しているテーマでありますが、デジタルが企業組織に与えるインパクトは小さくありません。まず、これまでビジネスをしていた顧客自身が、デジタルの流れで大きく変容し、既存の製品やサービスに対する期待値が変わり、変化を求めるようになります。そうした変化への対応には、これまで以上にスピードが求められるようになりますし、場合により新しいビジネスモデルによるまったく異なる業務に対応する必要があります。一方で、従業員のモチベーションの源泉は、単なる報酬・処遇ではなくなります。「より良い従業員体験」がカギになると同時に、リモートワークやフレキシブルな働き方を背景に、コラボレーションのあり方が変わってきています。こうしたインパクトは、恒常的なイノベーションが求められるデジタル化の潮流にあって、絶えず組織に変革を迫るものといえます(図表2)。

図表2

これらは単なるテクノロジーの導入に関する問題ではなく、企業の組織風土の問題ととらえることができます。具体的には、下記のようなことがあげられます。

・デジタル化をリードし続けられるリーダーシップ
・その下で取り組みを推進しうる体制と十分なスキル・適切なマインドセット


デジタルエンタープライズへの進化とは、テクノロジーの活用の仕方にとどまらず、従来型の組織風土への挑戦、という大きなテーマに取り組むことであるといえるでしょう。

デジタル時代に求められる「組織風土」とは

では、デジタルエンタープライズとして具備すべき「組織風土」には、どういった特徴があり、これまでとはどのような違いがあるのでしょうか。下表に、「“従来型”の組織風土」と「“デジタル時代”の組織風土」について、代表的な特徴を比較整理しています(図表3)。

図表3

ポイントは、「デジタル化が組織に与えるインパクトを、うまく企業の強さにつなげていく」ということです。自社の製品やサービスに固執しすぎずに、顧客・マーケットと真摯に向き合い、大胆にリスクを取って先進的な取り組みを前に進めること。そして、新しい顧客体験を生み出すこと。そのために既存の組織上の枠組みにとらわれないコラボレーションと迅速な意思決定を行うこと。さらに、何よりも、失敗を恐れず、むしろ奨励すること。これらはいずれも、DXを強力に推進するにあたって必要不可欠なものといえます。
しかし一方では、DXの成功を阻害する要因にもなりえるものです。いくら経営層がDXの意義や重要性を説き、テクノロジー基盤に潤沢な投資を行ったとしても、組織運営基盤ともいえる組織風土が脆弱なままでは、DXの成功はおぼつかないでしょう。

とはいえ、「“従来型”の組織風土」を変えていくには、声がけやスローガンだけではなかなかうまくいきません。しかるべきステップで、着実に取り組んでいく必要があります。

組織風土変革における「6ステップ」

下表にて、組織風土変革を進めるうえでのステップを示します。言わずもがなではありますが、組織風土を変革していく際には、「経営層のコミットメントと旗振り」が何よりも重要です。したがって、しかるべき検討チームを準備することが第一歩となることを付言しておきます(図表4)。

図表4

【ステップ1】
まずは、現状の組織風土を正しく知ることから始めます。といっても、組織風土は目に見えないものなので、ワークショップやサーベイ・アセスメント、さまざまな行動データの分析を通じて、目指す組織風土に対して自社の組織風土にはどういった課題があり、またどういった良さがあるのかを把握し、経営層で共有します。

【ステップ2】
しかる後に、目指すべき価値観や、その価値観を体現する行動を具体的に明文化します。スローガンやキャッチフレーズで終わるのではなく、目指すべき組織風土においてはどういう行動が求められるのかを、できるだけ丁寧に書き下ろすことが肝要です。なお、このステップは現状把握と並行して進めても構いません。

【ステップ3】
そして、上記のような「行動変容を実現するにはどのような打ち手が有効か」を考え、施策としてリストアップします。あわせて、求められる行動が正しくとられていることを確認するためのKPI(モニタリング項目)を設計します。

これは「組織風土変革」の実現・浸透度合いを把握し、軌道修正するために活用しますが、定性的なものにとどまらず、行動データをログとして取得し分析する方法も同時に設計しておきます。

【ステップ4】
次に、立案した施策群をやみくもに実行するのではなく、「チェンジネットワーク」を組成します。これは、個々の部署やチームにおいて、「この人が変われば全体が変わる」という影響力が強いステークホルダーを識別し、変革推進側に引き入れる、ということを意味します。

【ステップ5】
そしてチェンジネットワークの役割を意識しながら、実行計画を策定します。計画の実行に際しては、各施策の進捗度合いはもちろんのこと、目指すべき行動が実際に行われているかを、KPIとして定義した「行動データの分析」や、パルスサーベイなどを用いた「従業員意識の定点観測」などによってモニタリングすることが肝要です。

【ステップ6】
そして、分析結果を受けてタイムリーに軌道修正していくことが求められます。

デジタルエンタープライズに向けた進化

組織風土変革は一朝一夕に成るものではなく、長期間にわたる取り組みです。また、企業規模や歴史により、難易度も異なります。そのため、確実な実行に向けて、小さく始めて速やかに拡大する「start small, scale fast」というアプローチも考慮の余地があります。例えば、DX推進組織を中心にパイロットとして風土変革を進め、一定の効果と定着を確認し、しかる後に全社に徐々に広げていく、というやり方も一案です。

DX推進にあたり、デジタル、テクノロジーへの理解と投資が重要であることはいうまでもありませんが、自社の組織風土をデジタル時代に即して進化させていくことは、同じくらい重要であるといえます。

DXの究極の目的とは、まさにデジタルエンタープライズに向けた企業の変革(トランスフォーメーション)であり、組織風土の変革は、間違いなくその重要なピースとなります。大切なのは、DXにおける組織風土の重要性を理解し、何を変え、何を残し、何を新しく始めるべきなのか、を意識して、デジタルエンタープライズに向けた第一歩を踏み出すことといえるでしょう。
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