「障がい者雇用&戦力化の教科書」第3回目は、「障がい者の仕事内容はどのようにして作り出せばよいか」という点について考えていきます。障がい者がおこなう業務で悩んでいるのは、はじめて障がい者を雇用しようとする企業だけではありません。障がい者雇用をしているものの、今後さらに採用を進める必要がある企業でもよく課題となることです。今までと同じ状態のまま、現状の業務を障がい者のために切り出すことは難しいかもしれませんが、少し考え方を柔軟にすると、業務全体を見直したり、組み替えたりすることができたりするものです。社内の業務を切り出すために役立つ視点や考え方を紹介していきます。
第3回:障がい者の仕事内容はどのようにして作り出せばよいか

障がい者雇用で業務を切り出すときに持っておきたい視点

まず、障がい者雇用を考えるときに持っていただきたい視点があります。それは、障がい者雇用のみを考えるのではなく、会社全体の効率化や社員全体のスキルアップなどの広い視点から、障がい者雇用を考えることです。

ある企業では、障がい者雇用のために業務を切り出そうとしたときに、「自分の仕事を取られてしまうのではないか……」と従業員が感じてしまい、社内からまったく協力を得ることができない状況に陥ってしまったことがありました。もちろん、それなりに障がい者雇用の必要性や会社としての方針などを説明してからおこなったにもかかわらず。

何が問題だったのでしょうか。それは、「目的や背景の伝え方」です。企業として、障がい者雇用を進めなければならないという事実は変わらないでしょう。しかし、障がい者雇用のために業務を切り出そうとするとき、自分の携わっている業務が他の人に代えられそうになると、「その業務を担当している従業員はどのように感じるのか」について配慮する必要があります。前述の企業では、その点を説明不足だったために、従業員たちに不信感を抱かせてしまったようです。

もし、障がい者雇用のために業務を切り出すだけでなく、会社や組織全体を見たとすると、どのようなアプローチができるでしょうか。組織全体の最適化をはかることが必要であるとともに、より働きやすい環境を作ることや、社員全員のキャリアアップを目的としているという意図を伝えることができるかもしれません。

また、障がい者雇用の業務として切り出す仕事に従事している社員には、組織として、さらにレベルアップした仕事を任せたいことを伝えたり、障がい者の業務マネジメントに携わってくれるよう期待していることを知らせたりすることもできるでしょう。

例えば、社内全体を見ながら、次のような視点から業務を考えることができないでしょうか。

・社員がより活躍できる体制作りができないか
・社員の福利厚生につながるものはないか
・女性社員が、就業時間以外でおこなっている雑務はないか
・人手が欲しい業務はないか(定期でなくスポットでも可)
・外注している業務や派遣社員を使っている業務はないか
・社内で残業の多い部署や部門の業務を手伝えないか
・今後、テレワークや在宅就労を推進するうえで、必要な環境整備の準備はできないか


私が特例子会社の立ち上げにかかわったとき、社内では、障がい者雇用への理解があまり浸透しておらず、業務の切り出しが難しい状況でした。そのようななかでふと気づいたのが、女性社員が給湯室で布巾などを洗っている姿です。1つの部署では大した業務量にはなりませんが、社内全体の分を集めて洗うならば、1つの業務として成り立ちますし、衛生的にもよいものです。そこで社内全体に周知して、使い終わった布巾を入れるボックスと、きれいな布巾を入れるものを設置し、障がい者の業務を作り出しました。

見学に来た企業の方からは、「こんな(小さな)ことでも業務になるんですね」と、よい意味合いとして捉えていいのかどうか曖昧なコメントをいただくこともありましたが、障がい者が社内を巡回しながら布巾を回収することで、確実に障がい者雇用が社内に受けいれられていくのが実感できました。

そして、この布巾業務は、女性社員から高評価を受けるとともに、今まで障がい者と接することがほとんどなかった従業員たちからも挨拶されたり、仕事ぶりをほめてもらえたりといった機会も多くなりました。また、「例えば、こんな業務も担当できないか」と声を掛けてくれる社員も増えていきました。

企業の規模や業種、社風、そして経営層の考え方は、それぞれの企業によって異なるので、この方法があなたの会社にも最善であるとは限りませんが、このようなことから始めることもできます。

障がい者の業務を切り出す具体的な方法について、社内で考える

次に具体的に仕事を切り出す方法について考えていきたいと思います。先述した「仕事を切り出すときに持っておきたい視点」を考慮しながら、業務開拓依頼を社内に展開していきます。特に管理職やマネージャー層の理解と協力は必要です。目的を明確に示し、組織全体でおこなうことを伝えましょう。

(1)社内の業務を洗い出す
企業もしくは担当部署の規模や雰囲気にもよりますが、個人・組織の業務の洗い出しをおこなうには、業務に関するアンケートをとると効果的だと思います。アンケートによって、担当者レベルではルーティンになっている業務でも、意外とマネジメント層が把握していない業務があったり、必要のない業務も見つかったりすることがあります。業務の全体の効率化を考えながら、整理していくとよいでしょう。

(2)業務を切り出す
業務を切り出すときには、それを担当する障がい者のことを考慮する必要はありません。「障がい者だからこの業務はできない」、「専門的な知識が必要だから……」などと、こちらの判断が介入すると、途中で止まってしまうことがあります。採用をかける際に応募者がいそうな業務を選ぶことは必要ですが、最近の障がい者雇用には多様な人材がいますので、業務の切り出しのときには、ネガティブな理由を考えずに、まずは業務の切り出しに注力してください。

(3)業務設計を立てる
ある程度業務の切り出しができたところで、業務設計をしていきます。このときに大切なポイントがいくつかあります。まず、障がい者がひとりで働ける仕組みを作るということです。ひとりでは仕事が完結できない業務にしてしまうと、担当者となる社員が確認作業に時間や手間をとられてしまい、本来の仕事に支障が出る状態になってしまいます。そうならないためには、業務の確認や質問の時間を設ける、はっきりしないところは印をつけて、後でまとめて確認できるようにしておくなど、対策を取ることが必要です。

(4)業務分解を検討する
また、必要に応じて業務分解をすることもできるでしょう。もし、今までひとりの社員がおこなっていた業務を分類すると、1~10のプロセスに分けられるかもしれません。障がい者にこれまでと同じように、その全てのプロセスを請け負わせる必要はありません。場合によっては一部分だけを切り出して障がい者の業務にすることもできます。

「アンケート調査」という業務を例にとってみましょう。プロセスを分解したときに、今までおこなっていた「発送」と「集計」を障がい者の業務として切り出すことができるかもしれません。アンケートの設計や結果分析は、それなりの専門性が求められるかもしれませんが、発送や単純集計であれば、専門職の人がかかわらなくてもよいでしょう。また、同じような業務をしている人が複数いるのであれば、その業務をまとめて担当することもできます。
第3回:障がい者の仕事内容はどのようにして作り出せばよいか
出典:筆者作成

そして、仕事に変化があることを意識した設計も大切です。経営状況や組織体制、技術の進歩などによって、仕事内容は変化することがあります。現時点だけでなく、少し先を見て考えることが重要です。

例えば、障がい者雇用をしている会社では、名刺の作成を手掛けるところも多くあります。現状で、全社員が同じ建物内にいるのであれば、できあがった名詞を手渡しで届けているかもしれません。しかし、将来的には働く場所が分かれることも考えられるでしょう。そのような場合に備えて、システム設計時に、伝票書類に配送できる情報などを組み込んでおくことができます。

業務設計は、現時点のことだけなく少し長い目でみること、また、人に依存するのではなく、業務が滞りなくまわるための仕組みを作ることを意識しておこなうと、業務の変化や担当者の異動があっても、継続的に障がい者が働ける環境を整えることにつながります。

他社の取り組みは参考にはなることも多いですが、企業の経営理念や従業員に対する考え方、社員の協力、そして業務の内容など、それぞれの状況は異なります。あくまでも自社の取り組みとしてどうするのかを総合的に考えて、実施方法を考えることが大切です。
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