日本社会の高齢化は、後継者不足という形で企業経営に影を落としています。経済産業省が2019年2月に発表した統計では、日本企業全体の3分の1にあたる127万人の経営者が後継者未定と回答しています。大企業でも、こうした高齢化に加え、近年のデジタル化やシェアリングエコノミーの普及といった急激な環境変化の中、先行き不透明な時代を担える後継者が不足していると認識しています。次世代経営リーダーの育成は、日本企業の喫緊の課題です。今回は、人事担当者の目線からそのようなリーダー育成の現場最前線についてご紹介します。
人事担当者が語る「リーダー育成」の現場【8】

日本企業におけるリーダー育成の課題

経済産業省は、2018年にコーポレートガバナンス・コードの中で、社長・CEOの後継者計画を上場企業が継続的に企業価値を高め続けるために重要な取り組みと位置づけました。これを受けて、上場企業の多くは経営リーダー候補育成の取り組みを始めています。

その背景には、日本企業特有の「生え抜き」という考え方があります。これまでの新卒を大量に一括採用していた時代では、学生を育て上げて適性を見極め、最終的に優秀な人材を社長にしてきました。これは、ある程度の人数を採用できた時代だからこそ可能だった取り組みと言えます。また、このリーダー育成の方法は計画的なようで、計画的ではない取り組みでした。なぜなら、大量に採用した人材の中から優秀な人材が出てくるのを待つスタイルだからです。

しかし、新卒一括採用時代の終焉と激しい経営環境の変化を背景に、日本企業でも計画的な後継者育成の取り組みが迫られているのです。多くの日本企業は成熟期を迎えています。高度経済成長期やバブル期、ITバブル期のような激しい成長を経験した大企業も、現在はほとんど安定期を迎えています。

成長期ではいわゆる「修羅場」とよばれるタフな経験ができました。人は危機や難しい状況を乗り越えた時にこそ、最も成長します。しかし、大企業が成熟期を迎えた今、日本企業に「修羅場」はほとんど存在しません。人事担当者は後継者不足を切実に感じていますが、経営者を育成するための場が少なくなってしまったことが大きな問題です。

リーダー育成のホンネ

欧米企業では「タレント」という考え方が浸透しています。「タレント」は特に優秀な人材のことを指します。こうした「タレント」を社外から採用して、最終的にリーダーにする取り組みも行われています。プロスポーツの世界と同じように、本当に能力のある人材にお金をかけて採用することが日常的に行われているのです。企業はこうした「タレント」を自社につなぎとめるために、高い報酬だけでなく重要なポジションやタフな経験など、成長の機会を積極的に与えています。

日本でも同じような取り組みを始める企業が徐々に増えてきました。日本企業の場合は、特に優秀な学生を選抜で採用したり、社内の優秀な人材に20代のうちからタフな経験をさせたりする取り組みを実施しています。

ここで人事担当者として悩むのが、誰を選抜すべきか、そしていかに穏便に選抜するか、という点です。なぜなら、日本人は公平性を重視するからです。また、特定の人材だけを優遇すると、労働組合から反発が起こる可能性もあります。さらには、人事としても全ての社員に平等に機会を提供したい、と言う考えもあります。

実際のリーダー育成の現場で、次期候補者に選ばれなかった人材が泣き崩れる様子も目にしてきました。社員は仕事に人生を賭けている、そして人事は人生を左右する仕事をしている、そんなことを改めて強く実感する瞬間でした。

しかし、人事の仕事としては本当に優秀な人材だけを経営リーダーとして育成しなければなりません。私たち人事は、人事のプロとしての想いと一人の人間として全ての人に機会を提供したい想い、このジレンマにいつも悩まされています。

リーダーシップは先天的か、後天的か

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