知の探策が日本を変える 〜「イノベーションを生めない日本企業」から脱するために〜

ワークスアプリケーションズが主催する日本最大級のビジネスカンファレンス 『COMPANY Forum 2017』 講演録

いま、自社からイノベーションが生まれないことに危機感を感じる日本企業が増えている。しかしそもそもイノベーションの本質はどこにあるのか。それを阻んでいる日本の企業文化や体質とはどういったものなのか。そしてその中で個人はどのように動き、価値を発揮すればよいのか。ベストセラーとなった『世界の経営学者はいま何を考えているのか』の出版以降、ハーバード・ビジネス・レビュー、NewsPicks、Forbes Japanなどで連載を持つ注目の経営学者 入山章栄氏が、世界最先端のイノベーション理論を語った。

企業のイノベーションとは人間の認知科学を突き詰めたもの

圧倒的に変化と競争が激しい時代に入りました。人工知能やIoT、量子コンピュータなど、新しいテクノロジーもどんどん出てきています。これまで平穏だった業界が、いきなりなくなってしまうことも起こりえる時代。何もしないでぼーっとしていると、会社はなくなってしまいます。だからこそこれからの企業には、新しいこと=イノベーションが必要になりました。

まず、本日お話しするイノベーションについてですが、これはグーグルやアップルがやっているような大きなイノベーションのことではありません。新規事業や新規プロジェクトの企画、実行から、日々の細かい業務まで含め、会社を少しでも改善し、前に進めることをまとめて、イノベーションと考えて、お話を進めていきます。

新しいアイデアとは「既存の知」×「既存の知」

イノベーションの第一歩は、当然ながら新しいアイデア、新しい知を生み出すことです。新しいアイデア=新しい知とは、今ある「既存の知」と別の「既存の知」との、新しい組み合わせです。人間は、ゼロからは何も生み出せません。なぜ、知を作ることが難しいのか? それは、人間の認知に限界があり、認知できるものだけを組み合わせる傾向にあるからです。

何十年も同じ業界、会社にいる人だけでは、既存の知しか生まれず、目の前の既存の知同士でしか組み合わせができません。ですから、そこから新しい知=イノベーションは生まれません。ではどうすればいいのか? それは、目の前ではなく、自分からなるべく遠く離れた知を幅広く探して、今自分が持っている知と組み合わせることです。私はこれを「知の探索」と呼んでいます。

トヨタ生産システムもTSUTAYAも、遠くの知を組み合わせて生まれた

イノベーションの第一歩というのは、知の探索から始まります。たとえば、「トヨタ生産システム」は、アメリカのスーパーマーケットのフォーマットを組み合わせました。TSUTAYAのCD・DVDのレンタルは、消費者金融のビジネスモデルを組み合わせました。どちらも、本体から遠く離れた知を組み合わせたのです。

様々な遠くの知を組み合わせて、これはいけると思った組み合わせがあれば、今度はそれを、徹底的に深掘りします。私はこれを「知の深化」と呼んでいます。

この「知の探索」と「知の深化」をバランスよく、高いレベルで行えば、イノベーションを起こせる確率が高くなります。

日本企業にイノベーションが生まれない理由

ところが企業や人は、「知の深化」に偏る傾向にあります。人は認知の限界のせいで、すでに目の前にあるものを深掘りする傾向があります。そして何より、知の探索は大変です。遠くを探すのに、時間もお金もかかるし、人も必要だからです。

ただ、「知の探索」をして遠くの知をたくさん仕入れ、組み合わせても、多くは失敗します。また企業の予算は限られており、売上を達成するため、目の前の儲かっているものの方から先に深掘りしてしまいがちです。だから、「知の深化」に偏ってしまうのです。

「成功か・失敗か」の評価制度ではイノベーションは生まれない

では、どうやったら企業が「知の探索」に力を注げるようになるのでしょうか?それは、企業が社員に「失敗」を認める風土をつくることです。たとえば、天才といわれるアップルのスティーブ・ジョブズは、成功したiPhoneやiMacの影に、膨大な数の失敗作があります。

ジョブズは、典型的な「知の探索」型人間です。アップルはデザインに定評があり、特にフォントが美しいとされていますが、これはジョブズが学生時代に学んだカリグラフィー(西洋書道)がルーツです。ジョブズは、自分の本業から遠く離れたことにいろいろ関心を持っていて、それをたくさん組み合わせていました。だから、それだけ失敗の数も膨大になったのです。

ここで皆さんに考えていただきたいのは、「どうやって組織に失敗を取り込むか」です。
そのために見直していただきたいのは評価制度です。

「成功か」「失敗か」の紋切り型評価では、イノベーションは生まれません。日本企業では、たとえばサイバーエージェントは、成功か失敗かではなく、チャレンジの数や失敗の数を評価軸にしています。

「彼は今回こけたけど、その分事業の種をまいたよね」とか「彼女はあそこで失敗したけど、部下をうまくモチベートしたよね」といったように、定性的な評価を行うことが大切なのです。

著者プロフィール

早稲田大学ビジネススクール 早稲田大学大学院経営管理研究科 准教授 入山 章栄

早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。
三菱総合研究所で、主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。
同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年より現職。「Strategic Management Journal」「Journal of International Business Studies」など国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。
―著書:『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社) 他

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