第62回 悪貨は良貨を駆逐する

大学の就職支援室からみた新卒採用

表題は「グレシャムの法則」の内容を要約した言葉で、もともとの語源は金本位制の金融政策下でイギリスが行なった政策に対してグレシャムが説明に用いた言葉のようです。しかし今、これと全く同様の状況が、地方の採用の現場で起きているような気がしてなりません。端的にいうと、優秀な学生が流出し、そうでない学生は地方に残るという図式になっていると感じずにはいられないのです。
先日、こうした思いをさらに深める出来事がありました。
大学ではインターンシップを単位取得できる科目があり、学生が一定の基準を満たすインターンシップを自由に選んで申請すれば単位取得できるという仕組みになっています。先日私は、その単位取得者が集まるインターンシップ報告会というイベントに、知り合いの先生から呼ばれて参加させていただきました(お誘いいただいた先生からは、スパイシーなフィードバックをお願いされていたのですが、残念ながら不発でした)。

その会では、首都圏の大手のインターンシップに参加した学生と、地元企業のインターンシップに参加した学生の両方の報告があったのですが、それぞれの学生の受講したプログラムのレベルが全く違ったことに驚きを覚えました。

もちろん大手のインターンシップがどこも良いという意味ではありません。ですが、「インターンシッププログラムの中身を充実させて、そこの評判を上げることで早期に意欲的な学生との接点を作る」ことを狙っている会社と、単に「他社もやっているから、解禁前になんかやっとかないとまずいよね」という考え方で実施しているプログラム(いうなれば「やるだけインターンシップ」)では、実際、内容の充実度にとても大きな差があるのです。

こうした企画・実施側の力量差は、会社説明会や選考会ではそれほど感じることはなかったのですが、インターンシップという参加・体験型のコンテンツでは、明確に表れてしまうようです。他社もやっているからわが社も、という視点で、学生に対して安易なPRを実施しているインターンシップは、時間と労力を使ってわざわざ学生にネガティブなイメージを植え付けてしまうだけの、残念な結果になってしまっているように感じます。

それからもう一つ、これもどちらかというと、「やるだけインターンシップ」に多い傾向だと思いますが、参加した学生の「お客様扱い」がますます進んでいる印象を持ちました。私たち大学側は、学生が社会人と出会うことで自分の足りないところへの気づきや成長のためのロールモデルと遭遇することを、企業側に期待しているのです。しかし、売り手市場のひっ迫感のためか、企業側が参加学生に気を遣いすぎて、きちんとしたフィードバックがほとんどなされていないインターンシップが増えているようです。

参加した学生からの報告を聞いても、気付きや行動変化につながるようなプログラムが実施されていないように感じました。実際、参加学生にあまり大きな印象を与えていないのだろうなと思います。ただこれについては、インターンシップに参加する学生にそうした学びの動機付けを十分に与えずに送り出してしまった、私たちの責任も大きいと思っています。

今期参加したインターンシップ報告会では、スパイシーなフィードバックをするつもり満々で参加したのですが、まことに遺憾ながら、ことさらに突っ込んでも気付きにつながらない(なぜそのような指摘を受けるのか理解できない)学生が多いような気がして、突っ込むことができませんでした。繰り返しますが、これは私たちの責任でもあります。今、こうした事態を受けて、私にお声がけいただいた先生をはじめとする何人かの先生方と、次年度に向けた事前事後研修プログラム見直しの議論を行っています。

ですが、どうあっても、今後も今のように売り手市場が続くと、「やるだけインターンシップ」がますます増えてしまうことに懸念を抱いています。きちんとした学びや気づきを得られるインターンシップは、受け入れる企業にも参加する学生にも、それなりの負荷と時間をかける必要があります。しかしそうしたインターンシップに参加する学生が、現実として減ってきている。企業側も企業側で、せっかく採用担当が現場を巻き込んで質の高いプログラムを用意してくれたのに参加者が集まってくれないから、1DAYのような短期でお手軽なインターンシップに内容を変更した、という話も最近よく聞きます。

とにかくより多くの学生に参加してもらうために、お手軽なインターンシップに切り替える……本当にこうした流れでよいのでしょうか?参加した学生にいったいどのような情報を与えることができたのかを、もう一度しっかりと振り返ることが必要ではないでしょうか?そのような、「やるだけインターンシップ」を実施する企業を、非難できるうちはまだよいのですが、このままではまさしく「悪貨が良貨を駆逐する」ことになってしまうのではないでしょうか。

今の状況を見ると、都市部の大手企業が実施する質の高いインターンを受講したがるような意識の高い学生は、ますます地元のインターンシップに参加しなくなっているように感じますし、内容問わず、ただインターンシップに参加するだけで満足するような学生ばかりが、地元企業が実施する「やるだけインターンシップ」に足を運んでおり、それがそのまま就職につながっているように感じます。たとえ質の高いプログラムを地方企業が作っても、遠方からも地元からも注目されないため、学生が集まらず、ますます悪循環に陥る……。
このような状況を地方から変えていくには一体何をすべきか、今後も考え続けていきたいと思っています。
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著者プロフィール

金沢大学 就職支援室長 山本 均

1962年生、金沢大学法学部卒業後、株式会社ナナオに入社、採用教育に従事、その後株式会社アイオーデータ機器、沖電気工業株式会社にて人事採用業務に従事。2007年10月に帰省し、故郷金沢で人材紹介事業を中心とした人事コンサルティング会社、株式会社北陸人材ネットを設立、代表取締役に就任。2009年4月より金沢大学就職支援室長に就任(兼務)。学生の就職支援業務に従事する傍ら、大学の就業力向上プロジェクトに従事中。

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