前回までの2回にわたる「階層別研修(新入社員研修、管理職研修)」の調査報告に続き、今回は「テーマ別研修」に関する調査結果を報告する。
労働力人口が急速に減少し続ける日本社会において、人材確保が喫緊の課題となる企業には、スピーディーかつ戦略的な人材育成が求められている。このような中、職位や階層にこだわらず、必要な知識やスキルを学ばせる研修体系である「テーマ別研修」は、企業においてどのように活用され、どのような課題があるのだろうか。
「テーマ別研修」について全体像を把握するとともに、「リーダーシップ研修」「キャリア研修」「ハラスメント研修」等、各研修の課題や実施状況等について、フリーコメントによる具体的な意見も含めて検証した結果を、以下に紹介する。

<概要>
●実施しているテーマ別研修は「コンプライアンス研修」がトップで6割。「守りのテーマ」が上位に
●今後、強化する予定の研修は「リーダーシップ研修」がトップ
●課題のトップは「リーダーとしての在り方・姿勢・役割意識」
●「ハラスメント研修」の実施企業は半数超え、ただし中小企業は4割にとどまる
●「ハラスメント研修」は「コンプライアンス」として必要、離職者増加にも危機感
●コミュニケーション研修内容は「傾聴力」がトップ
●4~5割の大企業で「キャリア研修」実施、「シニア向け」は中堅・中小企業で1割未満

実施しているテーマ別研修は「コンプライアンス研修」がトップで6割。「守りのテーマ」が上位に

まず、「テーマ別研修」の実施状況について傾向を掴むため、「現在、実施しているテーマ別研修」について聞いてみた。すると、「コンプライアンス研修」が64%で最多であり、次いで「ハラスメント研修」が53%、「個人情報関連研修」が42%などとなっている(図表1-1)。この傾向は前回調査(2018年10月実施、以降同じ)と同様となっており、企業としての社会的責任を果たすための「守りのテーマ」が上位に挙がっていることが分かる。一方、「ダイバーシティ」「グローバルリーダーシップ」等、比較的未来志向である「攻めのテーマ」については優先順位が低く、実施している企業の割合は少ない傾向がうかがえる。
ただし、従業員規模別に見ると、1001名以上の大企業では、ほぼすべてのテーマについて中堅(301~1000名)・中小(300名以下)企業よりも実施率が高く、「ダイバーシティ研修」25%(全体9%)、「グローバルリーダーシップ研修」14%(同4%)となっている。

【図表1-1】実施しているテーマ別研修

HR総研:人材育成「テーマ別研修」に関するアンケート調査 結果報告(2019年)

今後、強化する予定の研修は「リーダーシップ研修」がトップで3割

次に、「今後、強化する予定の研修」については、「リーダーシップ研修」が28%で最多であり、次いで「ハラスメント研修」が20%、「コンプライアンス研修」が17%などとなっている(図表2-1)。このような傾向は前回調査と同様であり、「管理職研修の内容」としても盛り込まれることの多いテーマについて、課題感を持たれている傾向がうかがえる。

【図表2-1】今後、強化する予定の研修

HR総研:人材育成「テーマ別研修」に関するアンケート調査 結果報告(2019年)

リーダーシップ研修の実施企業は、大企業では過半数ながら、中小企業では3割にとどまる

「強化する予定の研修」のトップである「リーダーシップ研修」について、改めて実施の有無について質問したところ、「実施している」が41%、「実施していない」が59%となっている(図表3-1)。
従業員規模別にみると、大企業では55%と半数以上の企業で実施しているが、中堅企業は44%、中小企業は32%となっている。特に、中小企業では、「リーダーシップ研修」の優先度は高いとは言えない状況がうかがえ、企業規模に比例して実施している企業の割合も高くなる傾向にある。
では、「リーダーシップ研修」を実施している企業は、受講者に対してどのような課題を抱えているのだろうか。

【図表3-1】従業員規模別 「リーダーシップ研修」実施の有無

HR総研:人材育成「テーマ別研修」に関するアンケート調査 結果報告(2019年)

「リーダーとしての在り方・姿勢・役割意識」が課題のトップで7割

「リーダーシップ研修の受講者に対して抱える課題」については、「リーダーとしての在り方・姿勢・役割意識」が73%で最多であり、次いで「部下育成力」が61%、「人間関係構築力/コミュニケーション」が46%などとなっている(図表4-1)。前回調査より「人間関係構築力/コミュニケーション」が1つ順位を上げ、前回比(今回調査―前回調査、[ポイント])8ポイント増となっており、リーダー職のコミュニケーション力不足を懸念していることがうかがえる。
具体的な課題として、「時代の変化に合わせた部下への指導方法」「リーダーとしての意識改革」等に関わる意見が多く見られる(図表4-2)。これらから、社会における価値観の多様化に伴い変化する部下社員の特性を考慮し、組織のリーダーとして、部下の育成や組織作りの役割を担うことへの「意識改革」及び「行動変容」までが求められていることがうかがえる。

【図表4-1】「リーダーシップ研修」の受講者に対して抱える課題

HR総研:人材育成「テーマ別研修」に関するアンケート調査 結果報告(2019年)

【図表4-2】「リーダーシップ研修」の受講者に対して抱える具体的な課題

コメント従業員規模業種
部下の指導ができない1001名以上メーカー
新しい世代を受け入れていく中、旧態依然とした指導法では人材が育たない。個々の力を組織としてより発揮させることを意識させる必要がある1001名以上商社・流通
時代の変化に合わせた若年層に対しての指導ができない人が多い1001名以上商社・流通
意識改革301~1000名サービス
プレイヤーからマネージャーに求められること、また他部門との連携等、経営感覚を持ってもらうことを認識してほしい301~1000名メーカー
部下育成力301~1000名メーカー
プレイヤーとしての能力面だけでリーダーとなることが多く、マネジメントスキルとしては低い300名以下メーカー
リーダーとしての自覚300名以下メーカー
まだ組織を纏めるチカラが弱いと感じる300名以下情報・通信
目標達成のため、チーム一丸となって取り組むマインドとスキルの向上300名以下情報・通信

リーダーシップ研修の内容は、「リーダーとしての在り方・姿勢・役割意識」がトップで8割

実際に実施しているリーダーシップ研修の内容については、「リーダーとしての在り方・姿勢・役割意識」が81%で最多であり、次いで「部下育成」が55%、「人間関係構築/コミュニケーション」が50%などとなっている(図表5-1)。この傾向は前述した「受講者に対して抱える課題」と同様であり、課題を踏まえた研修内容が設定されていることが分かる。

【図表5-1】リーダーシップ研修の内容

HR総研:人材育成「テーマ別研修」に関するアンケート調査 結果報告(2019年)

「ハラスメント研修」の実施企業は「やや増」、ただし中小企業は4割にとどまる

続いて、「ハラスメント研修」について、改めて実施の有無について質問したところ、「実施している」が55%、「実施していない」が45%となっており、この傾向は前回調査より「実施している」企業の割合がやや高くなり、半数を超えている(図表6-1)。また前回比では7ポイント増となっている。
また、従業員規模別にみると、大企業及び中堅企業では、ともに「実施している」企業の割合が71%と7割を超えている。一方、中小企業では「実施している」企業の割合は40%にとどまり、中小企業においては未だハラスメント対策に対する意識が高くない状況にあることがうかがえる。

【図表6-1】従業員規模別 「ハラスメント研修」実施の有無

HR総研:人材育成「テーマ別研修」に関するアンケート調査 結果報告(2019年)

「ハラスメント研修」は「コンプライアンス」として必要、離職者増加にも危機感

実施している企業において、「ハラスメント研修の実施の背景にある課題」として挙がっている項目は、「コンプライアンスとして」が60%で最多であり、次いで「管理職の認識不足」が47%、「社会的な関心の増加」が45%などとなっている。この傾向は前回調査と顕著な変化は無いものの、「ハラスメント由来の離職者の増加」については前回比9ポイント増となっている。ハラスメントは「人材確保に対する悪影響因子」として危機感を持つことが、ハラスメント研修の実施に向けた強い動機となり、実施企業の増加に繋がっていることも考えられる(図表7-1)。
より具体的な課題としては、「古い企業体質」と「当事者意識の不足」に関する内容が多くみられる(図表7-2)。ハラスメントの根絶に向けては社員一人ひとりの意識改革が必要であるが、歴史のある企業においては、長い年月をかけて築き上げられた社風や企業体質という根深い部分を変えていく必要があるため、根気強く積極的な働きかけが求められる。

【図表7-1】ハラスメント研修の実施の背景にある課題

HR総研:人材育成「テーマ別研修」に関するアンケート調査 結果報告(2019年)

【図表7-2】ハラスメント研修の実施の背景にある、具体的な課題(一部抜粋)

コメント従業員規模業種
古い体質の企業、属している業界の特性もあり、ハラスメントに対する認識が著しく低い1001名以上メーカー
ハラスメントについては、現状かなり浸透してきているので、会社としてのコンプライアンスの一環として最近の社会での傾向等を中心に実施1001名以上メーカー
コンプライアンス研修とあわせてハラスメント研修も実施している1001名以上情報・通信
実際に起こっても実践できていない1001名以上金融
社会的にハラスメントに対する視線が厳しくなっているので301~1000名サービス
パワハラが疑われるような指導による離職者がいる。昔ながらの認識でハラスメントの適切な認識の不足と社会的な関心の増加への対応301~1000名メーカー
相互理解の不足からくるミスコミュニケーション301~1000名情報・通信
管理職の認識不足のため、たびたび部下からハラスメント事案がくる(管理職は全く自覚していない)300名以下メーカー
当事者意識が希薄300名以下メーカー
とにかく社員の意識が低い300名以下マスコミ・コンサル

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HRプロとは

【調査概要】

アンケート名称:【HR総研】人材育成(テーマ別研修)に関するアンケート調査
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2019年9月4日~9月11日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:上場及び未上場企業の人事責任者・人材育成ご担当者
有効回答:193件

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