2026年4月から「子ども・子育て支援金制度」がスタートした。「独身税」などと揶揄(やゆ)されることもある本制度の開始により、従業員の社会保険負担はこれまで以上に重くなる。賃金上昇が物価上昇に追い付かない中でのさらなる負担増に、今ひとつ職場に活気が感じられないなどのこともあるだろう。組織を統括するリーダーとしては、このような外部環境の変化をどのように捉え、どのようにメンバーに語るべきか。職場の風土づくりの視点で考察してみよう。
批判の多い「子ども・子育て支援金制度」
「子ども・子育て支援金制度」とは、子ども・子育てに関する各種支援施策に充当する資金の一部を “支援金” という名称で徴収する制度である。支援金の拠出を求められるのは、公的な医療保険に加入するすべての被保険者。企業勤務者の場合には健康保険料に支援金が上乗せされ、2026年5月に支給される給与から天引きが始まる。なお、健康保険料と同様に、半額は企業側が負担する仕組みだ。実は、企業にはこれまで数十年にわたり、子ども関連費用の一部を負担してきた歴史がある。1970年代前半から「児童手当拠出金」として、また2015年度からは「子ども・子育て拠出金」として、児童手当などに充当する資金の一部を拠出してきている。
ところが、2026年度からは従前の「子ども・子育て拠出金」に加えて「子ども・子育て支援金」も同時に負担を求められるのだから、企業経営者としても看過しがたい新制度といえよう。
本制度に対する批判は決して少なくない。若年者や子どもがいない層からは「制度の恩恵を受けられないのに、支援金の支払いを強制されるのはおかしい」、「まるで独身税だ」などの声を聞くことも多い。
一方、子育て世代からは「自分に支援する資金を自分で払わされるのだから意味がない」との批判も出ているようだ。さらに、高齢層の場合には「支援金が年金から天引きされ、年金の手取りが減って生活に影響を及ぼす」などの意見もある。
物価高騰が著しい中でさらに負担が増すのだから、愚痴のひとつやふたつを言いたくなるのが人間である。企業経営者や組織を統括するリーダーが、従業員と一緒に政策への不満・政府への不信を言い立てることもあるだろう。このような状況では、さまざまな背景を持つ従業員で構成される職場が気持ちよく働ける雰囲気で満たされることは、容易ではないかもしれない。
支援金制度で「企業の持続的発展」も期待可能に
多くの企業は持続的な成長・発展を目指している。企業が持続的に成長・発展を遂げるには、今後長期間にわたって従業員を採用し続けられ、自社商品やサービスを購入する市場が一定規模で存在し続けなければならない。そのためには、「将来にわたる労働力・消費者層の維持」が不可欠になる。従業員が十分に採用できなければ企業運営は成り立たず、十分な消費者が存在しなければ企業が利益を上げ続けられないからである。
しかしながら、「将来にわたる労働力・消費者層の維持」という重大な社会課題は、企業努力だけでクリアできるものではない。少子高齢化が著しい現状ではなおさらだ。
実は、この課題解決にも大きく貢献するのが、今般開始された子ども・子育て支援金制度である。つまり、本制度は企業の持続的な成長・発展を助けるための制度という側面も持ち合わせているわけである。
“ネガティブ”な発言が“ネガティブ”な環境をつくる
もしも、経営者やリーダーが「国のせいでウチの経営状況は厳しくなる一方だ」、「一体、政府は何を考えているんだ」などと職場で愚痴ってばかりいたら、そのような経営者・リーダーが統括する組織はどのような変化を見せるだろう。決して、明るく活力みなぎる雰囲気にはならないのではないか。リーダーのネガティブな発言は、メンバーの思考・行動様式にマイナスの影響を及ぼしがちである。かりに、リーダーの発言が正論であったとしても、ネガティブな発言ばかりが繰り返されていればメンバーもネガティブな思考に陥りやすくなる。
ネガティブ感情を強く持つ人材が増加すれば、必然的に職場の空気は澱(よど)み始める。澱んだ雰囲気がネガティブ感情に拍車をかけるなどの事態にもなりかねない。
一見、マイナスと思われる事柄にも、多くのケースで “プラスの側面” が存在する。その“プラスの側面” にも着眼、言及できることは、組織づくりの面で重要である。したがって、「今後の企業活動にとっても重要だが、企業が十分な解決能力を持ち得ない課題」に取り組む政府の立場には一定の理解を示しつつ、自分たちは自分たちの役割を全うすべきことをメンバーに語るという姿勢も必要だろう。
“前向き”な語り掛けは職場の活性剤
もちろん、子ども・子育て支援金制度の政策効果は不透明であり、また、企業経営や従業員の家計に一定の負担を強いることも間違いない。ましてや、本制度は開始当初の3年間は年々、支援金の負担割合が増加するように設計されている。このような状況を鑑みれば、支援金を拠出する立場としては納得しきれない思いがあるのも当然だ。それでも、「国には長期的な視野に立ち、取らざるを得ない政策があるかもしれない。国の役割は国にまかせ、私たちは私たちのすべきことを簡単ではないがしっかりとやっていこう!」などと、“前向き” な語り掛けがリーダーから行われる職場であれば、メンバーも「よし、頑張るか」などと “前向き” な意識転換ができ、組織の活性度も改善できるのではないか。
わが国の労働・社会保険関係の法令は、毎年のように改正が実施される。納得しがたい改正が行われることもあるかもしれない。しかしながら、リーダーがそれらをどう受け止め、どう語るか次第で、組織風土は沈滞することもあれば活性度が向上することもあるものだ。これを機に、メンバーへの自身の言動を振り返ってみてはいかがだろうか。


