リーダーが職場で指示を出した際、職場のメンバーがその指示に対して不服そうな表情を浮かべることがある。「納得できない」との明確な意思表示が行われるケースさえあるようだ。そのような現象はなぜ発生し、リーダーはどう対応すればよいのか。今回は不服そうな態度を示す部下の指導方法について考察してみよう。
業務標準化に抵抗する部下
業務上・経営上の必要性から、上司が部下に指示を与えた。ところが、部下はその指示に快い反応を見せない。このような場面に遭遇し、困惑した経験はないだろうか。具体例で考えてみよう。数年前に創業したA社は、順調に業務規模が拡大していた。一方で社内ルールの整備が追いつかず、属人的な業務運営が常態化している。
たとえば、営業部門の見積業務では定型書式こそ存在するものの、見積書の作成・発行の詳細は各営業担当者に一任されていた。そのため、曖昧な見積条件、過剰な値引き、見積内容の事後承認などが散見され、大きなトラブルが懸念されている。そこで、営業部門のリーダーは見積業務の標準化に着手することにした。
ところが、各担当者は必ずしも業務標準化に色よい反応を見せない。「見積もり方法を変更すると現場が混乱するので、やめたほうがよくありませんか」などと、異議を唱える者が出てきたのである。
理を尽くして説明するだけでは相手は動かない
このようなとき、リーダーはどのような対応を取ればよいだろうか。「いいから、私の指示に従って進めなさい!」などと、なかば強引に標準化を開始しようとするケースもあるかもしれない。そうすれば、部下も従わざるを得ないだろう。しかしながら、部下の意に反して強引に進めた場合、相手の心中には納得できない感情が醸成される。その結果、部下が業務改善に前向きに動くことは期待しづらく、標準化に非協力的な態度を取り続けることもあるものだ。
もちろん、見積業務の標準化の必要性を理論的に説明するリーダーも多いだろう。ところが、これまで自分なりのやり方で業務を回してきた担当者は、リーダーの理路整然とした説明に対しても「私のこれまでの努力が否定された」、「今からやり方を変えるのは面倒だ」、「通常業務で忙しくそこまで手が回らない」などの思いを抱きやすい。その結果、業務標準化に納得を得られるとは限らないのである。
しかしながら、“課題解決に繋がる代替案”を示さないまま単に反対する行為は、意思決定の不必要な遅延を招くだけだ。懸念していたトラブルも顕在化しかねない。果たして、リーダーはどのような対応が取り得るだろうか。
部下に“考えさせる問い掛け”が視点を引き上げる
このようなときに有効なのが、“部下に考えさせる”という手法だ。具体的には、こちらの指示に異議を唱える部下に対し、「では、どうしたらよいと思う?」と部下自身に意見を求めるのである。曖昧な見積条件、過剰な値引き、見積内容の事後承認などが散見される状況を踏まえ、トラブル回避のためにどうすればよいかを部下自身に考えさせるわけだ。この問い掛けのポイントは、部下に“答える責任”を持たせる点にある。「では、どうしたらよいと思う?」と問い掛けられた部下は、必然的に今までよりも“高い視点”で考察し判断することになる。「見積もり方法を変更すると現場が混乱するので、やめたほうがよくありませんか」と異議を唱えていた“部下視点”から、「自分が上司であればどのような意思決定を下すべきか」という“リーダー視点”で考えざるを得なくなるのである。
その結果、「まあ、見積条件は揃えたほうがよいかもしれませんね」、「値引きルールは必要でしょうね」など、見積業務を見直す意見を自ら提案するケースが多いものだ。
ヒトは他者から指示された事柄よりも、自身で意思決定した事柄に前向きな取り組み姿勢を見せる特徴がある。自分の意思で「見積条件を揃えるべき」、「値引きルールを策定すべき」と決定した部下は、その後の取り組みに前向き・積極的な姿勢を見せることが期待できるわけである。
部下のこのような態度の変化は、自身の考えや判断を一歩引いて見直したために起こる現象である。このように思考するスキルをメタ認知(メタ認知能力)と呼ぶ。
部下の“メタ認知能力”を向上して働きやすい職場に
「では、どうしたらよいと思う?」という問い掛けが力を発揮する核心は、自身の思考を客観視するメタ認知能力を部下に醸成できる点にある。部下が不同意の意思表示を示すときには、「現在の自分に不都合である」などの理由で異議を唱える“代替案なき反対行為”に及んでいるケースが少なくない。しかしながら、「では、どうしたらよいと思う?」と問われ、部下が一歩引いて客観的に考える契機を作ることで、“代替案なき反対行為”に及んでいる自分自身に気づかせることが可能になる。部下のモノの見方が“部下視点”から“リーダー視点”に引き上げられ、自ら全体最適な意思決定を下せるようになるのである。
また、部下のメタ認知能力の獲得は、その後の意思決定にも反映される。企業や職場を俯瞰した全体最適の思考・行動様式を身に付けることができるわけだ。メタ認知能力の高いメンバーが増加すれば、職場内での“代替案なき反対行為”などの後ろ向きな行動は削減される。その結果、誰もが気持ちよく働ける職場風土の醸成にも大きく貢献するのである。
部下への問い掛けは、単に答えを引き出すために行うものではない。視点を引き上げるために使う育成手法でもある。部下がビジネスパーソンの必須スキルとしてメタ認知能力を身に付けられるよう、「問い掛けの教育効果」を大いに活用することが肝要である。


