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シナリオ・プランニングで描く未来

2014/03/07

未来の変化を見逃した有名な事例がある。アップルコンピュータが初めてiPhoneを発表した際、マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOはアップルの発表の感想をTV番組で聞かれ、「キーボードがついていない、500ドルもする携帯電話など売れるわけがない」とインタビューで答えたことがある。

 これは、You Tubeで100万回以上ダウンロードされ、今も語り継がれている。その後スマートフォンがバルマーCEOの予測を裏切って世界的なブームが始まり、マイクロソフトも3年後に携帯電話市場に乗り出すことになる。この間に失ったビジネスチャンスは今も取り戻せていない。
 経営コンサルタントの大前研一氏は、「産業突然死」という表現で、興盛であった企業や産業が突然凋落することを警鐘している。任天堂が携帯・スマホゲームに圧され、日本のTVメーカーは多くの企業が赤字決算に陥り、Dellコンピュータのような世界的企業でも突然コンピュータが売れなくなっている事実がある。これらは、近未来の予測を誤ってしまった事例と言えるだろう。
 ゲイリー・ハメル(ロンドンビジネススクール教授)は、著書の中で「問題は、未来が現在と違うことだ。もし、これまでと違う考え方ができなければ、必ず未来に驚かされるだろう。」と述べている。あらゆる産業が、将来に対して不確実というリスクを抱える現代において、未来についてますます予測が重要な時代になっている。一方、精度の高い予測が困難な時代でもある。

 それでは、我々は未来を予測することは無駄なのだろうか?
 このような時代における未来を想定する考え方として、「シナリオ・プランニング」という手法が今、注目されている。「シナリオ・プランニング」とは、起こりうるだろう複数の未来を考え、適切な意思決定をする戦略策定手法である。
 この考え方は、第2次世界大戦後の米空軍の戦略的対応プログラムが始まりで、対戦相手の戦略を予測し、どのような攻め方をされても最小限のダメージに抑え、優位に戦える戦略を立てる手法であった。その後1960年代に、ハドソン研究所やスタンフォード・リサーチ・インスティチュートなどが未来予測の手法として展開し、政府や企業はこの手法と思考法を使い、経済発展をさせたり、売上規模拡大などに活用したりしたと言われている。その後さらに、ロイヤル・ダッチ・シェルがさまざまな戦略検討に活用することで、将来を予測する有効な手法として発展させてきた。
 「シナリオプラニング」は単なる「予測」とは異なる。一般的に予測とは、業界や事業の構造が現状の延長線上にあるということを前提として、将来を決める。
 一方、「シナリオプラニング」は、「現在の延長線ではない変化が起こると仮定した複数のシナリオ」を想定し、未来への対応策を考察する「思考シミュレーション」なのである。例えば企業であれば、不確実な未来であることは当然と考え、環境変化に関する複数のシナリオを想定し、それらの変化に耐え得る戦略を検討すること、さらにその思考方法を組織に埋め込むことにより、想定外の将来の変化にも柔軟に対応できるようになる。前述の携帯電話業界、TV業界やパソコン業界のような変化の激しい業界では、なおさら予測が難しいことは当然だ。シナリオ・プランニングは、単に複数の未来を予測しようとしているのではなく、このような思考法を組織に埋めこみ、どのような状況にあっても対応できることを重要視していると思う。

 この手法は人生設計でも活用できる。自分の将来設計において、影響を及ぼすだろう要素(例えば、親の面倒を見る、海外転勤する等)を軸に、これからも環境変化をマクロ的、ミクロ的に考え、マッピングする方法である。そこから、自分の将来に影響を及ぼす環境変化が見えてくるわけだが、複数の未来が想定でき、それぞれの未来に向けたシナリオが描ける。
 今、日本は経済環境が好転する兆しがある。医療技術や科学技術も進化して、ますます寿命も伸び、生活も便利になる。一方、自然環境は破壊され、災害リスクも予測される。このようなマクロ環境の変化の中、家族の成長、資産状況、所属する組織、健康や趣味など、ミクロ環境の変化を予測し、どのような複数の未来が想定できるのか考えてみる。このようなシナリオ・プランニングをしてみてはどうだろうか!

HR総合調査研究所 客員研究員 下山博志
(株式会社人財ラボ 代表取締役社長/ASTDグローバルネットワーク・ジャパン副会長)

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