テクノロジーの急速な発展やグローバル化の加速によって現代のビジネス環境は急激に変化している。またインターネット上には情報が溢れかえっている。そうした情報化社会において、価値のある情報を適切に捉えて活用する「リテラシー」がビジネスパーソンにとって必要不可欠と言える。企業にとってもIT分野におけるリテラシーを持つ人材の育成は喫緊の課題であろう。本稿では「リテラシー」の意味や種類だけでなく、ITリテラシーが低いことのリスクや高いことによるメリット、また従業員のITリテラシーを高めるための方法を解説していく。
「リテラシー」とは? 意味や種類とITリテラシーの高め方を解説

「リテラシー」とは?

「リテラシー(literacy)」とは、「特定の分野における情報を適切に処理・活用できる能力」のことである。本来は「読み書きし、情報を理解する能力」のことであるが、近年のビジネスシーンでは「読み書き」の意味ではなく、情報収集能力やその活用スキルを意味して用いることが多い。

●「リテラシーが低い/高い」の意味と使い方

「リテラシーが低い/高い」は、特定の分野における知識や情報収集能力、情報を活用するスキルが低い/高いことを言う。つまりリテラシーが低い人は、テレビやインターネット、新聞などのメディアの情報を適切に取捨選択できず、正しく理解することができない。一方でリテラシーが高い人はありふれた情報から正しい情報を選択し、それを理解して活かすことができる。

●「コンピテンシー」や「モラル」との違い

「コンピテンシー」は、過去の成功に基づいた行動特性や姿勢などを表す言葉である。「リテラシー」がこれから得る情報の活用能力を指すのに対し、「コンピテンシー」は未来の出来事は含めず、過去の経験のみを参考とする。

また「モラル」は道徳や倫理を意味し、社会的規範を守る姿勢や態度を指す。そのため、例えば「情報リテラシー」は「情報を適切に活用する能力」だが、「情報モラル」は「情報を正しく活用しようする態度」を表していることになる。

「リテラシー」の言葉の種類

「リテラシー」は「〇〇リテラシー」という形で、特定の分野を表すケースがほとんどである。ビジネスシーンで使う主な種類を紹介していこう。

●ITリテラシー

「ITリテラシー」は、情報技術(IT)に関する知識やスキル、理解を指す。具体的には、コンピューター、インターネット、ソフトウェア、デジタルデバイスなど、さまざまなITツールやテクノロジーに関する知識や理解である。テクノロジーが進化し続ける現代では、重要なスキルと言えよう。「デジタルリテラシー」とも言う。

またITリテラシーは、「情報リテラシー」や「ネットリテラシー」、「コンピュータリテラシー」と分類することもできる。

・情報リテラシー
「情報リテラシー」はありふれた情報の中から目的に応じた情報を収集して、分析・活用する能力だ。他者から聞いた話や紙媒体のメディアなどアナログ情報に対しても使われるが、近年はほとんどの情報がインターネット上を通じて発信・受信されるため、「ITリテラシー」のひとつとして使うことが多い。

・ネットリテラシー
「ネットリテラシー」は、インターネットを上手に活用するスキルのことだ。オンラインで信頼できる情報を見極めたり、メールやSNSを使ってコミュニケーションを取ったりする能力が含まれる。また、オンライン上でのメディアの使用に関する著作権や倫理規定を理解していることもネットリテラシーと言える。

・コンピュータリテラシー
「コンピュータリテラシー」は、パソコンやスマートフォンといったデジタルツールを効果的に活用できる能力や知識を指す。基本的な操作だけでなく、ソフトウェアの使用方法やインターネットの利用、情報の検索、データの保護とセキュリティなどに関するスキルや知識なども含まれる。

●メディアリテラシー

「メディアリテラシー」は、テレビやラジオ、新聞、雑誌、インターネットなど、さまざまなメディア上の情報を適切に取捨選択して活用できる能力である。近年ではインターネットやソーシャルメディアにおける情報収集や活用を指すケースが多いが、新聞や雑誌といった従来型のメディアの特性も理解したうえで、発信元の意図や信憑性を判断できる能力も含める。

●ビジネスリテラシー

「ビジネスリテラシー」は、ビジネスシーンで求められる知識やスキル、教養のことだ。ビジネスの基本的な原理原則、経済の仕組み、市場動向、組織の構造や機能に関する知識の他、コミュニケーションスキル、財務管理やマーケティングのスキル、リーダーシップといった能力が挙げられる。ビジネスリテラシーは効率的な業務遂行やキャリアの発展において不可欠と言える。

●金融リテラシー

「金融リテラシー」は、財務管理や資産形成、投資、保険など、さまざまな金融領域に関する知識や活用能力のことを言う。予算を立てて支出を管理したり、投資や貯蓄によって資産を増やしたり、適切な保険を選択してリスクを軽減したりといった経済的安定のために重要な要素だ。

●ヘルスリテラシー

「ヘルスリテラシー」は、健康や医学に関する知識や情報を理解し、適切に収集・活用できる能力を指す。病気の予防や管理が適切にできたり、幅広い医療サービスを利用したり、健康的な生活習慣を確立できたりする人は、ヘルスリテラシーが高いと言える。

●文化リテラシー

「文化リテラシー」は、国や地域によって異なる文化や価値観、慣習を理解し、それらに適切に対応する能力や知識のことだ。国際社会での交流やコミュニケーションを円滑に行うために必要なスキルと言える。グローバル化が進む近年では、重要度が増している。

●セキュリティリテラシー

「セキュリティリテラシー」は、情報セキュリティに関する知識や技術、意識のことを言う。個人や組織の情報システムやデータを適切に管理し、機密性を確保するために欠かせない。パソコンやスマートフォンなどのIT機器で保管するデータだけでなく、取引先企業の情報や顧客情報などの機密書類の保護も含まれる。

ITリテラシーが低いことのリスク

ITリテラシーが低いことでさまざまなリスクが生じる。個人や組織における主な4つのリスクを紹介しよう。

●情報の正確性の判断ができない

ITリテラシーが低いと、情報の信憑性や正確性を判断することができない。インターネット上には膨大な情報があるが、その中には偽の情報や誤った情報も含まれている。正確性を判断できなければ間違った情報を鵜呑みにし、誤った判断や行動を取るリスクが増加してしまう。

●生産性が低下する

生産性向上や業務効率化にはITツールやソフトウェアの活用が有効ではあるが、その知識や活用方法を理解していなければ、業務改善はなかなか進まない。近年はペーパーレス化やテレワークが一般化している。ところがITリテラシーの低さがそうしたシステムを導入する弊害となっているケースも少なくない。

●情報漏えいの危険性が増加する

デジタルでの情報に関するセキュリティ意識やITリテラシーが低い場合、適切な情報管理ができていない可能性があり、機密情報や個人情報が外部に漏洩するリスクが高まる。操作ミスによるデータ誤送信、不正アクセスやフィッシング詐欺などにより、組織や個人が重大な損失を被るリスクが生じる。

●企業のイメージダウンにつながるリスクがある

組織のITリテラシーが低い場合、企業のイメージを大きく落とす恐れがある。セキュリティ違反や情報漏えいが発生した場合、顧客やパートナー企業だけでなく世間からの信頼を失い、長期的な損失につながる可能性がある。

ITリテラシーが高いことのメリット

ITリテラシーはテクノロジーの進化が著しい現代では不可欠なスキルと言える。ではITリテラシーが高いことでどんなメリットがあるのか。以下で詳しく解説していく。

●情報を正しく判断できる

インターネットが普及した現代ではオンライン上に情報が溢れており、真偽の分からない情報に惑わされてしまう。しかし、ITリテラシーが高ければ、情報を正しく判断し、信頼できる情報源を見極めることができる。そのため適切な対応・行動が取れる。

●業務効率・生産性の向上が期待できる

ITリテラシーが高いと、ITツールやソフトウェアを活用し、業務プロセスの効率化や生産性の向上を図れる。タスクの自動化やクラウドサービスの活用によって、作業時間の短縮や連携業務の円滑化ができるのである。

●セキュリティ強化・問題防止につながる

ITリテラシーが高く、セキュリティリスクを理解していれば、適切な対策を講じることができる。つまり不正アクセスやデータ漏洩などの問題発生を防止し、企業や個人の機密情報を安全に保管することが可能だ。また、定期的なセキュリティ対策の実施や、最新の脅威に対する情報収集にもつながる。

●社会の変化に適用しやすい

テクノロジーの急速な発達により社会は目まぐるしく変化している。ITリテラシーが高い組織や個人は、新たなデジタル技術やITトレンドを迅速にキャッチし、環境の変化に適応することができる。環境変化に柔軟に対応することは、競争力を維持し、持続的な成長につながる。

ITリテラシーを高める方法

ITリテラシーを高めるには、個人で学習するだけでなく組織として環境整備に取り組んでいく必要もある。ここでは企業が実施できるITリテラシーを高める方法を紹介していく。

●現状のリテラシーレベルの把握

ITリテラシーを向上させるには、まず現状のリテラシーレベルを把握することが重要だ。組織として、また従業員がどの程度のITスキルや見識を持っているのかを調べ、その結果を基に必要な教育プログラムや取り組みを計画していくべきだ。

●研修・教育の実施

従業員に研修や教育プログラムを受講してもらうのも、ITリテラシーを高めるうえで有効だ。IT機器の基本操作からネット利用のマナー、ネットワークセキュリティやデータ解析などの高度な専門知識など従業員のレベルに応じたカリキュラムを準備すると良いだろう。

●IT関連の資格取得支援の実施

ITに関する資格は多く、それらの取得を目指す過程で、専門知識やノウハウを習得することができる。企業が受験費用の補助や報奨金を支給するなど、従業員の資格取得を支援することで、学習意欲を高め継続的な学習を促進できるだろう。IT活用人材を育成するため、積極的に資格取得を推奨していきたい。

●IT技術への接触機会の創出

実践的な経験がなによりITリテラシーを養うのは間違いない。従来は手作業で行っていた業務をデジタル化していくほか、ワークショップなどで実際のITツールに触れる機会を従業員に提供するのも有効な手段となる。

まとめ

単なる知識やスキルを有していることだけでなく、情報を正しく理解し、効果的に活用できる能力も含まれるのが「リテラシー」だ。組織としてのリテラシーの向上が業務の効率化やイノベーションにつながり、企業の競争力を高めるカギとなる。とりわけデジタル化が進む現代では「ITリテラシー」が求められ、企業にとってIT活用人材の確保が大きな課題となっている。人事担当者としては、IT人材の教育や従業員のITリテラシー向上に向けた取り組みを積極的に進めていきたい。

よくある質問

●「リテラシーが低い人」とはどういう人?

「リテラシーが低い人」は、特定の分野における知識や情報収集能力、情報を活用するスキルが低い人のことを指す。リテラシーが低い人は、テレビやインターネット、新聞などのメディアの情報を適切に取捨選択できず、正しく理解することができない。

●「リテラシーが高い人」とはどういう人?

「リテラシーが高い人」は、特定の分野における知識やスキルを有し、適切に情報を収集して、それを活用することができる人である。リテラシーが高い人はありふれた情報から正しい情報を選択し、それを理解して効果的に活かすことができる。

●「ITリテラシー」が高いことのメリットは?

ITリテラシーが高いことで、オンライン上にありふれた情報の真偽を正しく判断でき、またITツールやソフトウェアを活用し、業務プロセスの効率化や生産性の向上を図ることができる。さらにセキュリティ強化や問題発生のリスクを防止し、急速な社会の変化に適用しやすい。
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