「デジタル人材」とは最新のデジタル技術を駆使して企業や従業員を成長に導く存在を指す。デジタル技術によって既存のビジネスモデルを変革し、その技術を人々に広める「DX」が注目されるにつれ重要視されるようになった背景がある。ただ、デジタル人材の需要が増している中で、問題になっているのが「デジタル人材不足」だ。今後どのようにしてデジタル人材の採用や人材育成をしていくべきなのかを考える時期に来ているといえる。そこで本記事では、「デジタル人材」の採用や育成におけるポイント、企業事例などを解説する。
「デジタル人材」の定義や企業事例とは? 採用や育成のポイントも解説

「デジタル人材」の背景やIT人材の違いとは

「デジタル人材」とはどのような人物を指すかについては、はっきりとした定義はまだない。ただ、“最新のデジタル技術を駆使して、企業や従業員に価値を提供できる人材”を指す言葉として使われることが多い。デジタル人材に求められるスキルには以下のようなものがある。

・技術的な能力
最新のデジタル技術を活用し、最新のAI技術、クラウド、ビッグデータなどを使いこなすことができる能力。

・ビジネス能力・対人能力
デジタル人材に求められるのは技術だけではない。事業全体を把握し改善点や新しい価値を提供するために、企業内外の問題点を見極める能力が必要となる。

●「デジタル人材」とIT人材の違い

デジタル人材と混同されがちなのが「IT人材」だ。これら二つの間にどのような違いがあるのかも把握しておく必要がある。

デジタル人材とIT人材は、どちらも最新のIT技術を駆使して企業に貢献する点は変わらない。ただ、「デジタル人材」にはその技術を使い、企業に新しい価値を提供することが求められている。そのため、システムなどIT関連部門だけでなく、人事・企画・経営などさまざまな分野での活躍が期待されている。

対して、IT人材に求められているのはIT技術を活用し、情報システムを導入し運用することだ。そのため、IT人材にはシステム部門などでの活躍が期待されている。中小企業庁でもIT人材について“ITの活用や情報システムの導入を企画、推進、運用する人材のことをいう”と定義している。

●「デジタル人材」に関する日本の課題

昨今注目されるデジタル人材だが、日本ではまだ人材不足の感が否めない。株式会社NTTデータ経営研究所の「デジタル人材定着に向けたアンケート」によると、20代~40代の社会人の中でデジタル人材と呼ばれる人材は10%程度という調査結果が出ている。

また、デジタル人材の課題は人材不足だけではない。多くの研究やレポートでは、デジタル人材の転職率や流動性の高さも指摘されている。採用しても定着率が低いというのが問題点として挙げられているのだ。

●「デジタル人材」が必要な理由

デジタル人材が必要なのはDX推進によるところが大きい。DXとは、経済産業省の「DX 推進ガイドライン」によると、“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること”と定義されている。

経済産業省が「DX推進ガイドライン」を作成し、現在、国を挙げてDXを推進する流れが加速してきている。企業側としてもDX推進は課題のため、それに対応できる人材を求めるようになっているのだ。また、AIやIoTの活用も進む中、それを推進する人材のニーズも高まっている。

ただ、高い技術を持つITリテラシー人材は不足しているのが現状だ。デジタル人材の採用、そして自社でどのように育成していくかを考えていく必要がある。

「デジタル人材」を採用するうえでおさえておきたいポイント

デジタル人材を採用する上で押さえておきたい以下の5つのポイントを解説する。

(1)ワークライフバランスがとれる環境の整備

デジタル人材の採用を検討するならば、仕事と生活のバランスが取れた職場を準備すると良いだろう。デジタル人材は熱心に新しい技術や知識を習得したいタイプの人物が多く、余暇を学びの時間に充てようと考えるパターンもあるためだ。仕事量が多すぎる職場だと、知識の習得の時間が取れず、退職・転職を検討されてしまう恐れがある。

(2)処遇の見直し

転職を考えるデジタル人材は「一緒に働く従業員」や「評価」に不満を持つことが多い。これらを解消するためにも、デジタル人材にも認められる優秀な管理者の配置が重要になる。また、昇進のチャンスを与え、正しく評価する仕組みの構築も必要となってくる。

(3)スキルアップに向けた仕事や機会の提供

デジタル人材の転職理由の一つに「スキルアップの機会を求めて」というものがある。能力が高い人材が自社に留まりつつ成長できるように、スキルアップに繋がる仕事や機会の提供が企業には求められる。

(4)多様な採用手法をとる

デジタル人材は各業界でニーズが高く、非常に採用が難しい。何もせずに待っていても採用に繋げることは困難と言ってもよい。そこで、「従業員からの紹介」、「SNS活用」、「求職者への積極的な接触」など、多様な採用手段を検討する必要があるといえる。

(5)綿密な採用戦略の立案

前述のとおり、デジタル人材の採用は困難を極める。また、流動性も高いため、採用してもすぐに転職に至ることも珍しくない。そのため、デジタル人材の採用・定着には社を挙げて取り組む必要がある。採用戦略の策定はもちろん、育成の仕組みづくりも進めることが重要だ。

「デジタル人材」はどのように育成していくべきか

デジタル人材はどのようにして育成していくべきなのか、以下の4つのポイントについて解説していく。

(1)スキルアップできそうな業務を任せる

デジタル人材は新しいことを学ぼうという意欲の高い者が多い。そのため、スキルアップに繋がりそうな業務を早めに任せるのがおすすめである。また、業務を任せる際は権限も大きくすると良い。責任を持たせることが意欲の向上に繋がるためだ。

(2)研修の実施

学ぶ意欲の強いデジタル人材には研修を実施し、モチベーションの維持を促していく。既にデジタル人材が活躍している企業では「社内研修」、さらにハイレベルなことを学んでもらいたいのならば「社外研修」というように、各人材に応じた研修を実施すると良いだろう。

(3)資格取得の支援

デジタル人材には最新のスキルを学んでもらい、資格取得の支援も行うようにする。なお、デジタル人材向きの資格には以下のようなものがある。

・データスペシャリスト
・ITコーディネーター
・統計士
・基本情報技術者試験
・データ解析士 など

(4)自律学習に向けた環境の整備

学ぶ意欲が高くても、学習する時間がなければスキルアップは難しいはずだ。そこで、仕事だけでなく、生活も充実するワークライフバランスの取れた職場環境の整備が重要になってくる。また、学習する時間の確保はもちろん、研修資料等の提供など、デジタル人材が日々学んでいけるような環境を提供することも必要である。

「デジタル人材」育成の企業事例

ここで、デジタル人材育成を行う企業としてダイキン工業株式会社の例を紹介する。

ダイキン工業では2017年に「ダイキン情報技術大学」を設立し、デジタル人材の社内育成を進めている。テーマ実行力・分析力・データエンジニアリング力という3つの力を持つ人材の育成を目的に設立されたダイキン情報技術大学では、大阪大学の講義受講や現場のデータを活用した演習なども行われている。

ダイキン工業ではこれらの研修を「短期間ですぐに結果が出るものではない」と認識し、将来に対する投資として行っている。将来的にはデジタル人材の力を現場の課題解決に活かすことが期待される。
「デジタル人材」とは、単にIT技術を持つだけの人物ではない。最新のデジタル技術を活用して、企業や従業員を成長に導く存在のことである。ただ、デジタル人材と呼べる者は非常に少なく、どの企業でも採用が困難であるのが現状だ。もし、デジタル人材を採用・育成したいと考えるのならば、従業員からの紹介やSNSの活用など、採用戦略を綿密に立てる必要がある。また、例えばワークライフバランスの取れた職場を用意し、新しい知識や技術を習得する意欲の高いデジタル人材が学ぶ時間を取れるように配慮することも重要だ。そして、在籍するデジタル人材には、スキルアップに繋げられるように、責任があり権限も大きい仕事を与えることや資格取得支援、社内外での研修を実施することも必要になってくる。「デジタル人材」の需要は今後ますます高まることが予想される。今のうちに採用や育成について社内で考えておくことが重要である。
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