「ノウハウ」は物事を行うための方法や手順、大切なポイントなどを指す。仕事を進める上でも欠かせないものと言える。このノウハウを文字や映像に落とし込し、蓄積・共有することによって、社員の能力アップや組織としての生産性向上につなげられる。まさに、企業競争力の源泉になると言っても良いだけに、企業として活用しない手はない。そこで、今回はビジネスシーンでの「ノウハウ」の意味を紐解くとともに、ナレッジやスキルなどの用語とどう違うのかを解説していきたい。
組織の生産性向上や共有につながる「ノウハウ」とは? ビジネスにおける意味とナレッジやスキルとの違いなどを簡単に解説

「ノウハウ」の意味やナレッジとの違い

まずは、「ノウハウ」とはどのような意味を持つのか、ナレッジとどう違うのかを説明しよう。「ノウハウ」とは、物事を行う方法や手順に関する知識やコツなどの意味を有する。英語の「know‐how」に由来する言葉だ。すなわち、「知る」という意味を持つknowと手順・方法を意味するhowの組み合わせといえる。

実際には、専門的な知識や技術、秘訣といったニュアンスで使われることが多い。例えば、業務マニュアルや製品を生産する際に使用する技術・手順、設計図などの技術的知識・情報、営業職向けのチェックリスト、販売マニュアル、ベテラン社員が培ったベストプラクティスなどの営業的な知識・情報を言う。何か新たな領域にチャレンジするにしても、「ノウハウ」の有無は成功できるかどうかに大きな影響をもたらすだけに、個人や企業に限らずぜひ蓄積しておきたいものだ。

●ビジネスにおける「ノウハウ」について

ビジネスシーンでは、「ノウハウ」が以下の3つのいずれかで用いられることが多い。

・実務を通じて習得した技術・知識
ビジネスにおける「ノウハウ」は、企業が事業活動を推進するために役立つ専門的な技術や知識を意味する。いずれも、従業員が日々の実務を通じて得られたものである。例えば、自動車やコンピューターなどの開発や製造を進める上ではさまざまな技術や知識が培われる。いずれも、現場で試行錯誤を繰り返したゆえに得た価値のあるものだ。それが、ひいては自社の優位性の原動力となってくる。

・知的財産
ビジネスでの「ノウハウ」は知的財産や資産など、企業が事業活動上で得られた財産として使われることもある。実際、知的財産基本法第二条では「知的財産」を“発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう”と定義付けている。

例えば、新製品の開発では多くの技術的な知識が得られ、それらが他社に対する優位性になりえる。ノウハウが「知的財産」と位置づけられるのもそのためである。

・営業秘密
ビジネスにおける「ノウハウ」は、営業秘密といった一面もある。営業秘密とは、企業が行った研究や開発、営業などの活動過程で創出された情報や発明を言う。具体的には、新規事業計画書や顧客名簿、価格情報などの営業情報、設計図や製造方法・ノウハウなどの技術情報が挙げられる。いずれも、知的財産として守られるべきノウハウのなかで、事業者が社外秘として管理している機密情報を指す。

法律上では、不正競争防止法によって守られている。営業秘密が成り立つには秘密管理性と有用性、非公知性という3つの要件を満たす必要がある。それぞれについて説明すると、秘密管理性とは営業秘密を保有している企業が秘密を管理しようとする意思が従業員等に対して明確に示されている必要がある。次に、有用性とはその情報自体が客観的に事業活動に利用されることによって、何らかの有益性、例えば経費の節約や経営効率の改善をもたらすものであること。さらに、非公知性とは営業秘密を保有している企業では通常、入手するのが難しいことを言う。ちなみに、特許出願をしていないノウハウは特許法では保護されず、競合他社に模倣される危険性がある。しかし、不正競争防止法で定められたこれら3つの要件を満たす場合は、営業秘密として認められ他社の模倣や権利侵害から守られる。

●ナレッジやスキル、ハウツー、技術との違いについて

「ノウハウ」に類する言葉にナレッジやスキル、ハウツー、技術などがある。それぞれ、どう違うのかを見ていこう。

・ナレッジとの違い
ナレッジは、英語の「knowledge」を由来に持つ和製英語だ。一般的には、インターネットや書籍、新聞、セミナーなどから得られた情報や知識・学問・常識という意味を持つ。企業などの組織においては、付加価値のある情報や知識というニュアンスになる。いずれも、図や文字で表現されているので、共有しやすいのがメリットだ。ただ、汎用性が高い分、固有の知識や技術とは言えない。

一方、「ノウハウ」は個人的な経験や体験などを通じて得られる、より専門的な知識や技術を指す。それだけに、ナレッジよりも言語化が難しく、文章として理解するよりも実際にやりながら身に付けた方が効率的と言える。

・スキルとの違い
スキルは、英語の「skill」を表現した言葉で、何かを行うための専門的な能力・技能・技量・手腕を意味する。ビジネスシーンでは、個人が特別な訓練によって得られる特殊な専門性を指すことが多い。あくまでも、個人に蓄積されるものであり、訓練も必要とあって、それを共有するのは難しいと言える。

一方、「ノウハウ」には特別な訓練は必要ない。日頃の業務のなかで習得できる物事の効率的な方法や成功するためのコツであり、文章に起こしやすいので共有も可能だ。言うなれば、スキルは個人が元々持っているもので、そこに人と共有した「ノウハウ」を加味することでスキルが一段と高まっていく。大きく捉えると、スキルは「ノウハウ」の一つの要素と位置づけられる。

・ハウツーとの違い
ハウツーは、英語の「how to」を由来にもつ言葉だ。どのようにするかという意味になる。何か物事を行う際に役立つ手法や手順、やり方と言って良いだろう。しかも、ハウツーは基礎的、実用的な方法、技術というニュアンスが強く、初心者向けに使われることが多い。その一方、「ノウハウ」はハウツーよりも専門性が高く、中級者以上を想定して用いられる。

・技術との違い
技術とは物を作る、物事を処理する際に用いられる特別な技を意味する。知的財産として扱われる技術もあるだけに、「ノウハウ」と近いニュアンスを持つ。ただし、「ノウハウ」は技術だけでなく、それに付随した知識や経験なども含まれるだけに、より高位なものとして位置づけられる。例えば、経営ノウハウと言うことがあっても、経営技術とは言わない。それは、経営に関わるさまざまな経験や知識も含めて、意図的に経営ノウハウと表現しているからである。

「ノウハウ」の共有は企業や組織に何をもたらすのか

次に、「ノウハウ」を共有することによって、企業や組織にはどのようなメリットをあるのかを整理してみたい。

●「ノウハウ」のメリットについて

ここでは、「ノウハウ」のメリットとして3点を取り上げる。

・組織の生産性向上
組織の中にはハイパフォーマ―もいれば、そうでないメンバーもいる。当然ながら、一部のハイパフォーマ―だけがどんなに頑張って成果を出したとしても限界がある。売上を大きく伸ばすには、全体のレベルを底上げしなければならない。また、限られている人しか知り得ない情報があるのも組織的には問題だ。いわゆる、情報格差が生じることになってしまう。「そんな便利なやり方があるのであれば、早くから教えてもらいたかった」と言われかねない。そうした事態を避けるためにも有効なのが、「ノウハウ」だ。組織内で「ノウハウ」を蓄積しておけば、どのように考え・行動すれば良いかを学ぶことができ、教育に掛ける手間暇も軽減させられる。また、「ノウハウ」を身に付けることで、物事を進めるためのコツが理解できるようになるので、誰もが成果を出しやすくなる。

・属人化の防止
属人化とは、担当者が業務の「ノウハウ」を抱え込んでしまっているので、他のメンバーがその業務を代替できない状態を言う。これだと、もしその担当者が休んでしまうと業務が滞ってしまう。万が一、離職されてしまうと引継ぎが不完全となり、一大事となる。たとえ、第三者が試行錯誤しながら何とかトライしたとしてもクオリティの低下は間逃れないであろう。こうしたリスクを回避するためにも、「ノウハウ」の蓄積・共有をぜひ行うようにしたい。

・企業財産
従業員それぞれの経験から培われた「ノウハウ」は、企業にとっても貴重な財産となる。なぜなら、そうした知識や技術はまだインターネットや書籍には取り上げられていない可能性もあり、その従業員独自の財産となり得るからだ。それらを組織で蓄積・共有できれば、別の場面で応用できる可能性がある。例えば、新規事業の立ち上げや既存事業のブラッシュアップなどでも役立つかもしれない。
今回は「ノウハウ」について解説した。「ノウハウ」はスキルやハウツー、ナレッジなどよりも専門的で付加価値の高い技術や知識を指す。「ノウハウ」を蓄積・共有することで、生産性の向上や属人化の防止、企業財産の活用といったメリットも享受できる。言うなれば、「ノウハウ」とは企業競争力の源泉となり得る情報や知識を意味する。そうした「ノウハウ」を蓄積・共有し、組み合わせた上でいかに有効活用するか。それは、企業の収益力や企業価値にも大きな影響を及ぼすと言って良いだろう。ぜひ、FAQ管理システムや社内wikiなどのノウハウ共有ツールを導入しながら、社内の「ノウハウ」を体系化し自社の未来を切り開いていってほしい。
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