人材育成施策として、研修を実施している企業は多いだろう。研修の目的やテーマ、対象者によって、適切な実施方法を選ぶ必要がある。その中でも、企業のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の浸透や、現場で使うスキルの向上など、企業独自のテーマの習得を目的とする場合、自社の従業員が講師を担当する「社内研修」が効果的である。本稿では、「社内研修」のメリットとデメリット、「社内研修」のテーマの決め方や進め方などを事例とともに紹介する。
人材育成に効果的な「社内研修」のテーマや内容とは? 進め方や事例、メリットを紹介

「社内研修」とは? 「社外研修」との違いや目的

「社内研修」とは、自社の従業員が社内向けに行う研修のことである。自社の事業や業務内容の周知、MVVの浸透など、企業独自のノウハウの学習に有効であり、経営者や管理職などのマネジメント層、人事部が講師となるケースが多い。対照的に、社外から専門家等を招いて行う「社外研修」と比較した特徴は以下のとおりだ。

【社内研修】
・現場で使えるスキルを学べる
・自社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を伝えることができる
・部署内・部署間の交流ができるため、社内の結束を高める機会になる

【社外研修】
・専門家から直接指導を受けることができる
・社内にないスキルやノウハウを学ぶことができる
・他社との合同研修の場合、他社の人たちとも交流ができる

●社内研修の目的

「社内研修」の主な目的は、以下の3点があげられる。

・自社の事業内容やMVVの浸透
「社内研修」の主要な目的は、新入社員や中途入社社員を中心に、自社の事業内容や方針についての理解を促すことである。企業理念やMVVの浸透・共有は、会社全体の生産性向上や離職率の低下にも結び付いており、自社の企業理念を深く理解している従業員が講師となる「社内研修」は適切な手法といえる。「社内研修」を通じ、社内の一体感が育まれるという効果も期待できる。

・現場ですぐ使えるスキルの伸長
現場で使うスキルの習得や伸長も、「社内研修」の重要な目的である。例えば、新入社員には、効率的に業務を進めるために必要なスキルやビジネスマナーの研修、中堅社員には、より専門的な知識やスキルを習得するための研修が行われる。階層や習熟度に応じて社内研修を行うことで、会社全体の業務レベルの向上につなげることができる。

・会社全体の人材育成に対する意識の向上
「社内研修」を行うことで、会社が人材育成に力を入れていることが従業員にも伝わるだろう。それによって講師側も受講側も人材育成への意識が高まり、部下の成長や自分自身のスキルアップのために、人材育成に対して積極的に取り組む姿勢が生まれる。

「社内研修」のメリットとデメリット

ここまで「社内研修」と「社外研修」の違いや、「社内研修」の目的について紹介したが、「社内研修」のメリットとデメリットとはどのようなことだろうか。それぞれ詳しく見ていこう。

●「社内研修」のメリット

・企業に特化した育成プログラムが組める
企業理念の浸透を目的とした研修、独自のスキルや仕事の進め方に関する研修など、その企業に特化した育成プログラムは、社内事情に精通した従業員が講師を担当する「社内研修」で行うのが最適である。

・部署を横断した交流機会が増える
「社内研修」を受ける受講生は同じ会社の従業員同士である。そのため、部署を横断し、多くの人たちと交流する機会が持てる。また、講師側も従業員であるため、受講者側は優れた知識やスキルを持った先輩従業員や上司と知り合うこともできる。社内のさまざまな人たちと交流することで、スキル向上や業務円滑化につなげることも可能だ。

・コストの削減
研修を外注する「社外研修」を行う場合は講師への依頼料が必要だが、「社内研修」では不要であるほか、研修を受ける従業員が外部の施設等に赴くタイプの社外研修の場合にかかる交通費や宿泊費も、社内の会議室を利用して行う「社内研修」の場合はその費用はかからない。結果的に、社内研修は社外研修と比較すると、コストを大幅に削減できる。

●「社内研修」のデメリット

・ノウハウや知識が限定される
「社内研修」で講師になるのは自社の従業員である。独自のスキルを伝えたい場合はそれでも問題ないが、それに加えて新しいスキルを教えることは難しい場合がある。今まで自社では知られていなかった幅広い知識や革新的なスキルを身に付けたいのであれば、外部の講師に依頼する社外研修の方が効果的といえる。

・講師によって正確性や教える能力に差が出る
「社内研修」で講師役を務める従業員は、教えるための専門の教育を受けていない場合も多い。そのため、講師レベルにばらつきが出る恐れがある。また、講師によっては教える内容の正確性に欠ける場合もあるため注意が必要である。

・社内の負担が大きい
多くの場合、講師役の従業員は日常業務をこなしながら講師を務めるため、負担が大きくなることも考えられる。さらに、研修資料なども社内で作成する場合は、作成担当者にも負担がかかる。

「社内研修」の進め方

実際に「社内研修」を進める際には、下記の手順で行うとスムーズである。

(1)自社の課題を分析する
(2)研修によって達成したい目標を定める
(3)研修計画を策定する
(4)運用ルールを決める
(5)講師を選定する
(6)研修実施後のフォロー体制を決める

1つずつ見ていこう。

(1)自社の課題を分析する

「社内研修」を行うためには、まず「自社が解決したいことは何か」を明確にすることが必要である。解決したいことを明確にし、それを詳しく分析することで、何を目的とした研修なのかが見えてくる。また、研修内容を決めるためにも課題の分析は重要である。

(2)研修によって達成したい目標を定める

課題の分析を終えたら、「社内研修」で達成したい目標を定める。「今回の研修をどのような目的で行うか」、「目標をどこに定めるか」を明確にすることで、効果的な研修計画も立てやすくなる。

(3)研修計画の策定

「社内研修」で達成したい目標を決定したら、研修計画を策定する。具体的には以下の項目について決めておきたい。

研修のテーマ:ビジネスマナー、営業ツールの使い方、ITスキル、法改正の内容など
受講対象者:新入社員、入社5~6年目の社員、主任職、管理職など
実施する時期:入社直後、年度初め、毎年9月など
研修を行う場所:本社会議室、オンラインなど
プログラム:研修日程、集合時間・解散時間など
コンテンツ:動画・書籍、自社で作成したプリントなど

(4)運用ルールを決める

「社内研修」の実施直前、または始まった後に慌てることがないよう、運用ルールを定めることも重要だ。具体的には以下のルールについては決めておこう。

研修の告知方法:人事部から対象者にメール、直属の上司から伝えてもらう、など
スケジュール:研修のタイムテーブルなど
予算の管理:人事部が一括管理する、など
事前準備:手順、どの部署が担当するか、など

(5)講師を選定する

研修を行う際は、講師の選定も早めに行いたい。ビジネスマナー研修であれば人事部、専門スキルの研修の場合はベテラン従業員など、研修内容に沿った講師を選定する。また、講師を依頼する際は、日常業務に支障が出ないよう日程調整も必要となる。

(6)研修実施後のフォロー体制を決める

「社内研修」の効果をアップさせるためには、研修内容を充実させるだけでなく、アフターフォロー体制を整えておくことも重要である。講師役の従業員から受講者への声掛けをしてもらう、定期的にフォローメールを送信するなどの工夫も考えておきたい。

階層別「社内研修」の事例とテーマ

「社内研修」は、業務の範囲や習熟度に合わせ、階層別に行うと効果的である。「新入社員」、「中堅社員」、「リーダー層」、「管理職」といった階層別の研修事例とテーマについて解説する。

(1)新入社員研修の事例

基礎的なスキルの習得からスタートすべき新入社員向けの研修は、以下のようなテーマで行う。

・事業内容やMVVなどの会社理解
まずは、自社の事業内容やMVVなど、会社の理念や何を大切にしているかを伝える研修を行う。

・ビジネスマナー
社内外の人と接する際に失礼のないよう、言葉遣いや名刺交換、電話応対などのビジネスマナーを学んでおく必要がある。ロールプレイなどで実践すると、より身に付きやすい。

・コミュニケーション
関係者と円滑に仕事を進めるためには、コミュニケーションについての研修も行いたい。顧客や上司など、さまざまな立場の相手との接し方を学ぶ必要がある。どちらか一方が我慢するのではなく、双方が相手を尊重しながら自分の意見を伝える「アサーティブ・コミュニケーション」の技術も近年注目されている。

・ITスキル
社内独自のITツールがある場合、問題なく操作できるよう、研修等で入社後すぐに学べる機会を作っておくとよいだろう。

(2)中堅社員向け研修の事例

次に、入社して数年経過した中堅社員向けの研修の事例を紹介する。

・ロジカルシンキング
中堅社員になると、業務に「後輩の指導」が加わることも多い。物事を論理的に考え、相手に分かりやすく伝える技術を身に付けておくことが重要だ。なお、ロジカルシンキングは問題解決の際にも役に立つ。

・タイムマネジメント
業務効率化と生産性向上のためには、タイムマネジメント技術を身に付けるとよい。実際にスケジュールを組むワークなどを交えると効果的である。

(3)リーダー層向け研修の事例

部下を導き、生産性や業績の向上につなげるためにも、リーダー層向けの研修も行いたい。

・リーダーシップ
部下を上手に導く方法を知るための研修である。また、受講者にどのようなタイプのリーダーを目指すかを意識させるためにもこの研修は重要といえる。

・チームビルディング
生産性向上、目標達成のために、チームの作り方を学ぶ研修である。グループディスカッションやゲームなどを用いれば、受講者同士がさまざまな意見を交わすことができる。

(4)管理職研修の事例

部長職・課長職など、一定の権限を持つ人のために行う研修では、より良い組織の導き方を学んでおきたい。

・マネジメントスキル
マネジメントスキル研修では、部下の育成・指導や目標管理、戦略マネジメントやリスク管理など、組織を管理するために必要な知識を身に付けたい。

・コーチング
コーチングは、目標達成のための自発的な行動を部下に促す、傾聴や共感、承認をベースとしたコミュニケーションである。このコーチングによって、部下に気づきを与え、能力を引き出す方法を学ぶ。

・コンプライアンス
各部署を健全な組織として運営するために、法令、企業倫理、社会的規範について学ぶ研修を行う。


企業理念や自社独自のスキルを周知したい場合、特に有効な研修方法である「社内研修」。効果的に「社内研修」を行うためには、まず自社の課題点を洗い出し、「何を解決したいか」を明確にする必要がある。その後、受講対象者や研修内容等などの研修計画を策定していくとスムーズである。

なお、「社内研修」は、社外研修と比べるとコストを抑えられ、自社に合った研修内容を作成できるというメリットがある。ただし、講師役の従業員に負担がかかる、教える側のレベルにばらつきが生じる、という注意点もあるため、実施の際には十分な社内調整のもと、計画的に進める必要がある。

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