近年の社会情勢の変化や働き方改革等によって、優秀な人材の育成が企業にとって急務になっている。そんな中、多くの企業で「リーダーシップ研修」を取り入れる動きが浸透してきている。リーダーとしてのスキルや知識を磨くうえで欠かせない「リーダーシップ研修」について紹介しよう。
「リーダーシップ研修」とは? そもそもの目的や対象者、内容などを解説

「リーダーシップ研修」の定義や対象者は?

「リーダーシップ研修」とは、企業の中でリーダーシップを特に発揮してほしい人材に対して行われる教育だ。入社してから年月が立つと、仕事に必要な知識やスキルが高くなる。同時に、仕事のステージがあがり、責任者のポジションに就いたり、部下を指導する立場になったりする人もいる。リーダーシップ研修は、仕事でリーダーシップを発揮する必要がある人材に対して、知識やスキルを身につけさせるために行われる。

リーダーシップ研修の最終的な役割は、企業の目標達成や組織力の向上にある。リーダーシップ研修の実施によって、リーダーはチームメンバー個々の能力を引き出せるようにもなる。メンバー各自の能力を十分に発揮できる環境が整えば、目標達成までのスピードも加速するだろう。

●「リーダーシップ研修」が注目されている背景について

近年、国内企業において「リーダーシップ研修」へのニーズが高まっている。その背景には次の4つがあると考えられる。

(1)変化のスピードの速さ
インターネット技術が普及した2000年以降、国内企業は次々と変わる環境に対応するべくさまざまな対策を取ってきた。インターネットによってビジネスのグローバル化が進み、多様な人材を活かし自社の強みとするダイバーシティ経営も浸透し始めてきた。

変化の激しさはかえってプラスの影響を与えてくれることもある。変化の波にうまく乗れば、これまでにない自社の強みが見えてきたり、新規事業の創出につながったりすることもあるからだ。

そうした企業活動を支えるのは、他ならない従業員だろう。メンバーからの信頼と裁量権を持ってチームをけん引するリーダーは、これからの企業に必要不可欠な存在だ。

(2)成果主義
一昔前の企業では年功序列が当たり前で、いかに長く会社に在籍し貢献しているかが評価の対象だった。ところが今では、多くの企業が年功序列ではなく、成果主義を掲げている。理由は社会と市場の変化にある。

国内企業でも事業拡大のためにはグローバルな視野を持ち、海外市場で戦える力を手に入れなければならないのが現状だ。さらに海外企業が次々と日本国内に進出する今、事業だけでなく人材確保の面でも競争が激化している。

今の人材が求めているのは、年功序列による安定ではなく、自分の能力が正当に評価される環境だ。能力のある人材をさらに高みへと導くためにも、リーダーシップ研修が必要と考えられている。

(3)人手不足
労働人口の減少とそれに伴う人材不足は、現代から未来に続く企業の課題である。年々人材不足が進む中で、企業は「限られた人材で企業力を高める」方向にシフトする必要がある。

優秀な人材を早期に育成し、また育った優秀人材がより能力を発揮できる環境を構築するためにも、人材を育成できるリーダーの輩出と次世代のリーダーを育成する体制が必要だ。

(4)VUCA
VUCAとは不確実性が高く、将来の見通しがたたない状況を指す。「どのような環境の変化にも対応できる」柔軟な組織をつくるために、現場である程度の裁量権を持って決断できるリーダーの存在が求められている。

現場のメンバーの能力を理解・把握し、メンバーに信頼され、かつ問題解決能力に優れその場その場でリスクを鑑みた判断ができる。そんなリーダーの存在があれば、予測できない事態が巻き起こった際にも正しくチームをけん引できるだろう。

●「リーダーシップ研修」の対象者について

「リーダーシップ研修」を受ける対象者はさまざまだ。ここでは大きく3つに分けて紹介する。

・管理職社員向け
新たに管理職に登用した従業員に対して「リーダーシップ研修」を行うケースがもっとも多い。管理職には何が求められているのか。新たに管理職に就いた従業員はそれを十分理解してから業務に取り組むことで、管理職という立場に必要以上のプレッシャーを感じることもなくなるだろう。

管理職として長く業務に取り組んでいた人材でも、リーダーシップ研修の対象者になることがある。リーダーシップのスキルや知識に自信が持てない人材や、リーダーシップ能力の補完が必要とみなされる人材に対しては新たに研修を行う必要がある。

・中堅社員向け
今後管理職になるかもしれない、中堅社員に対して「リーダーシップ研修」を行う企業も増えている。リーダーになってから研修を行うのでは、「頼れるリーダー」がチームに存在しない、という事態に陥りかねない。

早期にリーダーになれる人材を育成することで、「リーダー不在」のチームをなくすことができるだろう。未来の会社を担う人材の早期育成は、将来の業績に好影響を与えてくれる可能性が高い。

・次世代リーダー向け
次世代リーダーとは、将来の経営者、あるいは経営幹部候補を指す。近年では、経営の重要なポジションを担うであろう人材を早期に発掘し、育成したいと考える企業が多い。自社の未来を背負う若手社員を育てるために、早期リーダー教育を行う企業が増えている。

そもそも「リーダーシップ研修」の目的は?

リーダーシップ研修の目的は大きく分けて2つある。具体的にどのような目的があるのか見ていこう。

●役割の認識

新たに管理職に就いた人材や今後企業をけん引する人材は、まず「リーダーの役割」を認識する必要がある。リーダーの主な3つの役割について説明する。

(1)成果を出すための明確なビジョンを持つこと
リーダーには、統括する業務において成果を出すことが求められる。その成果を出すために、どのようなメンバーでチームを構成するのか、メンバーの能力を引き出すために何をすべきかを理解するのとともに、「このチームでどのような未来を描くのか」という明確なビジョンが必要になる。明確なビジョンは、自分自身や部下が判断に迷った際の指標となる。また、ビジョンを共有することによってチームの結束力が高まり、生産性の向上にもつながるだろう。

(2)部下やチームのメンバーに対して適切な育成を行うこと
リーダーは部下やチームメンバーと上手くコミュニケーションを取り、指導・育成をする役割も担っている。部下やメンバーの士気を高めるのはもちろん、臨機応変に対応する能力が身につくように導いていく必要があるのだ。

(3)強い意志決定能力をもって業務にあたること成果を出すために必要となる戦略を考え、部下を導く。そして、「自分の判断は正しかったのか」を振り返り、別の戦略を立て、軌道修正するべきか判断しなければならない場面が出てくるだろう。その際に適切な判断ができるよう、リーダーシップ能力を高めておく必要がある。

●リーダーシップの把握

そもそもリーダーシップとは何かを知らずに管理職になることはできない。先陣を切ってあらゆる困難に自ら立ち向かうのも、メンバーのフォローに徹してそれぞれの能力を活かすのも、どちらもリーダーシップの一つだ。

リーダーシップにはカリスマ型や変革型、サーバント型、EQ型など複数の型がある。そしてどのようにしてリーダーシップを発揮するのかは、個人のタイプによって異なる。企業側はリーダー人材の性格や得意分野を把握したうえで、個々のリーダーシップを伸ばせるよう配慮する必要があるだろう。

「リーダーシップ研修」を実施するうえでの期間や方法は?

「リーダーシップ研修」の期間は、短くて半日から、長くて2日が一般的だ。半日研修の場合は、研修に基礎を詰め込むため、座学による学習方法が多い。1日から2日の実施が可能な場合には、座学に加えてより実践的なワーク形式を用いて学びを深める場合もある。

●「リーダーシップ研修」の方法は?

では、具体的に「リーダーシップ研修」はどのように実施するのか。具体的な方法を紹介する。

・社内研修
社内で「リーダーシップ研修」を行う場合、1つの場所に複数人が集まる集合研修となるのが通常だ。研修内容自体は外部委託し、講師を招いて行うことが多い。

・社外研修
社外研修では、「リーダーシップ研修」を行う企業や外部機関等に出向き行う。社外とのつながりが増えるほか、研修をする環境の整ったところで実施できるのもメリットだ。

・オンライン学習
オンラインで研修を行う場合もある。オンラインツールを使って手軽に参加でき、受講者がどこにいても参加できるというのがメリットだ。一方、直接講師に質問できず、受講者同士が交流できないというデメリットもある。

「リーダーシップ研修」の実際の内容は?

では、具体的に「リーダーシップ研修」ではどのようなことを行うのだろうか。詳しく見ていこう。

●リーダーに必要な役割について学ぶ

部下のモチベーションの保持や向上の方法、業務を指導するティーチングスキル、面談時に役立つコーチングスキルの習得を通して、リーダーに必要な役割を学んでいく。自身の課題を探し発見して、それを解決するためのアクションプランを策定するなど、日常的に実践できる方法も学べる。

リーダーシップは生まれ持った素養と考えられてしまいがちだが、誰もが習得できるスキルの一つなのだ。部下が求めるリーダーと企業が求めるリーダー、それぞれについても研修を通して学べるだろう。研修によって、人材はリーダーシップの必要性も理解できるようになる。

●リーダーとしてのコミュニケーション能力を習得する

前述したティーチングやコーチングは、円滑なコミュニケーションに欠かせないスキルの一つだ。部下が業務で困っている時には、的確なアドバイスで解決に導けるティーチングスキルが役立つだろう。さらには部下の悩みに気づき、課題を見つけ、ともに解決への道を探りたいとき、傾聴によって相手の考えを引き出せるコーチングスキルが役立つ。

●部下への指導の仕方を知る

部下への指導の仕方を間違えると、信頼関係を構築できずチーム力の最大化が難しくなってしまう。「リーダーシップ研修」においては、まず「聞く力」を身につけ、さらには部下のほめ方や叱り方、対話の方法などを学んでいく。話を聞く、部下をほめる、部下を叱る、部下と対話する。リーダーシップ研修では、これらの正しい方法を知り、身につけることができるのだ。

●リーダーの仕事の進め方を学ぶ

リーダーはチームの目標を設定し、目標達成のための進捗管理・コスト管理・情報管理を行う。時には会議を開いてチーム内で情報を共有しあったり、メンバーに発破をかけたりする必要もある。また、チーム全体で企業活動にプラスの影響を与えられているのか、成果を出せているのかを適宜チェックする必要もある。リーダーの仕事の進め方に関する研修では、リーダー自身の業務におけるタスク管理のような細かな手法からチーム全体の進捗管理の方法まで、さまざまな手法を学べる。
近年、優秀な人材の早期育成を目的として「リーダーシップ研修」を積極的に取り入れる企業が増えてきた。企業が生き残るためには、優秀なリーダーが不可欠。リーダーシップ研修では、リーダーとなる人に欠かせないスキルや知識を学ぶことができる。リーダーシップ研修を受けるか受けないかで、管理職の心構えも変わってくるだろう。多様な働き方が社会に浸透してきた近年、より多くの企業がリーダーシップ研修を通して、優秀な人材の育成に早期から取り組む必要があるだろう。
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