人材育成において欠かせないのが「研修」だ。新入社員にビジネスの基礎知識を学んでもらう、管理職に必要な心構えを身につけてもらう、特定の職種に求められるスキルを磨く……。多くの企業で、このようにさまざまな対象・目的ごとに研修が実施されている。ここでは研修の意味、目的、種類を整理するほか、研修の計画立案から実施において注意すべきポイントについて考察してみよう。
そもそも「研修」の意味や目的とは? 計画やスケジュール作成で役立つフロー、種類についても解説

いまさら聞けない「研修」の意味と目的

「研修」とは、勉強会、各種講座、トレーニングなどを通じて、現在および将来の業務において必要となる知識やスキルを習得することである。

一般的に研修は、仕事についての基本的な知識を学ぶ研修、チームを率いる立場へと昇進する人のための研修、特定の業務に関するスキルを習得する研修、ある職種・職責に就く要件を満たすための研修など、さまざまな目的ごとに実施される。社員は、必要に応じて、段階的に複数の研修を経験することになる。

現場での仕事によっても社員の成長は期待できるが、体系的・効率的かつ円滑に知識やスキルを身につけられる「研修」は、優秀な人材を育成するために欠かせないものといえる。また広範な知識や資格を取得し、専門的なスキルを磨き、モチベーションや生産性を向上させることは、個人の評価、働き方、将来のキャリアプランにつながっていく。会社と社員、双方にとって研修は大きな意味を持つのだ。

●「社内研修」と「社外研修」の違い

研修のうち「社内研修」は、人事部が主導してプログラムを準備し、多くの場合、会議室や研修センターなどで実施されることになる。新入社員研修、階層別研修、スキルアップのための研修などが代表例となるだろう。

社員研修のメリットは、業種・業態、実務の内容、社風、社員構成など、自社の実情に応じて最適な研修をアレンジできること、講義やテキストを通じて社内での価値観・認識を統一できることなどが挙げられる。

一方、「社外研修」は、研修サービスの提供事業者を利用した研修(研修のアウトソーシング)や、公的機関が実施する講座の受講などを指す。外部講師を招くこともあれば、社外で開催されている研修に社員が出向いて参加するケースもある。

社内研修に比べると費用はかかるものの、サービス事業者が提供する研修は多種多彩な目的に対応しており、プログラム/カリキュラムは豊富。専門性の高い知識やスキルを学ぶ機会を得られるほか、自社でプログラムや講師役の社員を準備する手間を省けるのもメリットだ。

効果的な実施に向けて知っておきたい「研修」の種類

「研修」には多くの手法があり、目的や対象となる社員の幅も広い。ここでは研修の実施手法・スタイル、代表的な目的・対象などについて解説しよう。

【研修の手法・スタイル】

●OJT
「OJT」とは“On-The-Job Training”の略であり、働く現場において、上司や先輩から指示・アドバイスを得ながら実際の業務にあたり、仕事の進め方などを習得していく研修を指す。実務と研修がダイレクトに結びついているため、業務の遂行に不可欠な多くのことを効率的に学べ、実践力を身につけることができる。新入社員を戦力化するために、多くの企業で採用されている手法だ。

特別なコストがかからず、上司・先輩による個別指導になることが多いため、個々の社員の能力や特性、理解度などに合わせて育成できる点がメリットだ。配属された部署における人間関係も自然と築かれるだろう。

●Off-JT
OJTとは逆に、配属先・仕事の現場から離れた研修が「Off-JT」だ。講習会やセミナーなどでの座学のほか、講師との対話や実務体験をともなうワークショップ、数人が共通の課題に挑むグループワークといった形式が採られることもある。

例えば新入社員には、現場で実務に取り掛かる前に、ビジネスの基本的な知識・マナー、初歩的なスキルを身につけてもらう必要がある。これらを体系的・理論的に、そして一斉に学んでもらうため、会議室などに新入社員を集めて集合研修形式のOff-JTを実施するわけだ。管理職に求められるマネジメントスキル、新たな業務に必要となる専門的知識などを学ぶ場としても、“同じ内容を多くの人に同時に伝えられる”という特色を持つ集合研修形式のOff-JTは有効だ。

実務と同時進行のOJTとは異なり、研修に集中できる点もOff-JTのメリット。集合研修形式であれば受講者の連帯感も向上するだろう。一方で、研修の対象・内容の設定、スケジュール調整、会場確保などといった作業が必要となり、手間やコストの発生は避けられない。

●eラーニング
インターネットでテキスト、画像、動画にアクセスし、さまざまな知識・ノウハウを学ぶ「eラーニング」も注目を集めている。多くのサービス事業者が、ビジネスの基礎、コミュニケーション術、ITリテラシー、語学、資格取得に必要な専門的知識など、多彩な内容のプログラムを提供しており、講師陣も大学教授やコンサルタントなど本格的。スマートフォンやタブレットがあれば“いつでもどこでも”学べる点も魅力だ。

サービス導入・利用のための費用は必要となるものの、Off-JTのようにスケジュール調整や会場確保の手間は掛からない。新型コロナウイルス感染症の拡大防止という点でも“集まることなく受講できる”のは大きなメリットといえる。

ただ、多くの場合「ビデオを見る」といった受動的・一方通行的な研修になりやすく、受講者本人の“学ぶ意欲”によって進捗や習熟度が左右されることも考えられる。そこで近年では、上長や人事部が個々の社員の受講状況・進捗を確認できる機能、受講後の学習効果を測定するテストなどが組み込まれた「学習管理システム(LMS:Learning Management System)」が利用されるケースも増えている。

【研修の対象・目的】

●階層別研修
新入社員、中堅社員、管理職、ベテラン、将来のビジネスリーダー候補として選抜された社員など、フェーズごとに実施されるのが「階層別研修」だ。

新入社員はビジネスの基本的な知識・マナー、管理職はリーダーシップ、チームマネジメント、コミュニケーション術など、それぞれに必要となる知識・スキルの習得と、階層ごとの業務内容や仕事のレベル・方向性を統一することが研修の目的となる。

●業務別・職種別研修
営業、企画・開発、人事・労務、生産管理など、業務内容や職種ごとに研修が実施されることも多い。営業職であればコミュニケーション術やクレーム対応、企画・開発なら情報収集、マーケティング、プレゼンテーション、人事・労務なら関連法規やコンプライアンスなど、それぞれの業務・職種に必要となる知識の習得とスキル向上を目指すことになる。

●スキル別研修
業務別・職種別研修は同じ業務・職種の社員を集めて行われるが、ある知識やスキルが幅広い部署・職種で必要となるケースも考えられる。こうした際に実施されるのがスキル別研修だ。

例えば、ExcelやPowerPointといった利用頻度の高いソフトウェアの活用術は、すべての部署・職種にとって必須のスキルといえる。近年ではITリテラシー、DX(デジタルトランスフォーメーション)、情報セキュリティ、リモートワークにおける仕事の管理方法といったスキルの重要度も増している。これらについての研修を実施することで、全社的なスキルアップを図ることができるだろう。

「研修」の計画やスケジュール作成に役立つフローとポイント

「研修」の実施にあたっては、企画段階から実際の運営まで、考慮しなければならないことは多岐に渡る。研修を成功させるための注意事項を整理してみよう。

【研修のプランニングから実施までのフロー】

●研修の目的と対象者の設定
まずは経営ビジョンや現在の経営課題を確認し、社員へのヒアリングも実施して、研修によって解決すべき課題、向上させるべきスキルを明らかにすることが必要だ。誰を対象に、何のための研修を開催して、どのような成果を期待するのか、研修の対象と目的を明確に設定することから始めたい。

●研修の内容・実施方法の検討と準備
研修の目的に応じて、OJTかOff-JT、eラーニング、社内研修か社外研修など、手法とスタイルを決めなければならない。研修の全体スケジュールやカリキュラムの立案においては、現時点での社員の理解度・習熟度調査、業務との擦り合わせなども必要となるはずだ。

「OJT」であればトレーナーとなる上司や先輩社員の選抜、「Off-JT」ならテキストの作成、外部講師の招聘、社外研修であれば事業者の選定、「eラーニング」ならLMSの比較検討など、採用する手法に応じて着実に準備を進めなければならない。できれば研修全般の運営にあたる専任スタッフを選んでおきたいところだ。

●研修にかかる予算の割り出しと確保
どのような研修スタイルであってもコストは発生する。研修に充てられる予算は事前に確保しておかなければならない。実際には研修内容・手法の検討と同時に、人材育成予算の中から研修にどの程度割けるかを考慮しながら計画を立てていくことになるはずだ。

厚生労働省では「人材開発支援助成金」といった研修に関する助成金を用意している。これらの利用も考えたい。

●研修の運営
OJTの実施にあたっては、研修の運営担当者とトレーナーが綿密に連携し、進捗状況を確認することが必須となる。社内研修によるOff-JTは、会場・機材の手配、テーマや日時などの通知、受講者の募集・選抜、スケジュールに沿った当日の運営など、運営担当者の負担が最も大きくなるだろう。

研修サービス事業者を利用した社外研修では、事業者との連携、受講方法の周知、費用の管理、eラーニングでは、進捗状況の確認、進行が滞っている社員に対する受講促進といった業務が必要となる。

いずれの場合も、どういった目的で研修を実施するのか、社内での周知徹底を図り、現場に協力してもらえる体制作りが大切だ。また終了後は、テストや上司の評価などによって成長度と成果を見極めなければならない。期待ほどの成果を得られなければ、研修の手法・内容の見直しも必要となるだろう。

【研修を成功させるためのポイント】

●基礎的な研修を優先して段階的に進める
配属・OJTの前に新入社員研修を実施するなど、基礎的な内容の研修を先行させることがセオリーだ。基礎の習得がなければ、応用スキルや実践的な内容の研修を実施しても成果・効果は小さい。業務別研修やスキル別研修では、次の段階の研修へと進める要件を設定しておくのも有効だろう。

●スケジューリングは慎重に
実務に関連したスキルであれば“短期的”、経営戦略に関わる知識・スキルやリーダーシップ開発などは“中長期的”な視点で研修計画を立てるべきだ。

個別の研修においては、1日で終了できるか、複数回の受講が必要か、合宿などで集中的な研修がベターかなど、内容や目的に応じて適切な計画立案を心がけたい。詰め込み過ぎは受講者の負担が大きくなり、十分な理解が進まないまま研修が終わってしまう。初日(初回)は座学などで情報をインプットし、2日目(2回目)はアウトプットや実践を通じて習熟度の確認と理解度の向上を図るなど、余裕を持った計画が重要だ。

●社内研修と社外研修を使い分ける
社内研修は比較的コストがかからず、スケジュールの自由度も高いが、社内にノウハウが蓄積された研修に限定される。一方、社外研修は、サービス提供事業者によって期間や日程が固定されているケースが多いものの、内容は多彩で本格的だ。

それぞれのメリットとデメリットを理解したうえで、社内研修でフォローできない部分のみ社外研修を活用するといった適宜適切に組み合わせて実施したい。社外研修のスケジュール作成を先行させ、そこに社内研修をプラスする方が、計画・日程の調整はスムーズに進むだろう。

●現場・個人まかせにしない
OJTでは、“教育する側である上司・先輩の個性やスキル”、“トレーナーと教わる側の相性”などによって研修効果が左右されることも多い。教育する側の負担増も問題となりがちだ。最悪の場合、教わる側が放置される恐れもある。そのため、OJTを現場まかせにするのではなく、進捗や成果を定期的に確認していこう。できればトレーナー役となる上司・先輩社員向けの研修も実施したい。

eラーニングでも、個々の社員の理解度・習熟度・効果を、上司や人事部、研修運営担当者が随時確認することが求められる。そうした機能を備えたLMSの活用が有効だろう。

●振り返りは必ず実施する
研修全体の振り返りも大切だ。受講者本人には研修の内容・状況や感想などをまとめた報告書を作成してもらおう。研修運営担当者は、研修終了後の理解度・習熟度チェック、受講者へのアンケート、満足度調査の結果などをレポートとして整理する。研修から時間を置いた効果測定も実施し、結果を集計しておきたい。

報告書やレポートの作成・閲覧は、受講者にとっては学んだことの復習機会やフィードバックに、また研修運営担当者にとっては改善点を探るための重要なデータになってくれるはずだ。

外部事業者の協力を仰ぐのも有効な手段

研修は、対象者も目的もさまざま、手法や内容も千差万別だ。また「コミュニケーション術」や「企画・開発担当者向け」など研修の目的(タイトル)は同じでも、企業によって求められるスキルや細かな内容は異なるはずだ。近年ではコンプライアンスやハラスメント防止、DXに関する研修が注目を集めているように、必須とされる知識、重要度の高いスキルが時代の変化に応じて変わることもある。

eラーニングには、職場や人事部がカリキュラムを指定して受講してもらう形式のほか、個々の社員が自分の学びたい内容を選んで受講する「カフェテリア型」というスタイルもある。主に福利厚生の一種として採用されており、eラーニングの利用に必要なポイントを社員に付与し、そのポイントの範囲内で自由に学んでもらうという形式だ。社員の自主的なスキルアップを支える制度として人気を集めている。

このように、目的、スタイル、手法は多彩であり、短期的に効果が出るものもあれば中長期的に成果を見なければならないものもある。ひとくちに「研修」といっても、内容や注意すべきポイントは多岐に渡る。「自社に適した研修を見定められない」、「なかなか研修の効果が表れない」、「研修の運営に割けるリソースが限られている」など、研修にまつわる課題を抱えているのであれば、外部事業者の協力を仰ぐのも有効な手段となるだろう。
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