「障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」の一部が令和3年5月に改正・可決されました。これにより、民間事業者による「合理的配慮」の提供が「努力義務」から「法的義務」へと変わります。「障害者雇用促進法」では、すでに企業に合理的配慮の義務が課されていますが、その合理的配慮と、今回法的義務になる「障害者差別解消法」の合理的配慮はどのように違うのでしょうか。違いを解説するとともに、法改正に伴い企業で求められる対応について考えていきます。
令和3年の「障害者差別解消法」の改正で企業の「合理的配慮」が法的義務化。企業への影響とは?

「障害者差別解消法」の合理的配慮とは

「合理的配慮」の提供を民間事業主に義務付ける「改正障害者差別解消法」が、令和3年5月に可決、成立しました。これまでは、「合理的配慮」の法的義務は国や自治体のみに対するもので、企業においては努力義務でしたが、今後は企業においても「合理的配慮」を法的義務として提供することが求められます。

「障害者差別解消法」は、平成28年から施行されており、令和3年5月に可決された改正法は、公布日(令和3年6月4日)から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されることになっています。

「合理的配慮」については、「障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」における合理的配慮と、「障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)」における合理的配慮があります(参考:図表1)。

図表1

障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務について

出典:障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務について(厚生労働省)

今回、改正されたのは「障害者差別解消法」の合理的配慮の提供です。今後民間企業は、障がい者に対してサービスを提供する際、国や自治体と同じように合理的配慮義務が求められるということです。

障がい者は、社会の中にある障壁(バリア)によって、生活しづらいことがあります。このような障壁を取り除くため、障がい者から何らかの要望などの意思が示された時に、過度の負担にならない範囲で対応することが求められます。これが「障害者差別解消法」における「合理的配慮」の提供です。

国や自治体ではすでに、合理的配慮の提供は法的義務になっており、「段差がある施設等にスロープを設置する」、「セミナーや説明会では手話通訳や筆談、音声ガイドを準備する」、「障がい者にとってもわかりやすいよう、コミュニケーションツールを活用する」などの配慮がおこなわれてきました。例えば、行政窓口などでは、障がい者が自分で書面に記入するのが難しい場合、本人の意思を確認しながら代筆したり、意思疎通のために絵や写真、筆談などを活用したりするといった対応をしています。

「障害者差別解消法」の改正で企業に求められる対応

令和3年5月の「障害者差別解消法」の改正で、「合理的配慮」が民間企業でも法的義務となるのに伴い、企業で求められる対応についてみていきましょう。

障がい者雇用を行っている企業では、すでに「障害者雇用促進法」で合理的配慮を示すことが義務付けられています。「障害者雇用促進法」における合理的配慮は、「障がい者と障がい者でない者との均等な機会や待遇の確保、障がい者の能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するための必要な措置」と定義されています。具体的な内容については、厚生労働省が「合理的配慮指針事例集」や「障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関する Q&A」を提示していますので、これらを参考にするとよいでしょう。



今回、改正された「障害者差別解消法」の合理的配慮については、サービスや商品を提供する事業主としての対応が求められます。企業が個人を対象にビジネスを提供する場合、該当すると考えたほうがよいでしょう。公共サービスに近い事業を行っている、あるいは店舗系のビジネスをしているところでは、障がい者へ直接対応が必要となります。

例えば、ある私鉄の駅に勤める職員は、持病の薬が切れて歩けなくなっていた人に、「駅から100メートルほど離れている自宅から車いすをもってきてほしい」と頼まれたことがありました。この職員が所属する鉄道会社では、車いすの扱い方などのマニュアルはありましたが、とっさに介助を依頼された場合の対応法については規定がありませんでした。また、できる限り助けたいと思っても、万が一何かあったときに不慮の事故で責任を問われる可能性もあることから、このような場合には、どこまでが「合理的配慮」にあたるのか、どこまで対応するのかの判断は難しいところです。

「障害者差別解消法」の中では、障がい者に対する「不当な差別的取り扱い」が禁止されています。この「不当な差別的取り扱い」の中には、障がいのある人に対して、正当な理由なしに、障がいを理由としてサービスの提供を拒否することや、サービスの提供において場所や時間を制限すること、障がいのある人だけに条件をつけることなどが含まれます。つまり、「障がいを理由にして店舗への入店や受付を拒否する」、「障がい者を無視して周囲の支援者や介助者のみに話しかける」、「保護者や介助者が一緒にいないとサービスを提供しない」といった対応は差別にあたることになります。まずは、差別と捉えられない対応をすることが求められます。

あわせて「合理的配慮」についても考える必要があります。「障害者差別解消法」では、行政機関や事業所に障がい者への「合理的配慮」を求めていますが、「本来の業務に付随するもの」に限定しています。これは、障がい者が、障がいのない人と同等の機会を得るためのもので、業務に影響が出ない範囲が基本となります。

少し具体的に見ていきましょう。内閣府の事例によると、駅構内に段差がある場合、「携帯スロープなどを使い、車いすの障がい者を補助すること」は合理的配慮に該当します。しかし、「送迎」は、事業のサービスとして行っている場合を除き、断っても合理的配慮をしていないことにはなりません。また、飲食店での食事介助や、温泉施設での入浴介助など、身体介護にあたる行為を求められても、事業として行っていない限り、断っても合理的配慮をしていないことにはなりません。

内閣府のホームページでは、事例集を掲示していますので、参考にするとよいでしょう。

「障害者差別解消法」の合理的配慮については、過度な負担にならない範囲で対応することが求められています。仮に、合理的配慮の過重な負担がある時には、障がい者にその理由を説明し、別の方法を提案するなどして、話し合い、理解を得るように努めることが大切です。

例えば、従業員が少なく、混雑しているような時間帯には、障がい者からの「店内を案内してほしい、詳しく説明して欲しい」などの要望に応えることが難しいかもしれません。このような場合には、店側は、負担が重すぎない範囲で、別の方法を提示できる可能性があります。ただしその内容は、それぞれの状況や場面、障がい者の特性などにもよりますので、一概にこうだと決められるものではありません。対応が事業者側にとって過度な負担になる場合は、その理由を説明し、障がい者の理解を得られるようコミュニケーションを図ることが求められます。

なお、合理的配慮で求められることは、障がい者の障害や状況によって異なります(同じ障がい手帳や障がい名、等級であっても、必要とする配慮が異なることは珍しいことではありません)。障がい者にとってどのような配慮が必要なのかは、個別に異なることを認識した上で対応するとよいでしょう。また、このような対応は突然求められることが少なくありません。企業で想定される合理的配慮については業種、業態によって異なりますので、事前に社内で検討しておき、基本的な対応を示しておくと、従業員にとっても対応しやすくなります。

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