「高次脳機能障がい」の特徴と職場でできる配慮とは?
障がい者雇用において、事業主には「合理的配慮の提供義務」が求められており、障がい者が職場で働く際に何らかの支障がある場合には、事業主はそれを改善するための措置を講じることが必要です。しかし、「合理的配慮」と言っても、障がいの内容によって特性や症状が異なるため、どのような配慮が必要なのかは、状況によって変わります。そこで、「ケース別配慮のポイント」と題して、7回にわたって障がいの種類ごとにどのような配慮が可能かを紹介します。第2回の今回は「高次脳機能障がい」のケースについて見ていきます。

「高次脳機能障がい」とはどのような障がいか

高次脳機能障がい」は、事故や病気などで受けた脳の損傷に起因する認知障がい全般を指します。この中には「失語症」、「記憶障がい」、「注意障がい」、「遂行機能障がい」、「社会的行動障がい」、「感情コントロールの低下」などの症状が含まれます。

身体的な麻痺はなくても、脳の損傷による認知障がいによって、日常生活及び社会生活への適応力が低下することがあります。しかし、外見からはわかりにくいために、周囲の人から誤解を受けやすい状況が生じてしまうことも少なくありません。

「記憶障がい」や「注意障がい」などの症状がある場合、「器質性(脳の変化による)精神障がい」に分類されるため、一般的には「精神障害者保健福祉手帳」が交付されます。しかし、手足の麻痺や音声・言語障がい(失語症)がある場合は、「身体障害者手帳」の申請対象になることもあります。

主な特徴について見ていきます。

●記憶障がい
「前向性健忘」および「逆行性健忘」があります。「前向性健忘」は、受傷した時点以降の記憶が抜け落ちる状態になることを指します。受傷・発症後の出来事の記憶を保持することが難しいため、新しい情報やエピソードを覚えることができなくなります。「逆行性健忘」は、受傷した時点以前の記憶が抜け落ちることを指します。受傷・発症より過去の記憶が引き出せない状態になります。

●注意障がい
集中困難・注意散漫により、特定の刺激に焦点を当てることが困難となり、他の刺激に注意を奪われやすくなります。また、時間の経過とともに、作業や課題の遂行力が低下します。作業や課題をこなせる能力はあっても、集中力が継続しないために、「最初はできても途中からできなくなる」という状況になりがちです。

●遂行機能障がい
物事を遂行するために計画を立てること、またそれを実行することが難しくなります。
例えば、何かの計画に取り組む際、ゴールを設定する前に行動してしまうことがあります。そのため周囲からは衝動的な行動をとっているように見えてしまいます。また、明確なゴールを設定できないために、行動を起こすこと自体が難しくなる場合もあります。

●社会的行動障がい
意欲の低下や感情コントロールの低下、また対人関係への支障、依存的行動、過度なこだわりなどがみられます。感情のコントロール低下が起こると、イライラした気分が徐々に過剰な感情的反応や攻撃的行動へとエスカレートし、やがて行動をコントロールすることができなくなります。突然、興奮して大声で怒鳴り散らすなどの行動をとることがあります。また、社会的スキルである認知能力や言語能力に問題が生じることにより、対人関係に支障をきたす場合があります。具体的には、会話中の急な話題転換や、職場に相応しくない過度になれなれしい態度、また相手の発言に対して嚙み合わない反応をする、言葉を文字通りにしか解釈できないなど抽象的な思考が困難になる……といった症状が見られます。

「高次脳機能障がい」への配慮のポイント

●募集・採用のときにできる配慮
・面接時に、就労支援機関のスタッフ等が同席する

高次脳機能障がいには、失語症や注意障がい、記憶障がい、遂行機能障がい等の様々な症状があり、面接時にそれらをすべて把握して対応するのは難しいでしょう。そのため、高次脳機能障がいの当事者である応募者と面接官との意思疎通のサポートや、障がい特性等の説明のために、就労支援機関のスタッフが面接に同席することがあります。普段、当事者に接している就労支援機関のスタッフからの話を聞くことで、当事者の理解しやすい話のスピードの目安や、どのようなことに困難を感じるのかを把握しやすくなり、職場で求められる配慮について検討するのに役立ちます。

●採用後にできる配慮
・指導担当者や相談役などの役割を分担する

業務上の担当者を置くのは大切なことです。ただし、一人の担当者が、業務における教育担当と職場全体の相談役との両方をこなすと、負担が大きくなります。可能であれば役割を分担すると良いでしょう。また、当事者にとっても、「誰に何を相談するのがよいか」を明確にすることで安心を感じやすくなります。

・スケジュール帳やメモリーノートの活用
スケジュール帳やメモリーノートを活用すると、1日のスケジュールや、覚えておくべき事項を視覚的に把握できます。「いつ何をすべきか」が明確に示されるため、何をすればよいのか、今どこまで業務が進んでいるのかなどを理解を助けます。教育担当者がこれらを活用して、当事者と情報共有すれば、業務の確認も容易です。

・業務量の調整や、柔軟に対応できる体制を作る
「記憶と学習に困難を抱えている」、「意識を集中しにくい」、「疲れやすい」、「意図した動作を行うことが難しい」等の症状が見られるのであれば、本人の負担に配慮した業務内容やスケジュールを組むことができます。はじめは業務工程を減らして、限定的な業務を担当してもらうようにすると、当事者も仕事を習得しやすくなります。限定的な業務が習得できたら、状況に応じて業務量を徐々に増やしていきましょう。当事者の様子を見ながら柔軟に対応できる体制にしておくと、障がい者本人も職場の社員も、互いに余裕をもって接しやすくなります。短い時間内に終わらせる必要のある業務は、場合に応じて担当から外すなどの対応もできるでしょう。

・休憩時間の確保、勤務時間について
当事者は疲れやすいことが多いので、こまめに休憩を取れるようなスケジュールを組んでおきます。また就業時間については、はじめからフルの勤務時間を設定するのではなく、段階的に勤務時間を伸ばしていくことをおすすめします。

・口答での指示は短く、マニュアルはわかりやすくする
指示を出すときには、わかりやすく、簡潔に行います。また、マニュアルは文字で示すとわかりにくいことがあります。そのような場合には、写真や図を活用すれば、作業手順をわかりやすく示すことができます。

・職場の上司・同僚による日常的な声かけや定期的な面談
日常的な声かけは重要ですが、当事者に仕事に集中してもらうため、作業中に声をかけるのをできるだけ避けます。話しかけるときには、作業の区切りのよいときや、休憩の時間などに行ってください。また、定期的に面談を行うことで、当事者の不安などを受け止めることができますし、できていることを認めることにより、自信や安心感を持ってもらう機会になります。さらに、フィードバックすることによって、当事者の職場への帰属意識やモチベーションアップにも繋がります。

・当事者のプライバシーに配慮した上で、他の社員に障がいの特徴や配慮について伝える
見た目からはわかりにくい障がいであるからこそ、障がい者の障がい特性や、その方が働くにあたってどのような困難を感じているか、職場はどのような配慮が必要か……といったことについて、周囲の理解を得ることが望まれます。例えば、当事者に記憶障がいがあり、指示した内容をすぐに忘れてしまう場合、一緒に働く同僚は不満を感じることもあります。「何回も説明しているのに理解できないのは、やる気がないからではないか」などと感じている場合、当事者にもそんな考えが伝わる接し方や話し方をしてしまうかもしれません。このような状況は、一緒に働く同僚、障がい当事者、両者ともに精神的な負担が大きくなりがちです。

また、自分が「見ている」と意識している空間の片側を見落とす、「半側空間無視」という症状を当事者が持っているのであれば、特定の職務内容や、周囲の環境について、より注意して工夫する必要があります。リスク管理の面から、労働者に危険が及ばないよう、作業場所の配置を見直してください。

なお、障がいについて、一緒に働く職場の人に理解してもらうことはとても大切ですが、その内容や特性、配慮事項についての職場内での情報共有は、障がい者本人の意思やプライバシーに配慮して進めることが重要です。

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