障がい者雇用にも多様性を。成功企業事例に見る20時間未満の短時間雇用の可能性
障がい者の法定雇用率が引き上げられたり、世の中の意識が変わったりしたことで、数年前よりも障がい者雇用は進んでいます。しかし、働きたくても働くことが難しい障がい者が増えているという課題も顕在化してきました。雇用法定率は週20時間以上の労働者が対象となります。そのため、企業にとっては受け入れるハードルが高く、20時間未満でなら働ける、働きたいと考えている障がい者が雇用機会を得にくいのです。このような中で、川崎市や神戸市などでは、20時間未満で働く障がい者の雇用への取り組みが進んでいます。実際に短時間雇用での障がい者雇用をされてきた企業の事例から、その意義やどのように捉えることができるのかについて見ていきたいと思います。

スタックスの事例に見る短時間雇用をするメリットとは

川崎市では、週20時間未満の障がい者雇用の取り組みが早くから行われていました。川崎市と連携をとりながら、短時間の障がい者雇用に取り組んだ株式会社スタックスの事例から、企業が短時間雇用をどのように活かすことができるのか、その考え方や取り組み方を紹介します。

【株式会社スタックスの概要】
社名:株式会社スタックス
URL: https://stax-tqs.co.jp/company.html
事業内容:精密板金業(宇宙・航空関係、医療機器、通信機器、免震台脚(スウェイフット)等の部品製造加工)
従業員:53人、障がいのある方:3人(身体、知的、精神)
事業内容:精密機器の金属加工。宇宙・航空関係の部品や医療機器、通信機器、免震台脚(スウェイフット)などを扱っています。製品の大半は、エンドユーザーが国になるため、仕様はかなり厳しいものが要求されます。そのため出荷検査では人材を厚めに配属しており、ここに障がい者の社員も携わっています。

【スタックスの障がい者の短時間雇用と業務の考え方】
もともと業務の関係上、1つの業務工程を細かく分けて分担する仕組みを取り入れていたこともあり、その中の検品作業を中心に障がい者の短時間雇用に活用できないかと考えたことからスタートしました。そして、業務を次の4つのマトリックスに分けて精査します。

■業務分析した4つの区分
・重要かつ緊急
・重要ではないが緊急
・重要だが緊急ではない
・重要でも緊急でもない

出典:株式会社スタックス

業務を分析したところ、「重要だが緊急ではない」仕事があること、また、それを突き詰めたところ、「いつかはやりたい」と思っていたことで、それができると「付加価値を生む仕事」だったり、いつかはやらなければならない仕事で「業務効率化に寄与する仕事」があることに気づきました。そして、それが障がい者の業務になっている外観検査業務につながります。

一般的な製造業では、ロット数が何千個、何万個という大きな単位になりがちですが、スタックスでは、ロットの規模は1個から数十個、数百個というものがほとんどです。製品は全検査する体制をとっていますが、作業工程の関係から、1個ずつ検品と梱包する兼務体制をとっており、検品して包むという工程の中で、どうしても見落としが発生することがでてしまいます。

一方で、製品に対する厳しい要求があるため、一度不良などが発生すると、お詫びと製品の差し替えで終わらず、原因の究明と再発防止策の策定をする必要がありました。また、それだけで終わらず、時間がある程度経ってから、それがきちんと遂行されているかの確認もあり、見えないコストがかなり掛かっていました。

このような背景もあり、外観検査業務を専従にした製品の傷や異常をチェックする人材は欲しいものの、1日してもらう作業量はない。とは言っても、1週間に1度の検品では納期にも影響がある。それを解決するために、1日に短時間の仕事を障がい者の業務として切り出すことになりました。

また、検品する製品はどんどん変わっていくものの、やらなければならない業務はなくなりません。検品しすぎるということはなく、可能であれば、2回でも、3回でも検品するほうがいいという業務の特性もあり、理想の流れとしてマッチしました。

この検品仕事に携わっているのは、発達障がいの方です。一般的には、何十個も同じ製品を見ていると、目が慣れてきてしまうものです。しかし、この業務に携わっている発達障がいの社員の方の場合は、変化があるものに対して我慢ができないという特性があり、気づきたくなくても気づいてしまう特性が、検品作業の精度を高めているそうです。

【障がい特性と職場での配慮・指導】
業務と障がいの特性が非常にマッチングしている一方で、コミュニケーションに関しては難しい部分もあります。コミュニケーショントラブルが何度か発生したこともあり、得意なことと苦手なことの差が大きいと感じることもあるそうです。

そんなときには、「ここは職場なので、無理に仲良くなる必要はないけれど、会社として利益を生み出してもらわなければ困る。だから、業務に支障がでるようなことはやめてほしい」と伝え、ある意味、苦手さについては割り切って考えるようにしています。

現在、雇用されている障がい者は3名。そのうちの2人は、20時間以内の短時間雇用からスタートしていますが、いずれも次のように勤務時間を伸ばしています。

Aさん:勤務して4年目、精神障がい(発達障がい)。雇用時は、1日2時間、週5日からスタートし、現在、週25時間勤務。業務は、製品の外観検査、傷や汚れ、変形の検査、組立業務等。

Bさん:勤務して3年半、身体障がい(後天性の障がい。歩行が困難、高次脳機能障がい、会話のスピードが一般の人の半分から3分の1くらいのスピード)。雇用時は、1日2時間、週5日からスタートし、現在、週32.5時間に勤務。業務は、製品の外観の検査。前職のエンジニア経験や知見を活かし、社内の製造業の工程分析や、不良品発生の原因分析や、対応策についての提案なども担当。

【星野社長に聞いた業務の切り出し方のポイント】
多くの企業では短時間雇用の業務は難しいと感じていることでしょう。短時間雇用のポイントとなった、業務切り出しについて、スタックの代表取締役社長星野佳史氏が次のように話しています。

「業務の切り出しについては、私の持論ですけれど、切り出せない業務はないと思っています。

業務は、細かく見ればその中にいくつもの工程があります。その工程が「1から10」に分けられるとすると、本当にその人がやらなければならないことは、「4、5、6」のところの部分で、「1から3」と「7から10」の部分は、他の人でもいいよねという部分がでてくるわけです。

そこを「4、5、6」だけやらなければならない人がやれば、精度も効率も良くなる。しかし、「1から3」と「7から10」を分けてしまおうと考えると、じゃあそれを誰がやるのというところで止まってしまうことがあります。

そこに対して時間が短いけれどできますとか、むしろ短時間で集中したほうがいいなどの考え方をすると、短時間雇用や障がい者の業務としてマッチしてくると思います。同じように考えることは、どこの会社でもできることではないかなと感じています」

20時間未満の短時間雇用で活用できる「特例給付金」

国も20時間未満の雇用が進むような施策を考えています。厚生労働省では、障がい者雇用をより進めていくために、多様な働き方の受け入れが進むように様々な検討がされてきました。

その中で、週20時間未満の障がい者雇用に関しては、2020年の障害者雇用促進法の改正から特例給付金を支給することが決まりました(ただし、障がい者雇用のカウントには、従来どおり週20時間以上の雇用が必要です)。特例給付金の支給対象者、支給額は、以下の通りです。

【特例給付金制度の概要】
●支給対象者

支給対象となる障がい者は、障害者手帳等を保持し、1年を超えて雇用されること(見込みを含む)、また週の所定労働時間が10時間以上20時間未満(※)。

※:週所定労働時間が10時間以上20時間未満であっても、実労働時間が10時間未満の場合は対象の障がい者に含まれません

●支給金額(対象障がい者1人あたり月額※)
100人超えの事業主 7,000円
100人以下の事業主 5,000円

※:支給上限人数は、週20時間以上の雇用障がい者数によります


残念ながら、週20時間未満の障がい者雇用は、現時点では雇用率のカウントにはなりません。しかし、業務の切り出し方や人材育成、人材活用をどう考えるかで、障がい者雇用は大きく変わってくるはずです。

特に中小企業では、人手不足が悩みの1つとなっていることが少なくありません。障がい者雇用の業務を切り出そうとする前に、「会社で必要としているものの手がつけられていない業務は何か」という視点から考えると、違った視点が見えるかもしれません。

スタックスの短時間雇用に関しては、下記も参考にしてください。

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