「育児介護休業法」は頻繁に改正され、より利用しやすくなってきていますが、育児介護休業取得率が増加するきっかけのひとつとなっているのは、“以前より職場の理解が得られるようになったこと”ではないでしょうか。一方で、育児介護をしていない社員の負担が増えてしまうような企業の場合は、一部の社員から不満が出ることもあります。そういった方たちの理解も得られるようにするためには、どうしたらよいのでしょうか。今回は「仕事と家庭の両立」について、企業側の視点から考えてみたいと思います。
「育児・介護休業法」の改正で考えたい“仕事と家庭の両立”、職場全体の働き方を変えフォロー側の社員もケア

頻繁に改正される「育児・介護休業法」により、仕事と育児の両立がしやすくなっているはずだが……

女性の育児休業取得者の割合は、令和2年度で81.6%ですが、平成8年度では49.1%でした。一方、男性の割合は令和2年度で12.65%ですが、平成8年度では0.12%で、男女ともに以前よりは取得率が上がっています。女性の割合は一見、男性に比べて十分に普及しているかのように見えますが、これはあくまで「就業継続中に出産した女性に占める育児休業取得者の割合」で、出産により既に退職していた女性は分母に含まれていません。出産した女性の人数を分母にして女性の育児休業取得率を計算すると、その割合はまだ4割程度なのです。 「育児介護休業法」は頻繁に改正され、より利用しやすくなってきているはずなのに、退職せざるを得ない、もしくは育児休業の取得が困難なのはなぜでしょう。

まず、育児休業の相談・申出を受けた際の、上司や同僚からの最初の一声がポイントになります。「育児休業を取得したい」や「時短勤務を希望したい」という相談を受けた場合には、「ぜひ取得してください」などと気持ちよく答えてあげられるよう、他の社員がフォローできる体制を整えましょう。

雇用の多様化が進む今日では、家庭の事情もさまざまです。出産・育児だけでなく、介護や療養など、いつ誰に何があるか分かりません。育児休業であれば、妊娠の報告があってから実際に休業に入るまでには数ヵ月あるので、準備や対策は十分にとれるでしょう。しかし、いつ起こるか予測できない介護や療養は、準備をする時間はありません。そのような中で、優秀な社員が退職することなく勤務を継続できる体制を整備することが、企業には求められています。

仕事と育児の両立を行う社員は、限られた時間内で結果を出さなくてはいけなくなるため、必然的に効率的な働き方へと見直すようになるでしょう。育児は、子どもの世話の合間にその他の家事や用事を済ませるなど、さまざまな工夫が必要となります。これらは仕事の段取りなどにも活用できるため、育児経験は仕事にも好影響を与えます。育児休業は、「社員がマルチタスクをこなすスキルを身につけられる好機」とも考えられるのではないでしょうか。

もちろん、育児休業を取得する側の社員も「法律で認められているから当然」という気持ちではなく、日ごろから企業へ貢献することや、上司や同僚への感謝の気持ちを持つことが大切です。
内閣府「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び出産・育児と女性の就業状況について

内閣府「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び出産・育児と女性の就業状況について

育児介護休業を取得する社員にもそれ以外の社員にも「多様な働き方」を認めよう

一方で、「育児介護休業を取得している社員ばかり優遇されている」などと、一部の社員から不満が出ることもあります。職場において、他の社員たちの理解も得られるようにするためにはどうしたらよいのでしょうか。

例えば、育児休業だけでなく、療養や私的な理由(修士号や博士号、資格取得のための勉強をするなど)での休業や時短勤務が認められる「多様な働き方」ができる企業になれば、“育児休業取得者のために、業務量のしわ寄せが他の社員にいっている”などという不満を感じる方も減ってくるでしょう。

新型コロナウイルス感染症の拡大は未曽有の緊急事態とはいえ、わずか数ヵ月でテレワークや在宅勤務が一気に普及しました。「不可能」を「可能」に変えるために何ができるのか、それを考えることが将来的な企業の成長の鍵となるのではないでしょうか。「変われる企業」だけが生き残る時代は、もうそこまで来ているのかもしれません。

弊事務所の職員数は20名程度ですが、17年間に延べ7名が休業等を取得し、復帰率は100%です。私自身も育児をしながら企業経営をしてきましたので、育児する社員の気持ちも、経営者の気持ちも理解しているつもりです。そして、こういった経営ができるのは、全職員が事務所の方針を理解し貢献してくれ、職員達にも多様な働き方を認めているからだと思っています。

2021年6月に、男性の育休取得を促す改革を盛り込んだ「改正育児・介護休業法」が成立しました。2023年4月以降は、従業員数が1,000人を超える大企業に“育休取得率の公表”が義務付けられます。それまでに、ぜひ「育児休業取得率」を公表し、「多様な働き方」をアピールできる企業になっていただければと思います。

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