障がい者雇用は、身体/知的/精神と障がいの種別ごとに進められてきました。平成18年以前は、障がい者雇用率のカウントは身体/知的障がい者が対象でした。これが、平成18年に、義務化ではないもののカウント対象に精神障がい者が加えられます。そして平成30年、精神障がい者も雇用が義務化されました。このような経緯を受けて、近年、精神障がい者の雇用が増えています。精神障がい者が働く職場が増えているものの、一緒に働く同僚からストレスを感じるという声が挙がっている企業が少なくないようです。精神障がい者と一緒に働く際、企業がどう対応したらよいのかを考えていきます。
ストレスを感じずに精神障がい者と働くための3つの秘訣

一緒に働くことでストレスを感じる状況にどのように対応するか

精神障がい者と一緒に働くことで「ストレスを感じる」「困っている」という声は、残念ながら、障がい者雇用をしている企業でよく聞かれることです。

「障がい者雇用が企業の中で必要なことは、ある程度理解しているし、障がい者雇用の状況を見て、精神障がい者が増えているのもわかる。しかし、一緒に働いていると、理解し難い言動があったり、仕事の遂行力に課題があったりして困っている……。」

このような場面に直面したとき、企業はどう対応したらよいのでしょうか。

企業では、障がい者雇用を行なうことが法律で定められています。だからといって、一緒に働く社員の人が働きづらい状況があったり、負担感が多い状態が続いたりしては、職場の雰囲気や従業員エンゲージメントに影響がでてしまいます。これは、働く人にも企業にも望ましいものではありません。

このような場合、個人に負担がかかる状態にせず、問題の本質的な課題を洗い出し、その解決策を考えることが重要です。例えば、特定の社員や部門に負荷がかかるのであれば、それをサポートする体制づくりや、人事/管理部門が現場の様子を定期的に拾い上げる仕組みづくりなどが考えられます。

精神障がい者と一緒に働く社員がストレスを軽減するための3つの方法

精神障がい者と一緒に働く社員がストレスを軽減するための方法について考えていきたいと思います。

【1】組織としての障がい者雇用の必要性を考える

まず、会社としての障がい者雇用の必要性について再認識しましょう。障がい者雇用は、「障害者雇用促進法」という法律によって、一定の人数の障がい者を雇用することが求められています。組織にとって、コンプライアンスを遵守することがどのような意味を持つのか、改めて考えるのです。

また、法定雇用率を達成するというのも大事な点ですが、実際に障がい者を雇用したことによって起きた、現場の変化をプラスに捉える企業もあります。

例えば、特定のチームや課などの単体の仕事だけでなく、全体の業務フローを見直すことによって、業務プロセスの効率化が図れるかもしれません。外注していた業務を内製化することにより、コストを削減につながったケースもありました。

働き方についての変化をあげる企業もあります。具体的には、障がい者が一生懸命仕事に取り組んでいる様子を目にすることで、社内の働くことへの意識に変化があった、誰にでもわかりやすい業務設計やマニュアルを作ることで業務整備ができた、といった内容です。

中小企業などで、新規の採用を定期的に行っていないのであれば、本来は中堅にあたるような年齢や社歴の社員でもマネジメントを経験したことがないということが珍しくありません。障がい者雇用を担当することで、社員のマネジメント能力を高められたと感じた企業もありました。このような体験をさせることで、社員が成長する機会につながったり、社員の仕事に対する視点を変化させたりできる可能性があります。

社内のコミュニケーションが活性化することは、多くの企業がメリットと感じている点です。障がい者雇用の業務の切り出しをするために、今までは仕事であまり関わることのなかった部署の人たちとコミュニケーションを取る機会が増え、会社の活性化や組織風土の変革につながった組織もあります。

直接の課題とともに、少し俯瞰的に障がい者雇用の必要性やメリットについて考えてみると違う視点が見えてくることがあります。

【2】体制づくりやフィードバックする仕組みづくりを構築する

それでも一緒に働いていると、急な体調の変化や波があり、担当している業務がこなせず、他の人がサポートする状況が出てくるかもしれません。それが、頻発するようであれば、状況をヒアリングしつつサポート体制の構築を検討する、該当の障がい者社員が十分に働ける状態かを確認、情報共有する仕組みや、動けなかった場合の対応策を考えていく、といったことが必要です。具体的な対応事例は次のとおりです。

●人員配置に余裕をもたせ、精神障がいのある社員が休んでしまった場合でも特定の社員や周囲に負担にならないような体制をとる

●現場で働く場合でも、所属は人事部や管理部等にし、直接業務に関わらない研修やメンタルのための面談は人事部等が行なう

●一緒に働く社員の困りごとや悩みを人事部、管理部等でヒアリングし、対策等をフィードバックしてもらう


【3】精神障がいの特徴を知り、理解を深める

精神障がいの特徴を知り、理解を深めることも大切です。精神障がいの場合、慢性的な疾患であることが多く、服薬や定期的な通院を継続しながら、職場での配慮受けて働いている人が多数います。精神障がいの特徴を知ることで、気になる行動や症状が「わがままや怠けている」わけではなく、「自己中心的な性格に起因する」ものでもない、病気の症状の一部として強く表れていると判断できる可能性があります。

また、精神障がい者を雇用している企業でどのような配慮をしているのかを調べて、取り入れられそうなことがあれば、実践することもできるでしょう。自社以外の精神障がい者を雇用している企業を見学したり、事例を知ったりすることで、どのような対応ができるのかを考える機会にもなります。

WEBサイトでも、精神障がいの雇用事例が多く公開されています。例えば、(独)高齢・障害・求職者支援機構の「障害者雇用事例リファレンスサービス」や「障害者雇用職場改善好事例」では、障がい者雇用のハード面やソフト面で、どのような工夫できるのか、実際に取り組んでいる企業の事例や、合理的配慮の提供に関する情報を知ることができます。



理解を深める方法としては、社内研修も有効的です。特に精神障がいは、障がいがわかりにくいため、周囲の人がその症状や特性を理解しづらいことがあります。精神障がいの特徴や配慮について理解を深めることや、本人の特性などを知ることで、心配や不安を軽減できるかもしれません(ただし、当事者本人の特性などについて扱う場合には、事前にご本人の了承を得て、誰に何を伝えるのかを確認することが必要です)。

精神障がいの当事者の中には、周囲に自分の特性や症状を説明することが難しく感じることもあります。当事者本人と連携している就労支援機関などがあれば、そのスタッフの方の協力を得ながら、どのようなことが苦手なのか、またそれに対してどのような配慮があると働きやすいのかを情報共有することもできるでしょう。

職場で困っているような状況があっても、誰かが何とかしてくれるだろうという待っていても状況が改善することはほとんどなく、むしろさらに悪い状況になることが多いものです。職場で一緒に働く中でストレスを感じることがあるならば、その課題を整理して解決していくことが大切です。
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