この数年、テレワークや時短勤務など多様性のある働き方が浸透しています。特に、昨年の新型コロナウイルス感染拡大以降、働く環境は大きく変化し、その流れが加速しました。これを受けて、障がい者雇用においても、テレワークという働き方の可能性や、多様な働き方によって雇用の機会が増えることへの期待が高まっています。そこで、3回にわたり、障がい者雇用におけるテレワークの現状やテレワークに取り組むことのメリット/デメリット、テレワークの進め方などについて考えていきたいと思います。今回、第1回目は、障がい者雇用におけるテレワークの現状について取り上げます。
障がい者雇用における「テレワーク」の現状

障がい者雇用におけるテレワークの現状

「働き方改革」が進められる中で、障がい者雇用においても多様な働き方が受け入れられつつあります。その1つとして注目されているのが、テレワークという働き方です。実はコロナ禍以前の平成28年度より厚生労働省は、「障がい者雇用の分野でも多様な働き方の推進や職場で働くことが難しい人の雇用機会を広げていくこと」を目的とし、障がい者を対象としたテレワーク(在宅勤務)の推進に関するモデル事業を進めており、平成29年に「障がい者の在宅雇用導入ガイドブック」(※1)や、「テレワークで障がいのある方をより企業戦力に!」(※2)という導入事例集を発行しています。

また、厚生労働省がまとめた資料「障害者雇用における 就労支援施策について」(※3)には、実際にテレワークで働いている障がい者雇用の事例として、次のようなケースが紹介されています。

【事例1】重度の身体障がい者がテレワークで広報業務に携わっているケース
・徐々に筋力が低下していく難病「脊髄性筋萎縮症」で、体が動かせる範囲は手先でマウスを数センチ動かせる程度で、通常のパソコンのキーボ―ド入力は難しい状況。また、夜間は人工呼吸器を使用。
・入院し生活介助を受けながら、週10数時間程度のテレワークで勤務している。
・業務内容としては、広報業務として、メールマガジンやSNS、ブログの執筆や編集を担当。

【事例2】通勤が難しい地域で、障がい者をテレワークで多数雇用しているケース
・首都圏に本社のある企業だが、求める障がい者の採用が厳しくなっていることから、地方の障がい者をテレワークで雇用したいと導入。
・業務内容としては、グループ各社の情報サイトの審査等を担当している。
・現在までに約30人を雇用し、さらに採用を増やしていく予定。雇用している障がい種別は、精神・発達障がい者の方を中心に雇用。

【事例3】半身麻痺の身体障がい者がテレワークにより就労できたケース
・左半身麻痺がありパソコンは片手で操作。
・通勤が困難であることから週3日の在宅と1日の出社を組み合わせて勤務。
・キュレーション業務(インターネット上の情報を収集しまとめる)を担当

もともとテレワークは、自宅で仕事ができることから、通勤することが難しい重度の身体障がい者や、地方にいて企業で働く機会が少ない障がい者にとって、働く機会を得やすい方法として注目されてきました。しかし、新型コロナの影響でテレワークという働き方が社会に浸透する中、このようなケース以外でもテレワークで働ける機会が広がりつつあります。

また、何よりも障がい者の雇用枠で働いている人たちが、テレワークという働き方に関心をもっていることがうかがえます。障がい当事者の方のアンケート結果(※4)からも、コロナ禍で半数以上(51.6%)が完全もしくは通勤併用でテレワークによる就業をした経験がありました。また、今後の理想の働き方として在宅勤務を回答している人も半数(50.1%)を占めています。



一方で、企業側からはテレワークを導入することに対して、障がい者雇用に関係なく「うまくいかない」「どのように進めていけばよいのか」という声もよく聞きます。障がい者を対象としたテレワークを行っていくには、テレワークを行なう上での環境面・制度面の整備とともに、障がい特性にあわせた雇用管理を行なう必要もあります。

障がい者をテレワークを成功させるために、どのようなことが必要なのかについて見ていきましょう。

テレワークを障がい者雇用で成功させるために必要なこと

「テレワークがうまくいかない」という声があるときは、まず
●障がい者雇用だからうまくいかないのか
●テレワーク自体の制度や社員が取り組むことに、まだ慣れていないからなのか

のどちらが課題かを見極める必要があります。

テレワークを導入している企業の話を聞いていると、障がい者雇用だからというよりは、テレワーク自体の体制が不足していることが多いように感じます。また、「うまくいかない」には、「テレワーク」という環境に合わせた仕事ができる体制になっていない場合と、チームとしてのコミュニケーションがうまくいってないことなどが原因にあるようです。現状を把握して、テレワークを進める上での問題点が何かを明確にし、問題解決していく必要があります。

テレワークが成功している企業では、「テレワークをしたい人はどうぞやってください」という一見自由度があるように見えて、実は何も決まっていない方法では、うまくいかないことを理解しています。テレワークしたい人だけが取り組む方法では、一時的には回るかもしれませんが、社員がそれぞれの方法で進めてしまうために、長期的には業務が噛み合わなくなるのです。テレワークに取り組むときには、組織としてのしっかりとしたルールを決めることが欠かせません。

ある企業では、チャットの使い方として、短くてもいいので、問いかけには必ず応対することを決めているところがあります。発信している側からすると、既読になったから伝わったものと思いがちですが、相手の状況がわからないこともあります。このような基本のルールを決めておくと、応対の個人差を減らせることができるかもしれません。

テレワークでうまく仕事ができている会社では、次のような点を明確にしています。
●仕事時間、内容の管理
●人事評価の基準を明確にする
●社内のコミュニケーションを図る方法を準備しておく
●セキュリティ管理のルールを決める
●働く環境の整備


これまでのテレワークは、自己管理できる人が行なう仕事のスタイルとして考えられることが多かったように思いますが、これからは、そういう人だけでなく、誰もがテレワークで仕事をする時代といえます。仕事の進捗や成果をどのように管理するのか、働く時間のルールなどと合わせて定めていくことが必要です。

例えば、1日の仕事の成果については、日報ツールなどの活用や、成果物を提出することによって、働いたことを可視化していくことができるかもしれません。すでにテレワークを導入して成果をあげている企業が活用している、スケジュール管理やチャットといったツールの活用を検討することもよいでしょう。

また、日々の業務でどこまで行うか、目標や期限を決めてお互いに確認しておくことも大切です。共通認識として持っておくべきなのは、テレワークという環境の中で、お互いに相手の姿が見えないことを意識すること。同じ職場の中で仕事をしていたときには気づけたことでも、テレワークでは、周囲が気づきにくくなります。自分からコミュニケーションをとること、悩んでいることや困っていることがあれば自分から発信することなどは、障がいの重さに関わりなく重要なことです。

特に、障がい者雇用でテレワークを進めるときには、健常者が当たり前に取り入れている情報が、何らかの配慮の必要な人たちにも、同じように受け取れているかを想像することや、情報を把握できているか確認すること障がい当事者の社員からフィードバックしてもらうことが大事になります。加えて、困っている状況が発生した際に、それをすぐに伝えられるような職場の雰囲気や信頼関係を築いておくことも必要です。

確かに、テレワークで障がい者雇用を進めることは、今までの雇用とは、考え方や実務の点で変更が必要になることも多くなります。しかし、テレワークを進める上でのポイントをおさえ、障がい特性に適切に配慮することができれば、新たな障がい者雇用の機会につながるものとなるはずです。
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