障がい者雇用で、障がい者に業務を分担するイメージ
「障害者法定雇用率」が令和3年3月1日から引き上げられ、民間企業の雇用率は2.2%から2.3%となります。新たに障害者雇用率の該当になった企業、担当者が、障がい者雇用をはじめるにあたり知っておくとよいこと、進めていくために必要なことについて、4回にわたりお伝えしています。

障がい者雇用を進めるときに多い悩みの1つが、どのような業務を創出したらよいのかということです。3回目の今回は、「障がい者雇用の業務を切り出すときに意識しておきたい視点」や、「どれくらいの業務量を確保すればよいのか」について見ていきます。

障がい者雇用で業務を切り出すときに必要な視点

障がい者雇用を考えている企業の話を聞くと、「雇用率を達成できていない」という理由に立脚し、雇用推進を考えているケースがほとんどです。もちろん、障がい者雇用は「障害者雇用促進法」で定められていますし、法律遵守をする上で大切なことではあるものの、「雇用すること」だけに注目していると、考え方や視野が狭くなりがちです。

障がい者雇用では「業務」だけに着目していると「この仕事は障がい者が行えるものだろうか……」と、障がい者雇用担当者の、それまでの経験値やイメージで仕事内容を考えてしまうことが多く、気づかないうちに思考が限定されてしまうことがあります。そうならないためには、「障がい者雇用」単体に注目するのではなく、「組織全体」を見て業務を考えていくことが大切です。

例えば、社内全体を見ながら、次のような視点から業務を考えることを検討できるかもしれません。

・今いる従業員が、より活躍できる体制作りができないか
・従業員の福利厚生につながるものはないか
・従業員が、就業時間以外に行っている業務はないか
・人手が欲しい業務はないか(定期でなくスポットでも可)
・外注している業務や、派遣社員・アルバイトが行っている業務はないか
・社内で残業が多い部署・部門の業務のうち、一部を担うことができないか
・テレワークや在宅就労を推進する中で、業務内容や業務フローから活用できるものはないか


また、組織全体に視野を広げることで、今までやりたいと思っていたけれど、マンパワー不足といった理由で取り組めていなかったことがあるならば、それらと絡めて障がい者雇用を考えていくことができるかもしれません。

今までは「障がい者雇用の業務」というと、バックオフィス業務や清掃、印刷、軽作業などが中心となっていました。しかし、これらの業務の多くは、コロナ禍によって職場に出勤することが難しい状況になったとき、時短や休業などの影響を受けてしまうことがありました。

さらに、社会全体で「働き方」が変化する中で、求められる業務も変化しつつあります。テレワークでも取り組める業務が増えていき、オンラインに対応したサービスの需要が伸びています。また、このような変化に加え、企業ではDX(デジタル・トランスフォーメーション)が進み、既存の価値観や枠組みのイノベーションも見られます。

このような変化を見ていくと、今まで行われてきた障がい者雇用の業務や、定型的なバックオフィス業務などから業務を創出することと同時に、「プロフィット」に近い業務を切り出すことを考えることが大切になっています。特に、営業やマーケティングなどの分野は、本業のプロフィットに直接関係し、貢献できる業務です。これらの分野から業務を切り出すことが、企業・組織に求められているといえるでしょう。

障がい者雇用では、どれくらいの業務を確保すればよいのか

ところで、障がい者雇用を行なうには、どれくらいの「仕事量」を確保していけばよいのでしょうか。「障がい者雇用をどのように進めていくのか」という方針は、企業ごとに異なりますが、「障害者雇用率」のカウントを意識しているのであれば、そのカウントに見合う勤務時間に応じた「業務量の確保」は、どの企業でも考えていく必要があります。

●障害者雇用率のカウント方法


障害者雇用率のカウントについてのルールは、基本的には「1人1カウント」となります。このカウントでの労働時間は、「週の労働時間が30時間以上」となります。なお、「重度身体障がい者」と「重度知的障がい者」の場合は、「1人を2人分(1人の雇用に対して、2人雇用しているとみなす)」としてカウントします。

短時間労働の「週20時間以上30時間未満」の場合には、労働者1人に対して「0.5カウント」となりますが、「短時間重度身体障がい者」と「短時間重度知的障がい者」は、「1人」としてカウントします。
ですから、まずは、「雇用する障がい者1人につき、週20時間〜30時間の仕事を作ること」を目標として、業務の切り出す際の「目安」にしてみるとよいでしょう。

現在は、精神障がい者の雇用を促進する「特例措置」がとられており、要件を満たせば【短時間労働者の精神障がい者のカウントが1ポイント】とすることができます。特例措置の期間は、平成30年4月〜令和5年3月で、5年間だけの時限措置となっています。詳細は、下記を参考にしてみてください。

【参考】HRプロ【令和5年までの時限措置】精神障がい者かつ短時間労働者の雇用算定が0.5から1カウントに

業務設計のポイントは「障がい者が1人でも働けるかどうか」を意識すること

いくつかの業務や、どれくらいの仕事量が必要なのかがわかってきたところで、「業務設計」を進めていきます。多くの場合、社内に既にある業務を、今まで一般の従業員が行ってきたのと同じ状態で、障がい者の業務とすることは難しいものです。このようなときには、仕事内容をカスタマイズした上で業務設計をしていきます。

社内で人材を求める業務が見つかるかもしれません。一方で、障がい者にそのすべての業務を担ってもらうことは、経験値や専門性の高い判断が必要なために難しいと感じることもあるでしょう。そのようなときには、その業務を「プロセスごとに分解」していきます。そのプロセスのすべてを任せるのではなく、雇用する障がい者の特性に合っていたり、こなせる難易度に見合っている「部分」を担当してもらったり、ということができるかもしれません。

例えば、「営業」ひとつとっても、今まで業務を担っていた従業員の仕事を、すべてそのまま障がい者が1人で遂行することは難しいかもしれません。しかし、以下のように業務を分割した場合には、サポートしてほしいと感じる人もいることでしょう。

・顧客リストの整理
・クライアンの事前リサーチ
・資料の修正


上記は、実際に、営業を担っている従業員の方にヒアリングして、「実は、手伝ってほしい」と言われることが多い業務の一部です。

また、大切なのは、業務を切り出した後に障がい者が働ける仕組み、つまり、「障がい者が1人でも働ける仕組み作り」なのです。業務のチェックや判断に迷うような状況で、誰かに質問する必要があるときには、随時受け付けるよりも、「時間を決めて確認作業を行なう」、「印をつけておいて、後でまとめて確認する」というような「業務の流れ」を作っていくことができるでしょう。このような業務フローの作成は、担当者が異動や退職した場合にも役立ちます。

「業務上の確認」は必要なこともあります。しかし、業務バランスや他の業務への影響を考えないで設計をしてしまうと、障がい者と一緒に働く担当従業員の手間や負担が増えてしまい、本来の仕事に支障が出てしまうケースも少なくありません。障がい者従業員が、「1人でも滞りなく業務をまわせるようになるための仕組み作り」を意識しておくことは、「継続的に障がい者が働ける環境を整えること」につながります。


「障がい者雇用の業務の創出」について考えてきました。組織にとって求められる業務を見つけ、それは「障がい者が一人でも遂行できるかどうか」を意識し、業務設計していくことは、企業・組織への貢献度も高いものとなります。

また、業務選定は、障がい者の「働きがい」や「モチベーション」にも大きく影響します。障がいの有無に関わらず、誰でも、必要とされる業務に携わり、自分の働きが組織に貢献できていると感じると、「仕事に対する満足感」や「組織に所属することの意義」を見出しやすくなるものです。障がい当事者にとっても「やりがい」のあるものになるでしょう。
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