今回は、一橋ICS(一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻)に在籍中の留学生3名にインタビューをさせていただいた。韓国・タイ・ドイツ出身の才子・才女で、大前提として日本が大好きで、日本にいることを選択している方たちだ。彼・彼女たちが日本の文化の疑問や、就職・働く上での課題、不安を語ってくれた。出てきた課題のすべてが「日本のダメな部分」だったわけではないが、外国の方たちから見れば「非常に変わった文化」だったことは間違いない。この課題に真摯に向き合うと、改善すべきところや、特徴的なところが見えてくる。彼・彼女らの言葉の先に、「日本ならでは新しいダイバーシティマネジメントを構築するヒント」が隠されていると感じた。私も日本人を代表する思いでしっかりと耳を傾けた。
第23話:日本ならではの新しいダイバーシティマネジメントを構築する

日本のコミュニケーションスタイルの特徴

稲垣 今日は一橋ICSで在学中のお三方とディスカッションしていきたいと思います。まずは、簡単に自己紹介をお願いします。

アルム チェ・アルムと申します。韓国からまいりました。日本に住むのは2回目で、最初は2008年です。早稲田大学に通うための来日でした。卒業後は韓国で3年ぐらい働き、もう1度日本に来てICSに入学しています。

ドロテア 私は、得能ドロテアと申します。私はドイツ出身で、夫は日本人です。8年前に日本に引っ越してきて、5年間は学校で正社員として働き、去年からICSに入って、今はコンサルティング会社でインターンをしています。

プーリット キントン・プーリットと申します。タイからまいりました。大学の卒業後からずっとタイの日系企業で働いています。その後、日本で貿易関係の会社に2年程勤めてICSに入学しました。

稲垣 ありがとうございます。では、皆さんが「日本の良いところ」だと思うのは、どういった部分でしょうか。

プーリット ご飯が美味しい。日本の和食が好きです。

ドロテア とにかく美しいです。食事や建物、着物の文化も美しくて好きです。

アルム 日本は、物のクオリティが高いですね。
一橋ICS在籍の留学生・アルムさん

アルムさん

稲垣 なるほど。では、人に焦点を当てると、日本人の性格や習慣など、内面的なところはどうでしょうか。

ドロテア どんなに小さいところにも注目するところ、それがすごく好きです。例えば、何年もかけて漆の茶碗を作るような。そうやって何か熱心に1つのことを行う。日本人には結構そういった傾向があり、好ましいと思います。

稲垣 ドイツの方も、近いような気がしますが、いかがですか?

ドロテア 日本ほどではないです。エンジニアだったらそういう傾向はあるんでしょうが、それ以外はあまり感じないですね。とにかく「早い」という感じです。物作りでも、ささっと作ったら「はい、でき上がり」という感じです。

プーリット 日本人は「相手の気持ち」を尊敬していますね。相手の時間に対してもリスペクトがある。そういうところが好きです。そして、日本人は頑張り屋さんが多いと思います。「できなくても頑張ろう」と、モチベーションを保てますね。タイ人と違うところです。

稲垣 タイは、私がかかわりのあるインドネシアと似ているかもしれません。気候が暖かいので、穏やかな性格なのかもしれませんね。日本には四季があるから計画的に物事を進める習慣がある。アルムさんは韓国と比べて日本の好きな性格や習慣はありますか?

アルム 礼儀正しいところが好きです。だから、誰と話してみても、気分が悪くなるような経験はあまりないですね。

稲垣 韓国人はどうですか?

アルム 韓国人の方が、率直にズバッと物を言うことが多い性格ですね。わかりやすい部分もありますが、コミュニケーションがはっきりしすぎていて、ちょっと驚く時もあります。

稲垣 これはみなさんもご存じのコンテクストですね。エリン・メイヤーの『The Culture Map』によると、アメリカやドイツは「ローコンテクストコミュニケーション」で、直接的な表現を好み、日本人は「ハイコンテクストコミュニケーション」で、間接的な表現を好みます。韓国もハイコンテクストですが、日本と比較すると「はっきり意見を伝える」傾向が強いんだと思います。このコミュニケーションスタイルをマイナスに感じることもありますか?

アルム ちょっと曖昧に感じる部分がありますね。

稲垣 日本人のコミュニケーションスタイルに対して困ったことはどんなことはありますか?

ドロテア 仕事をする時、時間がかかりがちなところですね。相手の気持ちを傷つけないように、大事なポイントでもはっきり言わない。しかし、実は「やりたい」とか、「やらないといけない」とか思っている。そこを読むという手間が、結構かかります。

稲垣 「本心をちゃんと伝えてくれればすぐに終わるのに、それを伝えず、遠回しに言う」ということですね。例えばこんなエピソードがあるんです。ある英会話スクールに勤めているアメリカ人が休暇後ヒゲを伸ばして職場に行ったら上司から「わー、サンタクロースみたいなヒゲだね!」と言われた。これは、言葉の内に「ヒゲを剃りなさい」という指摘をふくんでいたというわけです。彼は日本に長く住んでいるのでピンときましたが、「直接言って欲しかった」と傷ついてもいました。来日してまだ日が浅い外国の方からすると、このやりとりは、もはや暗号でしょうね(笑)。

ドロテア 私の3歳の娘はすごく元気で、叫ぶことが多いんです。ある日病院で、「静かにしなさい」ではなく「元気な子ですね」って言われました。相手の方の表情を見ると、静かにしてほしいと思っているのは、私にはわかったのですが、直接言ってほしいな……という気持ちになることはあります。

稲垣 その時の雰囲気とかシチュエーションとか表情で、「今は注意をされているんだ」と「察する」のが日本の文化なんですよね。外国の方には分かりづらいと思いますが、ドロテアさんはそのような表現でも察知できるんですか?

ドロテア 場合によりますね。どっちかよくわからない場合は、笑ってごまかします。
一橋ICS在籍の留学生・ドロテアさん

ドロテアさん

稲垣 アルムさんも感じることはありますか?

アルム 特に「ノー」と言う時に、表現が長くなりますね。例えば、私は何度もクレジットカードの申し込みを断られたんですが、通知の文面を読んでも、最初はイエスかノーなのか、わからなかったんです。

稲垣 どんな書き方だったんですか?

アルム 「~~が難しいです」と書いてあり、それが「ノー」だということがわかりませんでした。

プーリット 「今回は見送りいたします」もわかりにくいですね。「ほかの書類を送ってくれる」という意味かな? と思ったら、「ノー」という返事でした。

稲垣 間接的な表現であるハイコンテクストなコミュニケーション文化は、自社独自の強みとなる「暗黙知」を作り上げたり、表現に「奥行き」を持たせたりする点では、日本の良い文化でもありますが、文化の異なる人とのコミュニケーションでは、「使い分け」が大事なのかもしれませんね。

日本企業で働く不安

稲垣 ICS卒業後は日本で働きたいですか?

プーリット はい。しかし外資がいいです。

稲垣 なぜ外資系がいいのですか?

プーリット ずっと日系企業で働いてきましたが、キャリアパスが見えにくいからです。歳上の人が、なぜ成績もよくないのに主任になっているの? といったことが、ずっと自分の中で疑問として残っているんです。商社に勤めた時に、営業ですごく頑張って成果を残したんですが一向に出世できませんでした。その一方で、自分より歳上の日本人は、全然成果を残していませんでしたが出世していました。日本の企業社会では、「頑張って成果を残したら必ず出世できると限らない」と、身をもって感じています。

稲垣 なるほど。その思いは会社に伝えました?

プーリット 伝えました。「来年には必ずあなたを昇進させる」と言ってもらいましたが、私は来年ではなくて今昇進させてほしかったので、会社を辞めました。

稲垣 外資系の方が、よりキャリアパスがわかりやすいということですね。そのような経験をしても、日本で働く理由は何でしょうか?

プーリット やっぱり日本が好きだからですね。ご飯は美味しいし、日本人の性格もすごく良いと思っています。

稲垣 なるほど。「日本文化は好きだけれど、日本企業のキャリアパスは納得いかないから、日本の会社では働きたくない」と。
一橋ICS在籍の留学生・プーリットさん

プーリットさん

ドロテア 私も日本に住むのは好きなので、ドイツに帰ることは考えていません。ただ、日本の会社で働きたいかどうかは、正直なところ、まだわからないです。

稲垣 日本企業で働くうえでの「不安」とは、どういったところですか?

ドロテア 2つあって、第1に「残業が多い」ところです。ドイツ人はとにかく5時に帰るので。意味があって必要な残業だったら絶対にやりますが、ただ、ほかのみんなが残っているからといって残業するのはすごく嫌です。それは絶対にやらない。

稲垣 近年ではだいぶんなくなってきましたが、上司が残っていると自分も残業しなきゃいけない雰囲気になる、という同調圧力はいまだにあるんでしょうね。

アルム それは韓国も同じですね。だから、この「残業の文化」は理解していますけれども、私もやりたくはないですね。

稲垣 韓国は儒教の国だから、「目上の人に配慮する」という習慣が、日本と同じような残業といった仕事文化に影響しているんでしょうか?

アルム はい。ただし、両国だけを比較してみると、日本の方がその意識は強いと思います。サムスンなどのグローバル企業は、ルールがはっきりと整備されています。

稲垣 ドロテアさん、2つ目の「不安」は何ですか?

ドロテア 私が女性ですから、日本会社は女性、特に子供をもっている女性にとっては働きにくいという話を結構聞くので、それもちょっと怖いです。

アルム それは私もちょっと不安ですね。女性として、働くには適しているのかどうなのか。将来、育児と仕事を両立できるか、それをサポートする環境になっているか……ちょっと心配です。

稲垣 そうですね。ジェンダーに関するダイバーシティについては、日本もだいぶ変わってきたけれど、まだまだですね。また、昇給昇格や残業への考え方などは、昔は家族経営で強い組織を作っていたことが要因でしたが、もうそこは進化しないといけないところなのでしょう。
第23話:日本ならではの新しいダイバーシティマネジメントを構築する

就職活動の不安

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