今月は、「多様性がもたらす日本企業の革新」というテーマで5日間にわたり実施した「特別講演会」最終日の様子をお届けします。元ラグビー日本代表キャプテンの廣瀬俊朗さんをゲストにお迎えした対談レポートです。廣瀬さんは、5歳からラグビーをはじめ、大阪の北野高校、慶応大学、東芝、そして日本代表としてプレーされました。特に皆さんの記憶に強く残っているのは2015年の「ラグビーワールドカップ イングランド大会」のメンバーとして収めた歴史的な勝利だと思います。引退後のご活躍も目覚ましく、ビジネス・ブレークスルー大学院でMBAを取得し、株式会社HiRAKUを設立。ほかにもさまざまなプロジェクトに参画されています。2019年放送のTBSのテレビドラマ「ノーサイド・ゲーム」でも、チーム不動のエースという主役級の役柄で出演されていました。そんな廣瀬さんと今回は、「ラグビー日本代表をモデルとした、多国籍出身者によるチーム作りとは」というテーマで語り合いました。

日本の重要な文化を海外にルーツのある人に、どう伝えていくか

ラグビーがその他のスポーツと違うところは、日本代表になれる権利を持つには3つの道があるということです。

・出身地が日本である場合
・ご両親もしくは祖父母のうち1人が日本出身者である場合
・日本に3年以上継続して移住している場合

この方々が日本代表としてエントリーができるそうです。こうした条件ですので、多くの外国籍の方が代表チームにいて、非常に多様性のある組織になっています。この組織を、廣瀬さんはキャプテンとして、エディー・ジョーンズ監督とともにまとめ上げてきたわけですが、そこには、日本企業が学ぶべき「ダイバーシティ&インクルージョン」の要素が詰まっていました。


稲垣 今回、5つのご質問を用意いたしました。まずは、お手元の「〇×」の札をあげて回答していただいて、その理由を後で詳しくうかがいたいと思います。よろしくお願いします。

廣瀬 了解です。よろしくお願いします。
廣瀬俊朗さんが〇×の札をあげている様子
廣瀬俊朗さん 〇×の結果
稲垣 ご回答ありがとうございました。ではさっそく、1つ目から行きましょう。「自分の過去を振り返ると、異文化に適応する力が高くなった、と感じる時期がある」。これは「〇」とあげておられました。大体何歳くらいのことで、どのような経験ですか?

廣瀬 これは、外国にいる時に限らず、国内でもありました。僕は大阪出身なので、東京は人も環境も「異文化」に等しかったです。田舎の公立高校出身なのですが、慶應大学に入ったら、幼稚舎から通っているお坊ちゃんもいる。これも完全に異文化体験でしたね。入学当初は衝撃的でした。

稲垣 すごくよくわかります。私も関西で育ち、仕事で東京に来たのでカルチャーショックが大きかったですね。

廣瀬 その後の異文化体験としては、やっぱり外国人選手との触れ合いですね。外国人監督エディー・ジョーンズさんなんか、まさにそうでしたね。

稲垣 エディー監督とのやりとりで感じたカルチャーショックで、特に覚えているエピソードはありますか?

廣瀬 大敗した試合の後の記者会見で、エディー監督が隣ですごく怒っていらっしゃって、最後に僕がコメントを求められた時のことですね。既にエディーさんが怒り心頭で、すべてのことを話し終わっていたので、これ以上、僕には何も言うことがないなと思って、ちょっと苦笑いしたんです。その瞬間に「It’s not funny!This is the problem of Japanese rugby!!!(全然面白くない! これが日本ラグビーの問題だ!!!)」と、めちゃくちゃ怒られてしまって、「うわー」と思いました。

稲垣:こういう場面で笑うから日本のラグビーは駄目なんだ! と……。

廣瀬 そうです。あと、日本人は割と「イエス/ノー」をはっきり表現しませんし、あまり自分の意見がない。ミーティングが終わってからブツブツ文句を言って、後から「俺、実はこう思うんだよ」というのが結構多いですよね。でも、外国人の選手は、ミーティング中に「イエス/ノー」をきちんとはっきりさせます。

稲垣 特に、異文化というか多様性のある人達が所属する日本代表に入って、そういった新しい価値観を学んだという感じですか。

廣瀬 そうですね。でも、学んだ一方だけかというと、そうでもないとは思います。僕達の規律――時間を守るとか、めちゃくちゃ耐え忍んでハードワークをこなすなどということは、トンガやフィジーの人はあまり得意ではありません。でも、そこは僕達流に合わせてもらうことによって彼らのポテンシャルが最大限についたと思っています。必ずしも、日本が下だと思う必要はなくて、「お互いに良いところを認め合う」というスタンスが大事かなと思います。

稲垣 それについては、ぜひ3番の問題にも関連してうかがいたいのですが、先ほどおっしゃった「時間に対する感覚」など、日本独特の文化がありますよね。海外出身の選手たちも日本から学んでいることがあるというお話ですが、「日本独自のやり方」を徹底したところはどんなことですか。

廣瀬 時間については、すごく徹底しました。そこは僕達が大事にしているルールです。なぜなら、試合は「80分」と決まっている中でパフォーマンスをしっかり出さないといけないのに、時間にルーズな人がそんな舞台で最大のパフォーマンスが発揮できるわけがない。

稲垣 時間について、日本人選手の方が、集合時間をきちんと守る傾向があるんですか?

廣瀬 はい、日本人の方が守ります。ニュージーランド人とかオーストラリア人もちゃんと守りますが、「アイランダー」と呼ばれるフィジーやサモアの人は、どちらかというとちょっとゆっくりとした人生を送っているので、時間厳守は得意ではない。

稲垣 「徹底した」とは、どのようにしたんですか?

廣瀬 誰かが一緒についてあげるとか、「一緒に行こうよ」と誘うとか。自分は早めに集合場所に行って、来てないなと思ったら、ちょっと見に行くとか。ルールに慣れるまで、最初はこういった感じのやり方でもいいのかなと思いました。

稲垣 なるほど。彼らフィジーの人達から、「なんでそんなに時間を守らなきゃ駄目なの?」という戸惑いや疑問は出なかったんですか?

廣瀬 多少はあったかもしれませんね。しかし、そこは「僕達が大事にしているルールだ」と説明をしました。妥協するべき点というか、譲り合うところと譲らないところというのはきっちり線引きする必要があります。

先ほど「目的意識」というお話もありましたが、「これはなんのために必要で、将来、僕達はどんな世界を作りたいのか」というところまで踏みこんで話をすれば、僕らがただ単に嫌がらせをしているとか、強制的に日本のやり方に従わせようとしている、というふうに受けとられることはないんじゃないかなと思います。

稲垣 なるほど。では、そうした説明に対して衝突や反発みたいなことは、あまりなかったですか。

廣瀬 そうですね。あと、この衝突が起きる原因をつきつめると、人間関係といった根本的なところに行きつくのかなと思うので、まずはいい人間関係を築いて、そのあとに、「このルールを守ることは大事だから、ちゃんとやろうよ」って伝えたら、「そうだね」と納得してもらえるんじゃないでしょうか。
ラグビー競技場

「How」ではなく、「Why」を握れ

稲垣 いったん設問が戻って、2番目に行きましょうか。日本代表のチーム内で、「多様性がぶつかり合ったことがマイナスに働いたことはなかった」ということですが、「ぶつかったこと」自体はあったんでしょうか?

廣瀬 はい、もちろん。多様性のあるチームでしたので。正直、これはちょっと迷いました。確かにいろいろな国の人が集まることによって、「1つになる」には時間はかかりました。いわゆる、空気で感じ取る「阿吽の呼吸」のような、「なんとなくだが、こうだ」というポイントが、日本人だけなら一緒です。これだと、ローリスク・ローリターンだと僕は思っているんですよ。

ただ、多様性があるといろんなバックグラウンドの人がいろんな意見を言うので、まとまるのに結構時間はかかるんです。でも、時間がかかった分だけ絆も深まりますし、さまざまな意見が出てくる中で、それこそ「自分達だけの当たり前」に気づくこともある。良い部分を吸収して化学反応も起こります。衝突もあったけれど、結果的にはプラスに働くことが多かったんじゃないか、という気がしています。

稲垣 ラグビー日本代表は、選抜されてからワールドカップに出場するまで、どれくらいの期間、メンバーたちと一緒にいるんですか?

廣瀬 2015年の代表チームですと、120日ちょっとくらいですね。一緒に合宿をして、ワールドカップ期間は40日〜50日くらい一緒、という感じでしたね。

稲垣 すると、1年間のうち160〜170日間、一緒にいるわけですか。企業で例えると、日本企業の稼働がだいたい年間240日くらいですから、週3〜4日くらい稼働している感じですね。そう考えると、一緒にいる時間は多いですね。

廣瀬 実は、その点は「ラグビーが恵まれている」といわれているところでもあって。例えば、サッカー日本代表は、少しの間しかメンバー全員で集まれないんですよね。パッと集まってパッと試合をする。なかなかチームが作れない、という話も聞きます。

稲垣 そういった多様性のある人達と「ワンチーム」になっていくためには、時間の長さも大事ですか?

廣瀬 そうですね。やはり、合宿で同じ時間を過ごして、同じご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、寝て、また練習して……みたいな。「そこは特別なのかな」と思うところはありますね。ただ単に、集まって遊んでいるわけじゃなくて、割ときついハードルをみんなで乗り越えていくので、そういったところから絆が生まれるのだろうと思います。

また、僕達が掲げていた最終的な目標・世界観は、チームメンバーの誰にとってもすごく誇らしくて格好良いものだったので、「それに向かって頑張ろう!」と一丸となった意識もあると思います。

稲垣 廣瀬さんのご著書には、『大事なものは大義だ。勝つチームには大義が必要だ』と書かれていましたね。「憧れの存在になる」というのが、1つの大きな旗印だったと思うんですが、そこは、メンバーみんなが賛同してコミットしたような、いわゆる「大儀」になったんでしょうか?
廣瀬俊朗・著書『なんのために勝つのか』
廣瀬 そうだと思いますね。堀江選手は「ちやほやされたい!」って、テレビでも言っていましたけど、そんなの感じで決めていいんです。2019年日本代表を見ていても、そういったところはありますよね。「勝つためにやっている」というよりも、「もっとラグビーが広まって、ラグビーをプレーする人が増えてほしいから、自分が頑張ろう」という意識。それがしっかりと根付いているんじゃないかなと思います。それを、「トップダウン」ではなくて、多様性も含めたメンバー、現場のみんなで考えてきたことが大変大きかったと思っています。

稲垣 それは、企業経営の「ミッション・ビジョン・バリュー」でいうと、「ミッション」に近いのかなと思いますね。表現が合っているかどうかわかりませんが、どういった工夫をして、そのミッションに共感をしてもらい、チームを引っ張っていったんですか?

廣瀬 まず、「みんな楽しく幸せに生きたい」というのは、人類共通の思いなんじゃないかと思っていまして。これを共通認識にした上で、チームに落とし込むように話をしました。「僕らはラグビーの日本代表で、僕らのプレーや勝利が日本のみなさんに喜んでもらえる。こんな幸せなチームは他にないじゃないか」と。そして、「そのチャンスがあるのは僕達だけなんだから、この幸運なチームをさらに今までにないものにして、みんなに喜んでもらえたら、ものすごくハッピーじゃない? どう思う?」といったことを言うと、大体みんな、「そりゃそうだよね」と腹落ちします。

「意識の共有」ができるよう、善人に語り掛ける。さらに、リーダーがことあるごとに言う。こういうふうにして、少しずつ築いていったという気はしますね。

稲垣 なるほど。「『みんなで幸せになりたい気持ちを誰もが持っている』ということに対しては、絶対に全員『イエス』だよね」と。それを言葉にして確認することから始める。

廣瀬 僕らができる「1番の幸せ」って何だろう? とか、僕らは日本代表として、誰に幸せを届けられるんだろう? とか。そうすると、「それは、今応援してくれているファンの皆さんだし、注目し、広めてくれるメディアの人だし、ご飯を作ってくれる人もそうだ。僕らが頑張ることによって、あらゆる人に「幸せ」を届けられるんじゃないか。それを届けるために、最大限僕らはやろう」と。だから勝たないといけない。

勝つため、売上を上げるためにやるんじゃなくて、「勝つ理由」ができるんですよね。これを共有・共感してもらえれば、外国人か日本人か、なんていうことはもう関係ないんだと思います。共有・共感が大事。その1番間違いない方法は、やはり、「why」を握ることなんですね。

稲垣 「なぜやるのか」を考える。その理由をそれぞれが握れれば、結果的に強いチームになっていく、ということですよね。

廣瀬 そうです。「how(どうやってやるか)」では、多少甘さがあっていい。みんなそれぞれのやり方があるんです。最終的に「why」に向かっている中の「how」だから、それでいい。でも、「how」の段階を強制しすぎると息苦しくなってしまう。

稲垣 「why」はしっかり握って、「how」はある程度まで個人の裁量に任せてもいいんじゃないか、と。

廣瀬 「ちょっと」ですけどね。それぞれに、ちょっとは任せてもいいんじゃないか。もちろん「ジャパンウェイ」で、ですけれどね。そこは、お互いに様子を見ながら、なんですよ。周りの様子を見つつ、とはいっても、意外とパフォーマンスが出るものなんですよね。

稲垣 その「ちょっと」というところが、また1つのミソだと思うんですよね。

廣瀬 はい。この「ちょっと」には、やはり個人差があると思うんですよ。一口に「how」、「やり方」と言っても、日本人の中でもいろいろありますよね。「日本人なららこれ」というのは絶対にないと思っています。そこで「ちょっと」、「多少は」という誤差をきかせることが大事だと思っています。

チームに欠かせない「グルー」の存在

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