第17回:「就活ルール」変更後の新卒採用手法

大変革時代における組織・人事マネジメントの新潮流

前回の記事(第16回「採用ルール変更のインパクト」)では「採用選考に関する指針(以下、就活ルール)」の取り扱い変更や、そこから波及する企業・学生それぞれへの影響についてEYの調査結果をもとに解説しました。その中で企業が青田買いに向かい、若年層(大学2年生以下の学生)の囲い込み競争が激化していくことについて言及しました。今回は、上記のような過酷な人材獲得競争の中で企業がどのように優位性を保っていくべきか、具体的な事例を交えながら解説していきます。

採用競争で優位に立つためには「インターン」が重要

「図1」は学生が企業を知り、入社するまでの5つの段階(ステップ)を示したものです。企業はこれまで「(1)知る」と「(2)興味をもつ」に対しては会社説明会やホームページのコンテンツ拡充などに注力し、一定の対応を行ってきました。一方で、「(3)業務の体験」と「(4)愛着(ロイヤリティ)の醸成」に関しては、就活ルールの制約により採用選考の期間内でしか対応することができませんでした。そのためこの(3)と(4)は、就活ルールによる時間的制約から解放された際に、より自由な設計が可能となる部分となり、他企業との大きな差別化要因となることが想像に難くないものと思います。

図1:学生が入社に至るまでの段階と人材獲得のための差別化要因
そして今後、企業が「(3)業務の体験」と「(4)愛着(ロイヤリティ)の醸成」という2つを実現しようとした際、施策の筆頭候補となるものが「インターン」であると筆者は考えています。実際、我々の意識調査結果(※1)では、4割以上の学生がインターンを就職活動の主な情報源ととらえていることが判明していますし、企業インターンシップの効果検証調査(※2)を見てみても、インターン参加者は入社後の満足度や就業継続意向が高く、転職意向が低いという結果が出ています。経団連と国公私立大学の代表者により構成される「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」で取りまとめられた「Society 5.0に向けた大学教育と採用に関する考え方(※3)」においても、企業と学校側がインターン(長期)を柱として学生の専門性深化や社会へのオンボーディングを計画しています。これらのことから、インターンが担うべき役割は非常に大きいものであると言えます。

それでは、他企業との差別化するためのインターンとして具備すべき要件とはどのようなものでしょうか? 以下に主なポイント3点をご紹介します(時間的制約から解放された後の話であるため、長期インターンを前提とした要件となります)。

【インターンが具備すべき要件】
1、疑似体験でなく実務を通じて社員と協業できること
2、スキル獲得や自己成長につながること
3、有給であること


まず、「1、疑似体験でなく実務を通じて社員と協業できること」に関しては、企業−学生間で起こりがちな入社後の期待値GAPを最小化し、マッチング精度を高めることが狙いです。

続いて、「2、スキル獲得や自己成長につながること」に関しては、主に愛着(ロイヤリティ)の醸成および囲い込みの観点で重要になります。すなわち、インターン先の企業で獲得したスキルを継続的に活かし、将来も発展させ続けることができるということを学生に感じてもらい、卒業後も継続して働いてもらうための意識付けを行うことが狙いとなります。具体的な例をご紹介すると、とある海外のプロフェッショナルファームにおいては、大学1年生からインターンを開始し、卒業と同時に当該企業に就職した際には現場のリーダー格で採用するといった運用を行っており、給与面やキャリアパスの観点からも学生が企業を選ぶための大きな意思決定要因となっています。

最後の「3、有給であること」については、学生が学業の他に企業でインターンを実施するための負担を軽くすることが狙いです。我々の意識調査(※1)では、「50%近くの学生がアルバイトに力を入れている」という結果が出ています。こういった生活費や活動費を稼ぐ必要がある優秀学生に対しても、お金を心配せずに実務の体験やスキルの獲得に注力できる環境を与えることで、上記「1」と「2」の狙いを達成することが容易になるものと考えられます。

上記を実施しようとする際には、自らの企業の魅力はどこにあるのか、実務を通じてその魅力をどのように伝えていくのかについて解を出す必要があります。より具体的な魅力への訴求が、より大きな差別化の要因につながることは言うまでもありません。このような点に留意しながらインターンの仕組みを構築していくことが、人材獲得競争の優位性を高めることにつながるものと認識しています。

【出典】
※1:EY Japan「新卒採用に関する調査2020と今後の採用・就職活動に関する提言」2020年5月27日
※2:パーソル総合研究所「企業インターンシップの効果検証調査」2019年1月
※3:日本経済団体連合会「Society 5.0に向けた大学教育と採用に関する考え方」2020年3月31日

情報発信は「学生の身近なコミュニティ」をターゲットにする

一方で、どんなに魅力的なインターンの仕組みを構築したとしても、その良さが知られなければ意味を成しません。そのため企業はブランディングやプロモーションにも力を入れ、学生への周知をぬかりなく行っていくことが重要です。前述の「Society 5.0に向けた大学教育と採用に関する考え方(※3)」においても、企業が行っている活動や企業が求める人材像について、より具体的な内容を学生に伝えていくことが重要であると言及されています。

それでは、企業はどのようにプロモーションを行っていくべきなのでしょうか? 「図2」は、学生が就職活動を行う際の主な情報源についての意識調査(※1)の結果です。今回、筆者が注目したいのは最下部の、学生は「身近な者が発信する情報」も就職活動で活用しているという部分です。「社員紹介」や「就職ポータルサイト」よりも活用されており、「合同説明会」に迫る勢いでその情報価値が認められていることがわかります。

図2:学生が就職活動を行う際に使用する主な情報源
一方で、これら学校組織に企業が直接アプローチすることのハードルを考えると、代替として学生団体や部活・サークルなどを経由し、「学生の知人コミュニティ」から接点を作っていくことも有用な施策であると筆者は考えます。

そして、これらのコミュニティに属する同質的な候補者を母集団形成することを目的として、「最初の1人」に対してインターンを通じて企業の取り組みを知ってもらうことは、ブランディングの第一ステップとして有効な施策です。実際に、学生コミュニティや個人に対してアプローチをかけている企業は既に存在しており、「就活カフェでの接点づくり」や「任意の学生団体加盟者を選考プロセス内で見つけて交流を深める」など、あの手この手で学生との接点を増やし、企業の良い点をアピールしています。

このように、ある程度、採算性や労力を度外視してでも「学生の口コミ」を活用してプロモーションを行っていくことが、採用競争の中で優位性を保つためのポイントです。手間がかかる分、他の企業から優位性を奪われる(ひっくり返される)リスクも少ない方法であると言えます。

おわりに:本当に必要な人材の量と質を見極めることが採用の始まり

第16回・第17回の2回にわたり、「就活ルールの変更による影響」と、それを踏まえたうえで「企業がとるべき採用手法」について解説してきました。ルールが変わったらどのように人を採用すればよいのか……と、手法ばかりに目が行きがちですが、「そもそも、会社にとって、どのような人材が何人必要なのか」という点を(過去に引きずられずに)見極めておくことが必要であることは言うまでもありません。

本記事が、激化する新卒採用競争を勝ち抜き、企業が発展していくための一助となれば幸いです。
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著者プロフィール

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープルアドバイザリーサービス  シニアマネージャー Workforce, Leadership & Talent Offeringリード
小野 裕輝

IT系・外資系コンサルティング会社を経て現職。企業戦略策定・変革に際したプランニングからエグゼキューションまでのワンストップサービス提供に強みをもつ。主に金融機関と製造業を担当しており、取り扱うテーマは要員・人件費管理や人材確保・育成、組織改革、業務(IT)改革、人事制度策定、企業再編(M&A)など多岐にわたる。また、2014〜18年にはシンガポールに出向。アジア全域の日系企業を支援した経験を持ち、現在もグローバル案件を数多く手掛けている。
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