見えないコストの落とし穴

本書に話を戻しまして、第18章の「ピープルアナリティクス 10の落とし穴」を見てみましょう。とくに多くの企業がはまっていると感じるのが、「落とし穴その7:ピープルアナリティクスチームに十分な資金を投入しない」です。では、どのように、何に予想外のコストがかさんでしまうのかを詳しく見ていきたいと思います。

ピープルアナリティクスに着手しはじめた企業がまず取り組むのは、現在使用している各種HRシステムの特定と、そこからの人事データ取得です。取得したデータをBIツールで調理し、そこからさまざまなインサイトを導き出そうと数名のデータアナリストやデータサイエンティストを雇うわけですが、多くの場合この作業にどれだけの工数がかかるかを甘く見積もってしまいます。

BIツール導入費用とアナリストの採用費≒ピープルアナリティクスの初期予算と捉えることが多いようですが、プロジェクトが進むうちに大抵人事データの複雑さ/煩雑さが判明し、データクレンジングやデータパイプライン構築を担当する、データエンジニアリングの専門家が必要だということが分かります(※4)。また、バックエンドにおけるデータウェアハウス構築のノウハウをもつ開発者や、データによるインサイトを現場に浸透させ、人事制度変更などのプロジェクト推進を行うプロジェクトマネジャーやHRビジネスパートナーも不可欠だと気づきます。

以下、実際に人事システムからツールを構築し、現場に対してタイムリーにインサイトを提供するのために必要な開発プロセスをまとめました。パッと目につくところ以上に、裏ではさまざまな必要リソースがあるのです。
先日お会いする機会があった某大手メーカー企業のピープルアナリティクスチームマネジャーも、まさにこのトラップにハマってしまい、人件費とデータウェアハウス、BIツール、その他開発費を含め、すでに予算を大幅に超える1億円ほどの費用が発生してしまっていると話していました。図解すると、見えない間接コストは以下のようなイメージでしょうか?
うっかり間接コストの落とし穴にはまらないためにも、最初から必要になりうるリソース全てをしっかりと把握し、(予算枠が調節できないのであれば)分析対象とするデータ群や連携システム数、または解決する課題のスコープを絞り、まずは小さく手堅く成果につなげることを推奨します。最初から予算の足りないプロジェクトに大風呂敷を広げて挑み、あとで「やっぱり足りなかった」となるより、最初からスコープを狭めた中で確実な成果を出し、それを根拠に追加調達した方が、マネジメントの納得性も向上するでしょう。

最後に、パナリットではそもそもこの膨大に膨れ上がるコストがピープルアナリティクス普及の阻害になっていると考え、バックエンドのデータ収集/ETL作業からフロントエンドのダッシュボード提供まで、一気通貫のピープルアナリティクスソリューションを、従来のコストの1〜3割程度で提供しています。データに基づく客観的な人事の意思決定を、一部の裕福な企業だけでなく、すべての企業が平等に行えるようになった先には、きっとより良い働き方や良い職場の実現があると考えています。

今回は「一度証明されたインサイトも時と共に変わる」ことや、「見えない間接コストの落とし穴」について触れました。本連載もいよいよ残すところ2話となりましたが、最後までどうぞよろしくお願いいたします。次回もお楽しみに!


※4 人事データの複雑性や、効果的なデータクレンジングを行う上で必要なデータクレンジングの考え方を、弊社ブログで解説しています。(パナリットのデータクレンジング参照)

【参考】
People Analytics for Dummies, Mike West (2019)
Google spent a decade researching what makes a great boss, Justin Bariso (2018)
  • 1
  • 2