Googleエンジニアの工数を年間10,000時間削減した面接のデジタル化プロジェクト

例えば、年間エンジニア工数を10,000時間削減することにつながった「面接のデジタル化プロジェクト」も、アナリストとプロジェクトマネジャーが二人三脚で進めたことにより、大きな成果が得られました。もともとプロジェクト発足のきっかけは、エンジニア面接のボリュームが爆発的に増加した時期に面接の効率化が求められたことでした。また、採用に業務時間を奪われることを快く思わない社員も増えていたので、面接官自身の採用体験の向上も改善すべき重要なポイントとして掲げられました。

当時のGoogleでは、エンジニア面接はホワイトボードにコードを書いてもらう方式を取っていたので、面接後に面接官がフィードバックメモをパソコンで書き起こし、それから評価を提出するという作業が発生していました。私たちはここに目をつけました。
もし、面接官がホワイトボードに書かれたコードを書き起こす必要がなくなったとしたら、どれくらいの作業効率化につながり、面接官の採用体験はどれだけ向上するだろう? また、それによって候補者の体験や面接精度は損なわれないだろうか? これらを検証する必要があります。
こうした検証ポイントを実証実験するにあたり、まずはエンジニアのコード面接が、年間でどれだけ行われているかを調べました。そしてアナリストが、「何千人の面接官と何万人の候補者が影響を受けるか」や、「面接工数削減にどれだけのインパクトを与えることができそうか」などの指標を明確化しました。同時に、プロジェクトマネジャーは、このアイディアを実現するために「誰を巻き込む必要があるか」や、「どのくらいの予算が必要か」、そして「どのような要員構成で施策を進めるべきか」の設計をしました。

プロジェクトを進めるべきと確信が持てるデータが集まったら、まずは小さく「パイロット・テスト」を行います。わたしたちはどのような大きな施策でも、まずは小さく先行テストを行うことで迅速に学ぶことを大切にしていました。人事はやはり「人」に関わることですから、とても複雑で、ある文脈で良かれと思って進めた施策が別のところでとんでもない影響を与えてしまうことが往々にして起こり得ます。予期せぬ負の影響が大規模に派生しないためにも、小さくパイロット・テストを行うことは非常に大切とされていました。

パイロット・テストは、最小限の労力で必要十分なラーニングを得られるだけのスコープで行うことを前提とします。スタートアップの世界に「Minimal Viable Product(価値を提供できる最小限の製品やアプローチ。略称MVP)から始めるべき」という考えがありますが、ここでのアプローチもそれに似ています。

このプロジェクトでまず学ぶ必要があったのは「面接体験がデジタル化することでどのくらいの時間削減が実際に見込めるか」と「候補者・面接官それぞれの体験や面接精度にマイナスの影響がないか」ということです。これを測定するのに必要なMVPは、Google docsの共有ドキュメントを候補者と面接官それぞれに渡し、それを使って面接をしてみてもらうことでした。私たちはこのパイロット・テストで多くを学びました。「このアプローチは面接1回あたり書き起こしの時間を平均10分削減する」、「候補者の体験を損ねず、面接官の体験を向上させる」、「テキストのベタ打ちは普段の環境と異なるので使いづらい。言語に合わせたカラーコードがあるとなお良い」、「面接用のPCを取りにいくのが面倒くさい」など、総論として良い影響が見込めそうかという判断と、何を行えば体験がより向上するかを示すデータを十分に治験から取得できました。

次は実施フェーズです。パイロット・テストの学びを活かし、実際に組織全体に適応するのに十分耐えうるプロセスと製品に落とし込みます。このプロジェクトでは面接専用のアプリを開発し、各部屋に設置された面接専用のパソコンにインストールすることにしました。このあたりまでくると、どのくらいの予算や期間が必要かと、どの程度の回収が見込めるかがだいぶはっきりしてきます。アナリストが面接の今後の伸び率や面接に使用される部屋の数から必要なパソコンの台数などを算出し、プロジェクトマネジャーは新しいプロセスをどのように全世界の面接担当やリクルーターに浸透させるかのコミュニケーションプランを練ります。
このような形で、プロジェクトの各フェーズで常にデータと現場やユーザーからのインサイトを参考にしながら方向修正をし、結果的に全世界のエンジニア面接工程での効率化が行われ、年間エンジニア工数を10,000時間削減することに成功しました。貴重なエンジニアの時間を、面接ではなく本業のプロダクト開発に還元できたことはビジネスインパクトに直結します。「ピープル・アナリティクスは面白いけれど、結局役に立たないよね」などとは、もはや言えないでしょう。

結局のところ、ピープル・アナリティクスは、分析結果を用いて組織を良くしようと強く願い、行動に移せる人がいないと有効に作用しません。単体では結果にはつながらないのです。ただし、変革を起こそうというパッションをもって取り組むならデータはきっと正しい指針を示してくれるでしょう。

今回は、データを鵜呑みにせずに、データ収集時のコンテキストや裏の事情に気をつける必要性と、分析結果をアクションにつなげるためにプロジェクトマネジャーが果たす役割の重要性についてお話しました。次回は「Customer Experience(顧客体験)」 対 「Employee Experience (従業員体験)」をお題に、マーケティングにも共通する“人の心の科学”を、人事の観点で解説します。
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