第9話:インドネシアでの巨大プロジェクトに挑む大林組の困難と熱き想い

海外進出企業の「人と組織の活性化」〜インドネシアに架ける熱き想い〜

誰か一人が決めることを嫌がる国民性

中村もう一つ大きな特徴は、この国が「意思決定しにくい社会」といえることかもしれません。なぜかというと、政府機関、国有企業などに対して監査を実施するBPKP(財政開発監督庁)という大統領直属の独立機関があって、問題が発覚した際は、その意思決定をした個人が責任を問われ、刑務所に入れられてしまうリスクがあるそうです。そのため誰もが、進んで物事を決めようとしません。何か意思決定をしなければならない会議の場合、関係者が皆それぞれの立場からバラバラな意見を言った後、最終的には全員で決めた、という証拠を残すために、全員で議事録へサインをするということがよくあります。

稲垣 急に法律が変わったり、依頼内容が変わったりするなど、与件変更が多いインドネシアで、変化に対応するのにも時間がかかるというのは一層大変ですね。

中村 そうですね。我々が入札した数量が100だったとして、何かの理由で200になった場合、100は追加になりますよね。その100の承認を得るために、さまざまな資料を提出し、さらにはBPKPの監査に備えてあれもこれもと要求されるため、どうしても多くの時間がかかってしまうのです。

政府の影響力が強い国

稲垣 MRTプロジェクトは国をあげての一大事業なので、インドネシア政府からも非常に注目されていますね。

中村 はい。大統領は地下トンネル工区には、何度も来られています。他のASEAN諸国でも、大統領が来られるというのはなかなかありません。日本でも開通式に出てくるのは大臣クラスです。このプロジェクトは、今のジョコウィ大統領がジャカルタ州知事の時に始めたプロジェクトなので、絶対に成功させないといけない。しかもこれは日イ協力のフラッグシッププロジェクトの一つ、という位置づけですからね。

しかし昨年、ジャカルタ州知事が、アホック前知事(ジョコウィ大統領が州知事の時の副知事)からアニス知事に代わったときは、ハラハラしました。新しい州知事がMRTプロジェクトに懸念を示したらプロジェクト自体が止まってしまうかも、という緊張感が走りましたね。ですが、早い段階でアニス知事に「MRTは重要だから継続する」という声明を出していただいたので、一同ほっとしました。

インドネシアを人材のハブとしてアジアに羽ばたかせたい

稲垣 大変なプロジェクトでさまざまなご苦労があると思うのですが、その中でこのプロジェクトを成功させる、中村所長のモチベーションは何なのでしょうか。

中村 MRTプロジェクトを絶対に成功させること。これに尽きます。加えて、個人的なモチベーションとしては、このプロジェクトを通じて、アジアで活躍するコア人材を育てることでしょうか。

稲垣 そのコア人材というのは、日本ではなく、インドネシア人の人材を育てるということですか?

中村 そうです。日本人も大事ですが、基本的には駐在員ではなく、ローカル人で自信を持って仕事を任せることができる、そんな人材を育てたいと思っています。インドネシアは他のアジアの国々へアクセスも悪いわけではないし、インターネット環境も整っているし、人件費もシンガポールなどに比べるとまだ安い。ですから、そういう人間を育てるために、難しいタスクをどんどん任せて経験を積ませたいと思っています。1ヵ国で見ると継続性のある工事量は限られるため、工事がない時にはチームを解散しなければならないのですが、アジア全体で見ると常に工事はある。その大きなネットワークのコアとなる候補地として、ジャカルタも良いのではないかと考えています。

稲垣 優秀な人材がインドネシアにもたくさんいますからね。

中村 確かに、納期を遵守する点やクオリティに関しては、全体的に日本人のほうがレベルが高いと思いますが、インドネシア人の中にも、とても優秀で非常に高いポテンシャルを持つ人材がいます。彼ら、彼女らは日本の優秀な若者と比べても遜色ありません。要は、その若者たちをどう育てるか、また魅力ある環境をどのように提供できるかが、我々にかかっていると思います。

日本にいる日本人の方に向けてメッセージをお願いします。

中村 是非海外へ来て自分の能力でどこまで通用するのかを試してみたらいいのではないでしょうか。日本では今、時短勤務などにクローズアップした働き方改革が叫ばれていますが、海外ではある意味その流れに逆行しているため、日本より仕事は厳しいかもしれません。しかし強い責任感を持ち、自分たちで考え、ローカルスタッフの力を借りてやっていかなくてはならない状況の中で、「自分は何ができるか?」を探してほしいなと思います。私は、責任というのは、その人の能力を圧倒的に上昇させるために必要不可欠な要素だと思っています。責任感を持つことによって、プレッシャーを感じつつも、次第にそれがモチベーションに変わり、成長スピードが加速していきます。

著者プロフィール

株式会社エイムソウル 代表取締役 PT. Bridgeus Kizuna Asia Director 稲垣隆司

1975年大阪生まれ、同志社大学卒業。急成長したベンチャー企業で人事部責任者を務め、年間600名の新卒採用の仕組みを作る。その後人事コンサルティング会社でコンサル部門責任者として年間100社の採用をサポート。2005年株式会社エイムソウルを設立し300社を超える顧客の人事課題解決に取り組む。2014年インドネシアに進出し、現地でPT. Bridgeus Kizuna Asiaを設立。日系企業に特化して人事課題解決に取り組む。毎月日本とASEANを行き来しながら活動中。

●株式会社エイムソウル 概要
「すべての人に、生きがいを」をミッション(理念)として掲げ、採用・教育コンサルティングサービスを行う。
「活躍する外国人を見抜く適性検査」CQI(https://www.aimsoul.com/global/)のβ版を2019年4月にリリースした。また、マインドセット研修「TOP GEAR」やプロジェクト型研修「NEXT GATE」、ASEANローカルスタッフのスキル・マインドセットe-Learning
「Bridgeus」、インターン、選考、研修用グループワークのレンタルサイト「Groupwork.com(https://hr-groupwork.com/)」など課題解決を図るサービスを延べ1万人以上に提供している。
株式会社エイムソウル 公式サイト

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