この米国訪問は、時期的にも非常に恵まれていました。ちょうどこの頃、米連邦政府の雇用差別撤廃法に各州が批准し、米企業は、特にマイノリティとされる女性社員の活用と管理職への登用推進を始めていました。
第10回 米国でダグラス.W.ブレイ博士と出会う
私達訪問団のコースは、サンフランシスコを皮切りに、シカゴ、ニューヨーク、ワシントン、カンザスシティ、ロスアンジェルスと、主要都市を順次巡回。最初に訪れたサンフランシスコのバンク・オブ・アメリカでは、女性管理者達と会議の場を設け、副社長が私達に同社の女性活用方針を語ってくれました。シカゴ銀行では、女性社員は制服の色を、皮膚の色に合わせて3種類の中から好みで選べるようになっていることを紹介され、驚かされました。

ニューヨークの保険会社では、当日、訪問団の一人が誕生日だったので、それを祝ってバースデイ・ケーキでもてなしてくれ、いかにも女性らしい心遣いを見せてくれました。メーシー百貨店では、女性達の綿密な商品検査に感心し、IBMのポキプシー工場では、6ヵ月先に日本の総友会関連の訪問団が訪れる予定があったにも関わらず、私達にも丁寧に説明してくれました。

ワシントンの米国政府・婦人少年局では、女性スタッフから大変面白い話が聞けました。彼女達は冗談まじりに、次のようなアイデアを話してくれたのです。

「米国でも職場の女性活用が少ない会社があって、妻が働きに出るのを嫌う人などは、妻が妊娠状態で、おまけに靴を履かせないようにしておけば外に働きに出ないとして、『ベアフット・イン・プレグナンシー』という言葉を持ち出すことがあります。私達はいっそこの表現を示すメダルを創って、女性活用をしない会社にそのメダルを贈呈しようと思っています」というものです。彼女達がどこまで本気かは分りませんが、みんなで大笑いしました。このような女性活用を推進している主役は、政府の婦人少年局の女性スタッフ達でした。

米国電信電話会社(ATT)のダグラス.W.ブレイ博士は、私達のチームに一日中付き合ってくれました。博士の話のなかで訪問団がとくに強い感銘を受けたのは、人材の能力評価の話でした。

AT&T社が、管理者候補として男女同数の大学卒の新人を採用し、就業の3、4年後に、実際に管理者へ昇進した確率を調べたところ、男性の比率が圧倒的に高かったとのこと。そこで、未昇進女性の管理能力をアセスメント技法で調べるため、全米に3ヵ所のアセスメント・センターを作って実施。未昇進の女性でもアセスメントにおいて管理能力ありと認められれば、差別撤廃の法律に基づき、本来なら昇進出来たはずの時期に遡って給与の追加を受け、空席が出次第、昇進させるとのことでした。

この話を聞いて私は博士に、「MSCがセミナーをやりますから、来日してそのようなアセスメントの話をして下さい」と頼みました。帰国後、社長に報告すると「それは良い。是非やろう」と積極的に賛成してくれ、博士からは、「来年(1972年)の8月にハワイで応用心理学会があるので、その後で訪日します」と返事をいただくことができました。スムーズにことが運び、万々歳でした。
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