新型コロナウイルス感染症の5類移行を受けてさまざまな需要が回復する中で、
転職市場も活気を取り戻しつつある。また、多くの業界におけるDX化の進展に伴い、高度な専門性を有する人材の獲得競争は一層激しさを増している。
このような変化の中で企業は効果的なキャリア採用からオンボーディングに向けて、どのような施策を講じているのだろうか。
HR総研では、各企業におけるキャリア採用に関する取り組みや課題、成果等について、最新動向を調査した。調査結果をフリーコメントも含めて以下に報告する。

2023年度のキャリア採用の計画数、大企業の4割で増加

まず、キャリア採用を行う人事部門の組織体制や、2023年度のキャリア採用の状況について見てみる。
「キャリア採用を行う組織体制」について企業規模別に見てみると、従業員数1,001名以上の大企業では「新卒採用と兼務している」が最多で49%、次いで「キャリア採用専任の担当がいる」が37%などとなっている。301~1,000名の中堅企業では「新卒採用と兼務している」が最多で39%、次いで「採用以外の業務と兼務している」が31%、「キャリア採用専任の担当がいる」が22%などとなっている。300名以下の中小企業では、「採用以外の業務と兼務している」が最多で46%と、5割近くに上っている。中小企業では9割以上が他の業務と兼務の体制となっていることが分かる(図表1-1)。

【図表1-1】企業規模別 キャリア採用を行う組織体制

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

2023年度の「キャリア採用」採用計画数を企業規模別に見ると、大企業では「11~30名」が最多で18%、次いで「51~100名」、「101名以上」がともに17%などで、「採用予定なし」は11%となっている。中堅企業では「1~5名」が31%、「6~10名」が22%、「11~30名」が16%などで、「採用予定なし」は20%となっている。中小企業では「1~5名」が46%、「採用予定なし」は34%と3分の1を占める。「採用予定なし」の割合は、前回調査時(2022年度)と比較すると、大企業では14%から3ポイント減少、中堅企業では26%から6ポイント減少、中小企業では42%から8ポイント減少となっており、いずれの企業規模でも、キャリア採用を実施する企業がやや増加していることが分かる(図表1-2)。

【図表1-2】企業規模別 2022年度の「キャリア採用」採用計画数

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「キャリア採用の計画数の増減(前年度比較)」を見ると、いずれの企業規模でも「ほぼ同じ」が最多ながら、大企業では「増えている」が42%と、キャリア採用の計画数を増加させている企業も多いことが分かる。中堅企業では「増えている」は27%、中小企業では20%となっており、企業規模が大きいほどキャリア採用を前年度比で拡大している。この傾向は前回調査と同様である。一方、「減っている」の割合はいずれの企業規模でも1割以下にとどまっており、現状では、これまでと同等かそれ以上の規模でキャリア採用を実施している企業が大半であることがうかがえる(図表1-3)。

【図表1-3】企業規模別 2023年度のキャリア採用の計画数の増減(前年度と比較)

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2023年度の11月時点における「キャリア採用計画数の達成率」について、企業規模別に見てみると、「すでに達成した」と「80~100%未満」との合計は大企業では45%、中堅企業では34%、中小企業では23%となっており、大企業ほど採用が計画比で順調に進行していることが分かる。中小企業では、「20~50%」と「20%未満」との合計が44%と、計画の半数未満の採用数にとどまっている企業が4割以上に上っており、キャリア採用に苦戦していることがうかがえる(図表1-4)。

【図表1-4】2023年度「キャリア採用」採用計画数の、11月時点での達成率

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募集職種、大企業では「IT関連関連職」が最多で6割

2023年度キャリア採用を実施している企業における募集職種について企業規模別に見てみると、大企業では「IT関連職(AI・データ分析除く)」が最多で57%、次いで「営業職」が49%、「商品企画・マーケティング」40%などとなっている。中堅企業では「営業職」が最多で66%、次いで「人事・総務」が37%、「経理・財務」が29%などとなっている。大企業と中堅・中小企業とで傾向が異なる職種としては、「IT関連職(AI・データ分析除く)」や「AI・データ分析関連職」などがあり、いずれも大企業において高い割合で募集している。コロナ禍を経て事業の変革・拡大フェーズにある企業も少なくなく、管理部門の強化や営業部門の拡大を進めている中堅企業と、DX推進等のためIT関連の人材を求めている大企業の特徴が見て取れる結果となった(図表2-1)。

【図表2-1】企業規模別 2023年度「キャリア採用」で募集している職種

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「特に採用難易度が高いと感じている職種」では、「IT関連職(AI・データ分析除く)」が最多で27%、次いで「営業職」が18%、研究開発職が14%などとなっている。「IT関連職(AI・データ分析除く)」は前回調査に続いてトップとなっており、図表2‐1で見たとおり、特に大企業からの需要が高く採用の競争率が高い職種となっている(図表2-2)。

【図表2-2】募集職種のうち、「特に採用難易度が高い」と感じている職種

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次に、「キャリア採用で募集している階層」については、「一般社員(中堅層)」が最多で85%、次いで「一般社員(若年層)」、「係長・主任クラス」がともに59%などとなっており、前回調査とほぼ同じ傾向となった(図表2‐3)。

【図表2-3】2023年度「キャリア採用」で募集している階層

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「キャリア採用で募集している年齢層」については、「30~34歳」が最多で86%、次いで「35~39歳」が76%、「26~29歳」が74%などとなっている。こちらも前回調査から大きな傾向の変化は見られなかった(図表2-4)。

【図表2-4】2023年度の「キャリア採用」で募集している年齢層

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候補者の、パーパスや経営理念への共感度を重視する企業は6割

次に、キャリア採用に関する企業の方針や取組み状況について、採用のプロセスと入社後の環境の2つの観点から見てみる。
まず、採用プロセスに関する項目では、「パーパスや経営理念への共感度を重視する」という方針について、「あてはまる」(19%)と「ややあてはまる」(42%)とを合計した「肯定派」(以下同じ)が61%となっており、約6割が候補者のパーパス・経営理念への共感度を重視して採用を行っていることが分かる。「候補者に組織文化・行動指針を明示する」と「社内でのキャリアパスに関する情報提供を行う」については「肯定派」がいずれも68%となっており、組織文化やキャリアパスに関する入社後のミスマッチを避けるための情報提供については7割近くの企業が実施していることが分かった。「現場と連携し要望を把握して採用を行う」については「肯定派」が84%となっており、求められている人材要件を把握するための現場との連携については8割以上の企業が取り組んでいることが分かった(図表3-1)。

【図表3-1】キャリア採用に関する方針・取組み状況(採用プロセス)

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入社後の環境に関する項目では、「スキルアップのための学習機会を提供している」については「肯定派」が67%、「多様な働き方ができる体制の整備」は「肯定派」が62%などとなっている。「社員のエンゲージメント向上に努めている」についても「肯定派」が67%で、入社後の環境の整備に関する取組みについては、6~7割の企業で取り組まれていることが分かった(図表3‐2)。

【図表3-2】キャリア採用に関する方針・取組み状況(入社後の環境)

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応募者数の確保に課題を抱える企業が多数

続いて、キャリア採用の成果や課題について見てみる。
まず、成果について見てみると、「全体の応募者数の確保」は「成果が出ている」(5%)と「やや成果が出ている」(34%)とを合計した「成果が出ている派」(以下同じ)は39%となっており、十分な数の応募者数を確保できている企業は4割にとどまっている。「ターゲット層からの応募」については「成果が出ている派」は43%と、こちらも約4割となっている。「ターゲット人材の採用」については「成果が出ている派」は54%、「入社後のパフォーマンス発揮」については「成果が出ている派」が71%となっており、採用プロセスに乗った後の入社率や入社後のパフォーマンスよりも前段階の、「応募者の確保」の段階で課題を抱えている企業が多いことがうかがえる(図表4-1)。

【図表4-1】キャリア採用の成果

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「キャリア採用における課題」については、「ターゲット層の応募者が集まらない」が最多で59%、次いで「応募者の絶対数が少ない」が56%、「採用コストが高い」が25%などとなっており、新卒採用と同様に母集団形成に苦戦していることがうかがえる。人事部のリソース不足や内定辞退などの課題も一定数挙げられていたが、やはり応募者の確保の段階で頭を悩ませている企業が圧倒的に多いことがうかがえる(図表4-2)。

【図表4-2】キャリア採用における課題

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キャリア採用の社員が活躍している企業が選考時に重視している項目は?

「キャリア採用の選考時に重視する項目」については、「経験職種」が最多で80%、次いで「人柄」が57%、「転職理由」「仕事での成果」がともに43%などとなっている(図表5-1)。

【図表5-1】キャリア採用の選考時に重視する項目

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「キャリア採用の選考において重視しない項目」については、「勤務した会社名」が最多で50%、次いで「卒業大学等」が48%などとなっている。キャリア採用においては、新卒採用で注目されるような卒業大学や前職の勤務先といったブランドよりも、実際の業務経験や仕事での成果が重視される傾向にあることが分かる(図表5-2)。

【図表5-2】キャリア採用の選考において重視しない項目

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

キャリア採用で入社した社員が、期待通りのパフォーマンスを発揮している企業においては、どのような項目を重視して選考を行っているのだろうか。
「入社後のパフォーマンス発揮」について、「成果が出ている企業」と「成果が出ていない企業」についてそれぞれキャリア採用で重視する項目を見てみる。「経験職種」「人柄」を重視する点については、成果が出ている企業も出ていない企業も同様の傾向となっている。両者で特に傾向が異なる項目は、「仕事での成果」であり、入社後のパフォーマンス発揮の成果が出ている企業では49%が重視している一方で、成果が出ていない企業では29%と、20ポイントの差が見られた。また、「志望動機」についても成果が出ている企業では39%が重視しているが、成果が出ていない企業では23%となっており、16ポイント差となった。キャリア採用の社員の入社後のパフォーマンスにある程度満足している企業では、経験職種や人柄だけでなく、自社で活躍できる人材かどうかを見極めるために、志望動機や前職での仕事の成果についてもシビアに見ていることがうかがえる(図表5‐3)。

【図表5-3】成果(入社後パフォーマンス)別 キャリア採用の選考時に重視する項目

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多様な働き方の体制整備が進んでいる企業では、リファラル採用で成果あり

続いて、「キャリア採用で成果が出ている手段・サービス」について見てみると、「人材紹介」が最も多く60%、次いで「転職サイト」が42%、「リファラル採用(従業員からの紹介)」が27%などとなっており、傾向としては概ね前回調査と同様となった。人材要件を明確にしてスキル面でもマッチする人材を探す必要があるキャリア採用では、新卒採用とはやや傾向が異なり、「人材紹介」や「リファラル採用」を活用している企業が多いことが分かる(図表6-1)。

【図表6-1】キャリア採用で成果が出ている手段・サービス

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「今後、利用が高まると思われるキャリア採用の手段・サービス」については、「リファラル採用」が最多で44%、次いで「人材紹介」が42%、「転職サイト」が36%などとなっている(図表6-2)。

【図表6-2】今後、利用が高まると思われるキャリア採用の手段・サービス

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図表3‐2で見た、「多様な働き方ができる体制の整備」について、「体制が整っている企業」と「体制が整っていない企業」について、それぞれ「キャリア採用で成果が出ている手段・サービス」を見てみる。最も両者の差が大きかった項目は「リファラル採用(従業員からの紹介)」で、多様な働き方ができる体制が整っている企業では36%であるのに対し、整っていない企業では11%となっており、25ポイントの顕著な差が見られた。自身が快適に働くことができていることは、知人への紹介の動機にもなるため、多様な働き方ができる体制が整っている企業ではリファラル採用が上手く機能する傾向にあることがうかがえる(図表6‐3)。

【図表6-3】取組状況(多様な働き方)別 成果が出ている手段・サービス

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効果を実感しているオンボーディング施策「上司との定期的な面談」が最多

キャリア採用者の定着や早期戦力化を目的として実施している「オンボーディング施策」については、「上司との定期的な面談(対面)」が最多で54%、次いでが「人事との定期的な面談(対面)」42%、「入社直後での導入研修」が40%などとなっている。前回調査と比較すると、「上司との定期的な面談(対面)」が9ポイント増、「人事との定期的な面談(対面)」が8ポイント増となっており、個別の面談によるフォローを行っている企業の割合が前回よりも高かった(図表7-1)。

【図表7-1】実施しているオンボーディング施策

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「効果を実感しているオンボーディング施策」については、「上司との定期的な面談(対面)」が最多で37%、次いで「人事との定期的な面談(対面)」が29%、「入社直後での導入研修」が19%などとなっている。(図表7‐2)。

【図表7-2】効果を実感しているオンボーディング施策

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「オンボーディング施策の具体的な内容」について、フリーコメントで回答を得た。一部を抜粋し、以下に紹介する(図表7-3)。

【図表7-3】オンボーディング施策の具体的な内容(一部抜粋)

具体的なオンボーディング施策従業員規模業種
入社1年間は定期的な配属研修を実施し、同期やメンター社員と業務外で相談できる機会やインプット研修を実施している1,001名以上サービス
定期的な人事&所属長との面談1,001名以上メーカー
メンターの設定1,001名以上メーカー
キャリア入社者研修兼懇親会で、対面で1日間ワークショップ中心の研修+懇親会 1,001名以上情報・通信
社員旅行301~1,000名メーカー
特に若年層の中途入社者には、新入社員と同等の研修を実施する301~1,000名メーカー
入社時期が近い社員との交流イベントや3ヵ月面談、研修など301~1,000名運輸・不動産・エネルギー
トップメッセージの発信301~1,000名商社・流通
配属部署でのロールモデルと教育担当を明示し、教育方針を明確化すること。それに応じた教育プログラムを構築すること。300名以下マスコミ・コンサル
webシステムを使用しての月一のアンケート実施(1年間)300名以下メーカー
エルダーという名称で先輩社員がひとり付き、いろいろな指導をし、何でも相談できる制度を運用しています。300名以下メーカー
メンター制度、飲み会制度、社長面談300名以下情報・通信

エンゲージメント向上に取り組んでいる企業の7割で定着率80%以上

「キャリア採用で入社した社員の定着率(直近3年間)」については、「80~100%未満」が最多で46%、次いで「50~80%未満」が29%、「100%」が14%などとなっている(図表8‐1)

【図表8‐1】キャリア採用で入社した社員の定着率(直近3年間)

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定着率について、エンゲージメント向上への取組状況別で見てみると、「エンゲージメント向上に取り組んでいる企業」では、「100%」と「80~100%未満」とを合計した「定着率80%以上」(以下同じ)が66%となっているのに対し、「エンゲージメント向上に取り組んでいない企業」では、「定着率80%以上」が48%と、取り組んでいる企業の方が18ポイント高い結果となった(図表8‐2)。キャリア採用では様々なバックグラウンドを持った人材が入社するため、組織への求心力として働くエンゲージメントの向上は、入社した社員の定着や、その後の活躍のためにも重要な取り組みであるといえる。

【図表8‐2】取組み状況(エンゲージメント向上)別 キャリア採用で入社した社員の定着率

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【調査概要】

アンケート名称:【HR総研】「キャリア採用」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2023年11月13~20日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:企業の人事責任者・担当者
有効回答:238件

※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
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